32 / 131
第二章
第32話 暴力には暴力、脅迫には脅迫
しおりを挟む
ミアンが復帰してくれたことで対巨大スライムはやっと集団戦闘になり始めた。
とはいっても彼女が炎で脅しをかけるのはスライムではなく自警団の男たち。
まだ小さな炎しか出せないようだがそれでも髪や肌を焦がされるのは嫌なようで奴らは追い立てられるようにスライムへと向かっていった。
そうすると魔物の行動も変わり始める。
今までは俺だけに集中しカウンターを取ろうとしてきたが、今は剣攻撃の隙を狙おうとしても邪魔が入るようになった。
今まで観戦していた連中が木の板や盾を使いスライムに体当たりを繰り返し始めたのだ。
ダメージはなくてもやはり気になるのか巨大スライムはいちいちそれを払いのける仕草をする。
意識が自警団たちに向いている時を狙い俺は攻撃を仕掛ける。
盾や木の板ごしに魔物のパンチを食らいひぃひぃ泣く連中を他所に俺の意識はどんどん研ぎ澄まされていった。
まだ数十回もあるなんてもう考えない、あと一回だけ、もう一回だけ。
次だけを考えて剣を打ち込む。悲観なんてしない、そんな暇はない。
結果が出るまで、その時が来るまで同じことを繰り返す。
スライムの反撃は先程まで比べてずっと少ない。だから攻撃だけに集中できる。
今や囮のようになっている自警団の連中に内心詫びながら俺は偶にくる攻撃を器用に避けた。
なんだか剣を振り落とした際の感覚が少しずつ変わっているような気がする。
今までは切れ味の悪い包丁を分厚い肉の脂身にひたすら叩きつけているような感じだった。それが徐々に違ってきている。
斬っている手応えが生まれ始めているのだ。その証拠に剣を振り下ろした直後スライムの体が僅かだが裂け始めた。
すぐに元に戻ってしまうが、もう少し、もう少しだ。
俺がスライム斬りを完全に習得すれば少年を中から助け出すことができる。そう明確な希望を抱いた瞬間だった。
後頭部に強い衝撃が走る。
反射的に思い切り剣を振る。俺が斬った相手は味方である筈の自警団の男だった。鈍い音が鳴る。
「いでえ、っ……!」
男は腕を押さえて呻いていた。足元に盾が落ちている。先程剣で弾いたのはこれか。
相手の命に別状がないことに安堵しつつ、信じられない気持ちで俺は奴を見つめた。
「どうして……」
「アルヴァ、後ろ!!」
ぼんやりとした問いかけを叱咤するようにミアンが叫ぶ。しかし気づくのが遅れた。
気が付けば俺は残りの連中二人がかりで地面に押さえつけられていた。理由が、わからない。
そんな俺の頭を強い力で掴み土に押し付けながら男が叫ぶ。
「ミアン、こいつの頭をカチ割られたくなかったら今すぐ炎を消せっ!!」
あんな化け物と戦うなんてやってられるかよ。俺たちは逃げる。
そう吐き捨てるような声が上から降ってくる。実際こちらに唾を吐かれた気がした。
ああ成程、そういうことか。
俺はようやく合点する。今自分は人質にされているのだ。彼らがミアンの炎と巨大スライムから逃げ出す為に。
俺たち彼ら自警団の連中を脅して手助けさせていた。こうなることは予測出来た筈だ。
つまり、油断しきっていた俺が悪い。
とはいっても彼女が炎で脅しをかけるのはスライムではなく自警団の男たち。
まだ小さな炎しか出せないようだがそれでも髪や肌を焦がされるのは嫌なようで奴らは追い立てられるようにスライムへと向かっていった。
そうすると魔物の行動も変わり始める。
今までは俺だけに集中しカウンターを取ろうとしてきたが、今は剣攻撃の隙を狙おうとしても邪魔が入るようになった。
今まで観戦していた連中が木の板や盾を使いスライムに体当たりを繰り返し始めたのだ。
ダメージはなくてもやはり気になるのか巨大スライムはいちいちそれを払いのける仕草をする。
意識が自警団たちに向いている時を狙い俺は攻撃を仕掛ける。
盾や木の板ごしに魔物のパンチを食らいひぃひぃ泣く連中を他所に俺の意識はどんどん研ぎ澄まされていった。
まだ数十回もあるなんてもう考えない、あと一回だけ、もう一回だけ。
次だけを考えて剣を打ち込む。悲観なんてしない、そんな暇はない。
結果が出るまで、その時が来るまで同じことを繰り返す。
スライムの反撃は先程まで比べてずっと少ない。だから攻撃だけに集中できる。
今や囮のようになっている自警団の連中に内心詫びながら俺は偶にくる攻撃を器用に避けた。
なんだか剣を振り落とした際の感覚が少しずつ変わっているような気がする。
今までは切れ味の悪い包丁を分厚い肉の脂身にひたすら叩きつけているような感じだった。それが徐々に違ってきている。
斬っている手応えが生まれ始めているのだ。その証拠に剣を振り下ろした直後スライムの体が僅かだが裂け始めた。
すぐに元に戻ってしまうが、もう少し、もう少しだ。
俺がスライム斬りを完全に習得すれば少年を中から助け出すことができる。そう明確な希望を抱いた瞬間だった。
後頭部に強い衝撃が走る。
反射的に思い切り剣を振る。俺が斬った相手は味方である筈の自警団の男だった。鈍い音が鳴る。
「いでえ、っ……!」
男は腕を押さえて呻いていた。足元に盾が落ちている。先程剣で弾いたのはこれか。
相手の命に別状がないことに安堵しつつ、信じられない気持ちで俺は奴を見つめた。
「どうして……」
「アルヴァ、後ろ!!」
ぼんやりとした問いかけを叱咤するようにミアンが叫ぶ。しかし気づくのが遅れた。
気が付けば俺は残りの連中二人がかりで地面に押さえつけられていた。理由が、わからない。
そんな俺の頭を強い力で掴み土に押し付けながら男が叫ぶ。
「ミアン、こいつの頭をカチ割られたくなかったら今すぐ炎を消せっ!!」
あんな化け物と戦うなんてやってられるかよ。俺たちは逃げる。
そう吐き捨てるような声が上から降ってくる。実際こちらに唾を吐かれた気がした。
ああ成程、そういうことか。
俺はようやく合点する。今自分は人質にされているのだ。彼らがミアンの炎と巨大スライムから逃げ出す為に。
俺たち彼ら自警団の連中を脅して手助けさせていた。こうなることは予測出来た筈だ。
つまり、油断しきっていた俺が悪い。
11
お気に入りに追加
1,367
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる