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第二章

第47話 欲張りは主人公の特権

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「そういえば、アルヴァさんが目覚めたらすぐ知らせてくれって言われてたんです!」
「トマスにか?」
「はい、今から知らせに行ってもいいですか。トマスさん凄くアルヴァさんのこと気にしていて……」

 スライム討伐直後に、治療に幾らかかってもいいから絶対助けてくれってノアさんに頭を下げてました。
 クロノの言葉に俺は少し驚く。彼とアルヴァ・グレイブラッドの関係は決していいものではない。
 トマスの息子を助けたことで軋轢が少しでも浅くなったなら不幸中の幸いだ。
 そういえばノアにも謝礼をしなければいけない。
 金銭的な面ではトマスが被ってくれそうだが余りに高額なら分担も考えなければならない。
 今後のことを考えればあの父子にあまり出費をさせたくはなかった。
 俺はクロノに声をかける。

「心配してるなら、悪いけど俺が元気だと知らせてくれるか」
「はい、今すぐ行ってきます!」

 俺の頼みに即部屋から出ていこうとする少女を慌てて引き留める。
 肝心なことを言い忘れていた。

「それと、クロノ。お前には才能がある」
「アルヴァさん……」
「この前ミアンの魔術を封印できただろ、その時点で凄いことなんだ」
「でもあれはアルヴァさんのお陰だと思います、それまでは全然使えなかったし……それに」
「それに?」
「向いてなくてもボクは魔術師じゃなく、やっぱり剣士になりたいんです……」

 そうクロノは少し暗い顔をして言う。実家での出来事を思い出しているのかもしれない。
 今まで彼女にはひたすら明るく元気な印象があったが、それだけでないことが今回判明した。
 大変なのは俺だけではないのだ。クロノだって物語の改変に人生を振り回されている。
 酷い目に遭い過ぎなのはエレナの上司である最高神とやらの性癖も関与してそうだ。
 俺が前世の記憶を取り戻さなければアルヴァを魔王にしてクロノを襲わせるつもりだったらしいが真剣に悔い改めて欲しい。
 俺の沈黙を怒りと取ったのか、少女が頭を下げる。

「ごめんなさい、馬鹿な事言って。剣の才能もないのに……」

 だから、ないわけがない。
 確かに剣の才能自体は唯一無二の天才レベルという訳ではないが魔法剣士にはなれるのだ。
 魔術も剣もどちらも巧みに扱えることの凄さをクロノは知らないのだろうか。
 俺は僅かに嫉妬を覚えながら考える。そして気づいた。
 俺は魔法剣士という職業について彼女に説明したことがない。
 クロノの父親も説明していないなら、そもそも存在自体を知らないのではないか。
 魔術に長けているからこそなれる剣士職があるということを。
 上級複合職なんて就ける人間が限られている。その可能性はゼロではなかった。
 頭を掻きながら溜息をつく。髪を洗っていないせいか脂っぽい感触にげんなりした。
 そしてクロノの宝の持ち腐れだった人生についても少しげんなりしている。
 
「じゃあお前、ノアは剣士として弱いと思うか?」

 唐突に出された名前に少女は驚きながら即首を振る。
 よかった。ちゃんとあの英雄の戦闘力は理解している。

「だよな。でもあいつも剣だけならそこまで凄くはない。俺の少し上ってぐらいだ」

 嘘だ。絶対剣技だけでも銀級の俺程度なら即殺する。
 しかしクロノからは何の突込みも入らなかった。だから言葉を続ける。

「だがノアは自分で自分を回復できるし攻撃魔術も使える。その上で剣で戦える。だから最強クラスなんだ」

 攻撃も治癒も妨害も一人でできるから継戦と単独戦に非常に優れている。
 その上で仲間がいれば補助も出来る。俺は万能の英雄の強さについて語った。
 いつしかクロノは先程までの暗い目が嘘のようにきらきらした顔で話を聞いていた。
 良くも悪くも本当に素直だ。だから簡単に人を信じ騙されてきたのだろう。
 魔法騎士になれば戦闘は単独で完結できるかもしれないが、対人関係ではサポートが必要なタイプだ。

「お前は簡単に言えば広く浅く多くの事が出来るんだ。戦力を上げるスキルもあるし更に魔力も腕力もある。なら組み合わせて戦えばいい」
「組み合わせて……?」
「ノアと同じ魔法剣士を目指せ。これは騎士の上級職だ。剣を活かす為に魔術を利用しろ」

 そうすれば前線で剣を振るって戦える。俺の言葉にクロノはぶるりと震えた。

「それは、じゃあ、ボクは……また、胸を張って剣士になりたいって、言っても」
「良い。俺が認める。お前は剣士になる為の努力をしていいし最強の剣士になれる」

 だから荷物持ちはもう卒業だ。
 俺が若干照れながらそう言うとクロノは若干鼻が詰まった声で答えた。

「いやです……」
「えっ」
「今まで通り荷物持ちもするしアルヴァさんのご飯とかも作るし剣も魔術も特訓します!」
「でも、それは大変だろ」
「大変だからこそ燃えます。それに全部出来たほうが多分強いので!」

 目指すなら剣と魔術以外にも色々できる剣士を目指します。
 そう太陽のように笑うクロノに俺は苦笑いするしかなかった。
 色々できる剣士になるとは一気に願いを欲張ったものだ。でも努力次第で叶うことを俺は知っている。
 多くの技術をハイレベルで扱えるようになった時、きっと彼女はあの称号で呼ばれるようになる。

「じゃあ今日から冒険者見習いじゃなく、勇者見習いだな」
「はい!!!!」

 黒髪の少女の元気過ぎる声に女魔術師がうるさいとナイフと林檎を片手に怒鳴り込んできた。

 
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