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第二章
第33話 閃いたぴょん
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「そもそも話が違う、あんな化け物と命がけで戦うと知ってたらこんなところ来なかった!」
「そうだ、自警団でまともに魔物と戦えるのなんてトマスぐらいなんだぞ!」
「そもそも俺たちに魔物退治任せてあいつ全然帰って来ねえじゃないか!」
「いや、戻ってきたけど怖気づいて隠れているのかもしれないぜ」
「ハッ、じゃあこのガキは親にさえ見捨てられたんじゃねぇか、俺は帰る!」
「俺も帰る!」
「俺も!」
俺を地面に押し付けたまま無駄話をするのは止めて欲しいんだが。
まあ言いたいことはわかるよ。気持ちもわかる。
俺だって子供が捕まってなけりゃミアン連れて撤退してただろうさ。
積極的に攻撃してくる巨大スライムなんて発情したオークの群れよりもタチが悪い。
直接攻撃は通らない癖に向こうは強烈な打撃を放ってきやがる。
でもそれでも、あと少しで勝てそうなんだよ。お前らは全く信じてくれないけど。
そう、悪役(クズ)のアルヴァには信用される要素がない。
逆に信用した奴が馬鹿を見るんだ。冒険者の経験を積ませてやると騙されこき使われているクロノとか。
これが有名な勇者や英雄と呼ばれる奴だったら話は違ってたのかな。
魔物に怯えるこいつらを激励して信頼を勝ち得て協力させたんだろうか。
そもそも町人の協力なんて必要とせずあっさり倒してしまうのだろうか。
でも、俺にはそれが出来ないんだよなあ。
「……あんたたちね、もしアルヴァに何かしてみなさい。その命だけじゃなく、親兄弟子供に至るまで焼き滅ぼしてやるから!」
そしてこいつもどこまでも悪役側の言動なんだよな。俺の為の発言だとわかってはいるが。
「うっ、うるせぇぇ!そっちこそこのイロの命が惜しけりゃ大人しくしろ!!」
男の一人が俺を盾にしながら喚き返す。
そして次の瞬間、俺はそいつごと凄まじい力でふっとばされた。
なんとか空中で体制を変え男を下敷きにして着地する。
先ほどまで俺を人質にしていた人間は叫び声も上げず気絶していた。
こいつは俺がされたのと同じように不意打ちを受けたのだ。巨大スライムから。
「ひっ、ひぃ!!」
「なんで俺たちを狙うんだ!!」
「なんでって……」
敵だからだろ。スライムの攻撃から必死に逃げている自警団連中を見ながら俺は呆れる。
人間たちの事情なんて関係ない。自分に危害を加えようとしたから殺す。シンプルな理由だ。
「そのまま囮になっててくれ、よなっ」
地面に落ちた剣を拾い上げ、ぐらつく膝を叱咤してスライムへと駆け寄る。
後二三回、いや一二回。斬撃を叩きつける。
「たぁすけぇてくれぇぇぇ!!」
情けない悲鳴とともに男がこちらに吹っ飛んでくる。避けたつもりだが縋ろうと伸ばされた手が右目に掠って視界が赤くなる。
「アルヴァ!」
「大丈夫だ!片方は見えてる!!」
ミアンに声を返して俺はスライムに斬りかかる。直後に胴体に繰り出される攻撃は体を捻って避けた。
丁度いいとばかりに魔物の透明な腕を踏み台にして高く飛ぶ。スライムの体内に閉じ込められた子供の小さな頭が見える。唐竹割りはできない。
『スライムを斬るってのはねぇ、スライムの核(コア)を斬るってことだぴょん♪』
「はあ?!」
突如頭に能天気な声が響く。次の瞬間血に染まった右目が、赤以外の物を捉える。
スライムの体に大量の血管のようなものが見えた。血の代わりに水銀のような液体が流れている。
それの辿り着く先は、右側頭部。まるで小型スライムのような楕円が浮かぶ。
これが、閃くということか。
「テメエがっ、本体かよ」
標的に向かい垂直ではなく、水平に薙ぎ払う。
寒天のように軽やかに水銀の塊は割れた。スライムの巨大な体がぐらりと揺れる。
雪像が灼熱に一気に溶けるように、或いは叩きつけられた水風船のように。
俺たちを一方的に嬲っていた魔物は死の気配さえ告げず、ただの水になった。
「おっと」
中心で浮いていた子供の体が墜落しないように抱きかかえる。そのまま上手く着地できればよかったが、しこたま膝を地面に打ち付けてしまった。
「や、やったのか……マジで?」
自警団の連中の内気絶していない奴が信じられないように呟く。
「当たり前でしょ、こいつが勝ち目のないことに体張ったりするわけないのよ!このバカ犬っ、無理するな、バカっ!!」
ミアンがそれに怒鳴り返すが何故か最後は俺への罵倒になっていた。理不尽なのに何故か安心する。
体が、重い。先程までは痛くて痛くて仕方なかったのに今はひたすらに鈍重だ。
腕の中の子供を何度か揺らし、腹を押し頬を叩く。
水を少しだけ吐いてトマスの息子は目を開いた。綺麗な青だ。よくある目の色だ。
なんでこいつの目の色なんて気にしているんだっけか。忘れた。疲れた。
「ぼ、げほっ、僕……」
咳込みながら子供が言葉を発する。そういやクロノはどこまで何を探しに行ったんだ。ついでにトマスも。
疲れた。難しいことは考えられない。風呂に入ってさっさと寝たい。
そういやエストたちは帰ってきているだろうか。まだ留守なら治療院に行かなきゃいけない。待たされるくせに高いんだよなあそこ。
右目が熱をもって爆発するように痛いけど、これもちゃんと治るんだろうか。
多分目ん玉以外の部分も色々駄目になってる気がする。骨も内臓も。
スライム斬りの次は防御スキルも使えるようにならなきゃ駄目だな。あれはなんて名前だったか。
「アルヴァさんっ!!」
悲鳴のような少女の声が遠くに聞こえる。お前、遅いよ。
口にすると同時に俺の意識は闇に落ちていった。
なんか似たようなこと、前にも言った気がする。
「そうだ、自警団でまともに魔物と戦えるのなんてトマスぐらいなんだぞ!」
「そもそも俺たちに魔物退治任せてあいつ全然帰って来ねえじゃないか!」
「いや、戻ってきたけど怖気づいて隠れているのかもしれないぜ」
「ハッ、じゃあこのガキは親にさえ見捨てられたんじゃねぇか、俺は帰る!」
「俺も帰る!」
「俺も!」
俺を地面に押し付けたまま無駄話をするのは止めて欲しいんだが。
まあ言いたいことはわかるよ。気持ちもわかる。
俺だって子供が捕まってなけりゃミアン連れて撤退してただろうさ。
積極的に攻撃してくる巨大スライムなんて発情したオークの群れよりもタチが悪い。
直接攻撃は通らない癖に向こうは強烈な打撃を放ってきやがる。
でもそれでも、あと少しで勝てそうなんだよ。お前らは全く信じてくれないけど。
そう、悪役(クズ)のアルヴァには信用される要素がない。
逆に信用した奴が馬鹿を見るんだ。冒険者の経験を積ませてやると騙されこき使われているクロノとか。
これが有名な勇者や英雄と呼ばれる奴だったら話は違ってたのかな。
魔物に怯えるこいつらを激励して信頼を勝ち得て協力させたんだろうか。
そもそも町人の協力なんて必要とせずあっさり倒してしまうのだろうか。
でも、俺にはそれが出来ないんだよなあ。
「……あんたたちね、もしアルヴァに何かしてみなさい。その命だけじゃなく、親兄弟子供に至るまで焼き滅ぼしてやるから!」
そしてこいつもどこまでも悪役側の言動なんだよな。俺の為の発言だとわかってはいるが。
「うっ、うるせぇぇ!そっちこそこのイロの命が惜しけりゃ大人しくしろ!!」
男の一人が俺を盾にしながら喚き返す。
そして次の瞬間、俺はそいつごと凄まじい力でふっとばされた。
なんとか空中で体制を変え男を下敷きにして着地する。
先ほどまで俺を人質にしていた人間は叫び声も上げず気絶していた。
こいつは俺がされたのと同じように不意打ちを受けたのだ。巨大スライムから。
「ひっ、ひぃ!!」
「なんで俺たちを狙うんだ!!」
「なんでって……」
敵だからだろ。スライムの攻撃から必死に逃げている自警団連中を見ながら俺は呆れる。
人間たちの事情なんて関係ない。自分に危害を加えようとしたから殺す。シンプルな理由だ。
「そのまま囮になっててくれ、よなっ」
地面に落ちた剣を拾い上げ、ぐらつく膝を叱咤してスライムへと駆け寄る。
後二三回、いや一二回。斬撃を叩きつける。
「たぁすけぇてくれぇぇぇ!!」
情けない悲鳴とともに男がこちらに吹っ飛んでくる。避けたつもりだが縋ろうと伸ばされた手が右目に掠って視界が赤くなる。
「アルヴァ!」
「大丈夫だ!片方は見えてる!!」
ミアンに声を返して俺はスライムに斬りかかる。直後に胴体に繰り出される攻撃は体を捻って避けた。
丁度いいとばかりに魔物の透明な腕を踏み台にして高く飛ぶ。スライムの体内に閉じ込められた子供の小さな頭が見える。唐竹割りはできない。
『スライムを斬るってのはねぇ、スライムの核(コア)を斬るってことだぴょん♪』
「はあ?!」
突如頭に能天気な声が響く。次の瞬間血に染まった右目が、赤以外の物を捉える。
スライムの体に大量の血管のようなものが見えた。血の代わりに水銀のような液体が流れている。
それの辿り着く先は、右側頭部。まるで小型スライムのような楕円が浮かぶ。
これが、閃くということか。
「テメエがっ、本体かよ」
標的に向かい垂直ではなく、水平に薙ぎ払う。
寒天のように軽やかに水銀の塊は割れた。スライムの巨大な体がぐらりと揺れる。
雪像が灼熱に一気に溶けるように、或いは叩きつけられた水風船のように。
俺たちを一方的に嬲っていた魔物は死の気配さえ告げず、ただの水になった。
「おっと」
中心で浮いていた子供の体が墜落しないように抱きかかえる。そのまま上手く着地できればよかったが、しこたま膝を地面に打ち付けてしまった。
「や、やったのか……マジで?」
自警団の連中の内気絶していない奴が信じられないように呟く。
「当たり前でしょ、こいつが勝ち目のないことに体張ったりするわけないのよ!このバカ犬っ、無理するな、バカっ!!」
ミアンがそれに怒鳴り返すが何故か最後は俺への罵倒になっていた。理不尽なのに何故か安心する。
体が、重い。先程までは痛くて痛くて仕方なかったのに今はひたすらに鈍重だ。
腕の中の子供を何度か揺らし、腹を押し頬を叩く。
水を少しだけ吐いてトマスの息子は目を開いた。綺麗な青だ。よくある目の色だ。
なんでこいつの目の色なんて気にしているんだっけか。忘れた。疲れた。
「ぼ、げほっ、僕……」
咳込みながら子供が言葉を発する。そういやクロノはどこまで何を探しに行ったんだ。ついでにトマスも。
疲れた。難しいことは考えられない。風呂に入ってさっさと寝たい。
そういやエストたちは帰ってきているだろうか。まだ留守なら治療院に行かなきゃいけない。待たされるくせに高いんだよなあそこ。
右目が熱をもって爆発するように痛いけど、これもちゃんと治るんだろうか。
多分目ん玉以外の部分も色々駄目になってる気がする。骨も内臓も。
スライム斬りの次は防御スキルも使えるようにならなきゃ駄目だな。あれはなんて名前だったか。
「アルヴァさんっ!!」
悲鳴のような少女の声が遠くに聞こえる。お前、遅いよ。
口にすると同時に俺の意識は闇に落ちていった。
なんか似たようなこと、前にも言った気がする。
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