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第二章
第32話 暴力には暴力、脅迫には脅迫
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ミアンが復帰してくれたことで対巨大スライムはやっと集団戦闘になり始めた。
とはいっても彼女が炎で脅しをかけるのはスライムではなく自警団の男たち。
まだ小さな炎しか出せないようだがそれでも髪や肌を焦がされるのは嫌なようで奴らは追い立てられるようにスライムへと向かっていった。
そうすると魔物の行動も変わり始める。
今までは俺だけに集中しカウンターを取ろうとしてきたが、今は剣攻撃の隙を狙おうとしても邪魔が入るようになった。
今まで観戦していた連中が木の板や盾を使いスライムに体当たりを繰り返し始めたのだ。
ダメージはなくてもやはり気になるのか巨大スライムはいちいちそれを払いのける仕草をする。
意識が自警団たちに向いている時を狙い俺は攻撃を仕掛ける。
盾や木の板ごしに魔物のパンチを食らいひぃひぃ泣く連中を他所に俺の意識はどんどん研ぎ澄まされていった。
まだ数十回もあるなんてもう考えない、あと一回だけ、もう一回だけ。
次だけを考えて剣を打ち込む。悲観なんてしない、そんな暇はない。
結果が出るまで、その時が来るまで同じことを繰り返す。
スライムの反撃は先程まで比べてずっと少ない。だから攻撃だけに集中できる。
今や囮のようになっている自警団の連中に内心詫びながら俺は偶にくる攻撃を器用に避けた。
なんだか剣を振り落とした際の感覚が少しずつ変わっているような気がする。
今までは切れ味の悪い包丁を分厚い肉の脂身にひたすら叩きつけているような感じだった。それが徐々に違ってきている。
斬っている手応えが生まれ始めているのだ。その証拠に剣を振り下ろした直後スライムの体が僅かだが裂け始めた。
すぐに元に戻ってしまうが、もう少し、もう少しだ。
俺がスライム斬りを完全に習得すれば少年を中から助け出すことができる。そう明確な希望を抱いた瞬間だった。
後頭部に強い衝撃が走る。
反射的に思い切り剣を振る。俺が斬った相手は味方である筈の自警団の男だった。鈍い音が鳴る。
「いでえ、っ……!」
男は腕を押さえて呻いていた。足元に盾が落ちている。先程剣で弾いたのはこれか。
相手の命に別状がないことに安堵しつつ、信じられない気持ちで俺は奴を見つめた。
「どうして……」
「アルヴァ、後ろ!!」
ぼんやりとした問いかけを叱咤するようにミアンが叫ぶ。しかし気づくのが遅れた。
気が付けば俺は残りの連中二人がかりで地面に押さえつけられていた。理由が、わからない。
そんな俺の頭を強い力で掴み土に押し付けながら男が叫ぶ。
「ミアン、こいつの頭をカチ割られたくなかったら今すぐ炎を消せっ!!」
あんな化け物と戦うなんてやってられるかよ。俺たちは逃げる。
そう吐き捨てるような声が上から降ってくる。実際こちらに唾を吐かれた気がした。
ああ成程、そういうことか。
俺はようやく合点する。今自分は人質にされているのだ。彼らがミアンの炎と巨大スライムから逃げ出す為に。
俺たち彼ら自警団の連中を脅して手助けさせていた。こうなることは予測出来た筈だ。
つまり、油断しきっていた俺が悪い。
とはいっても彼女が炎で脅しをかけるのはスライムではなく自警団の男たち。
まだ小さな炎しか出せないようだがそれでも髪や肌を焦がされるのは嫌なようで奴らは追い立てられるようにスライムへと向かっていった。
そうすると魔物の行動も変わり始める。
今までは俺だけに集中しカウンターを取ろうとしてきたが、今は剣攻撃の隙を狙おうとしても邪魔が入るようになった。
今まで観戦していた連中が木の板や盾を使いスライムに体当たりを繰り返し始めたのだ。
ダメージはなくてもやはり気になるのか巨大スライムはいちいちそれを払いのける仕草をする。
意識が自警団たちに向いている時を狙い俺は攻撃を仕掛ける。
盾や木の板ごしに魔物のパンチを食らいひぃひぃ泣く連中を他所に俺の意識はどんどん研ぎ澄まされていった。
まだ数十回もあるなんてもう考えない、あと一回だけ、もう一回だけ。
次だけを考えて剣を打ち込む。悲観なんてしない、そんな暇はない。
結果が出るまで、その時が来るまで同じことを繰り返す。
スライムの反撃は先程まで比べてずっと少ない。だから攻撃だけに集中できる。
今や囮のようになっている自警団の連中に内心詫びながら俺は偶にくる攻撃を器用に避けた。
なんだか剣を振り落とした際の感覚が少しずつ変わっているような気がする。
今までは切れ味の悪い包丁を分厚い肉の脂身にひたすら叩きつけているような感じだった。それが徐々に違ってきている。
斬っている手応えが生まれ始めているのだ。その証拠に剣を振り下ろした直後スライムの体が僅かだが裂け始めた。
すぐに元に戻ってしまうが、もう少し、もう少しだ。
俺がスライム斬りを完全に習得すれば少年を中から助け出すことができる。そう明確な希望を抱いた瞬間だった。
後頭部に強い衝撃が走る。
反射的に思い切り剣を振る。俺が斬った相手は味方である筈の自警団の男だった。鈍い音が鳴る。
「いでえ、っ……!」
男は腕を押さえて呻いていた。足元に盾が落ちている。先程剣で弾いたのはこれか。
相手の命に別状がないことに安堵しつつ、信じられない気持ちで俺は奴を見つめた。
「どうして……」
「アルヴァ、後ろ!!」
ぼんやりとした問いかけを叱咤するようにミアンが叫ぶ。しかし気づくのが遅れた。
気が付けば俺は残りの連中二人がかりで地面に押さえつけられていた。理由が、わからない。
そんな俺の頭を強い力で掴み土に押し付けながら男が叫ぶ。
「ミアン、こいつの頭をカチ割られたくなかったら今すぐ炎を消せっ!!」
あんな化け物と戦うなんてやってられるかよ。俺たちは逃げる。
そう吐き捨てるような声が上から降ってくる。実際こちらに唾を吐かれた気がした。
ああ成程、そういうことか。
俺はようやく合点する。今自分は人質にされているのだ。彼らがミアンの炎と巨大スライムから逃げ出す為に。
俺たち彼ら自警団の連中を脅して手助けさせていた。こうなることは予測出来た筈だ。
つまり、油断しきっていた俺が悪い。
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