上 下
33 / 131
第二章

第33話 閃いたぴょん

しおりを挟む
「そもそも話が違う、あんな化け物と命がけで戦うと知ってたらこんなところ来なかった!」
「そうだ、自警団でまともに魔物と戦えるのなんてトマスぐらいなんだぞ!」
「そもそも俺たちに魔物退治任せてあいつ全然帰って来ねえじゃないか!」
「いや、戻ってきたけど怖気づいて隠れているのかもしれないぜ」
「ハッ、じゃあこのガキは親にさえ見捨てられたんじゃねぇか、俺は帰る!」
「俺も帰る!」
「俺も!」


 俺を地面に押し付けたまま無駄話をするのは止めて欲しいんだが。
 まあ言いたいことはわかるよ。気持ちもわかる。
 俺だって子供が捕まってなけりゃミアン連れて撤退してただろうさ。
 
 積極的に攻撃してくる巨大スライムなんて発情したオークの群れよりもタチが悪い。
 直接攻撃は通らない癖に向こうは強烈な打撃を放ってきやがる。
 でもそれでも、あと少しで勝てそうなんだよ。お前らは全く信じてくれないけど。

 そう、悪役(クズ)のアルヴァには信用される要素がない。
 逆に信用した奴が馬鹿を見るんだ。冒険者の経験を積ませてやると騙されこき使われているクロノとか。
 これが有名な勇者や英雄と呼ばれる奴だったら話は違ってたのかな。
 魔物に怯えるこいつらを激励して信頼を勝ち得て協力させたんだろうか。
 そもそも町人の協力なんて必要とせずあっさり倒してしまうのだろうか。
 でも、俺にはそれが出来ないんだよなあ。

「……あんたたちね、もしアルヴァに何かしてみなさい。その命だけじゃなく、親兄弟子供に至るまで焼き滅ぼしてやるから!」

 そしてこいつもどこまでも悪役側の言動なんだよな。俺の為の発言だとわかってはいるが。

「うっ、うるせぇぇ!そっちこそこのイロの命が惜しけりゃ大人しくしろ!!」

 男の一人が俺を盾にしながら喚き返す。
 そして次の瞬間、俺はそいつごと凄まじい力でふっとばされた。
 なんとか空中で体制を変え男を下敷きにして着地する。
 先ほどまで俺を人質にしていた人間は叫び声も上げず気絶していた。
 こいつは俺がされたのと同じように不意打ちを受けたのだ。巨大スライムから。
 
「ひっ、ひぃ!!」
「なんで俺たちを狙うんだ!!」

「なんでって……」

 敵だからだろ。スライムの攻撃から必死に逃げている自警団連中を見ながら俺は呆れる。
 人間たちの事情なんて関係ない。自分に危害を加えようとしたから殺す。シンプルな理由だ。

「そのまま囮になっててくれ、よなっ」

 地面に落ちた剣を拾い上げ、ぐらつく膝を叱咤してスライムへと駆け寄る。
 後二三回、いや一二回。斬撃を叩きつける。

「たぁすけぇてくれぇぇぇ!!」

 情けない悲鳴とともに男がこちらに吹っ飛んでくる。避けたつもりだが縋ろうと伸ばされた手が右目に掠って視界が赤くなる。

「アルヴァ!」
「大丈夫だ!片方は見えてる!!」

 ミアンに声を返して俺はスライムに斬りかかる。直後に胴体に繰り出される攻撃は体を捻って避けた。
 丁度いいとばかりに魔物の透明な腕を踏み台にして高く飛ぶ。スライムの体内に閉じ込められた子供の小さな頭が見える。唐竹割りはできない。


『スライムを斬るってのはねぇ、スライムの核(コア)を斬るってことだぴょん♪』

「はあ?!」


 突如頭に能天気な声が響く。次の瞬間血に染まった右目が、赤以外の物を捉える。

 スライムの体に大量の血管のようなものが見えた。血の代わりに水銀のような液体が流れている。
 それの辿り着く先は、右側頭部。まるで小型スライムのような楕円が浮かぶ。
 これが、閃くということか。
 
「テメエがっ、本体かよ」

 標的に向かい垂直ではなく、水平に薙ぎ払う。
 寒天のように軽やかに水銀の塊は割れた。スライムの巨大な体がぐらりと揺れる。
 雪像が灼熱に一気に溶けるように、或いは叩きつけられた水風船のように。
 俺たちを一方的に嬲っていた魔物は死の気配さえ告げず、ただの水になった。

「おっと」

 中心で浮いていた子供の体が墜落しないように抱きかかえる。そのまま上手く着地できればよかったが、しこたま膝を地面に打ち付けてしまった。

「や、やったのか……マジで?」

 自警団の連中の内気絶していない奴が信じられないように呟く。

「当たり前でしょ、こいつが勝ち目のないことに体張ったりするわけないのよ!このバカ犬っ、無理するな、バカっ!!」

 ミアンがそれに怒鳴り返すが何故か最後は俺への罵倒になっていた。理不尽なのに何故か安心する。
 体が、重い。先程までは痛くて痛くて仕方なかったのに今はひたすらに鈍重だ。
 腕の中の子供を何度か揺らし、腹を押し頬を叩く。
 水を少しだけ吐いてトマスの息子は目を開いた。綺麗な青だ。よくある目の色だ。
 なんでこいつの目の色なんて気にしているんだっけか。忘れた。疲れた。

「ぼ、げほっ、僕……」

 咳込みながら子供が言葉を発する。そういやクロノはどこまで何を探しに行ったんだ。ついでにトマスも。
 疲れた。難しいことは考えられない。風呂に入ってさっさと寝たい。
 そういやエストたちは帰ってきているだろうか。まだ留守なら治療院に行かなきゃいけない。待たされるくせに高いんだよなあそこ。
 右目が熱をもって爆発するように痛いけど、これもちゃんと治るんだろうか。
 多分目ん玉以外の部分も色々駄目になってる気がする。骨も内臓も。
 スライム斬りの次は防御スキルも使えるようにならなきゃ駄目だな。あれはなんて名前だったか。


「アルヴァさんっ!!」


 悲鳴のような少女の声が遠くに聞こえる。お前、遅いよ。
 口にすると同時に俺の意識は闇に落ちていった。
 なんか似たようなこと、前にも言った気がする。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...