序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ

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第二章

第29話 後悔してももう遅いってマジ?

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「遅いわよ、馬鹿犬!」

 声とともに華奢な体がこちらへ駆け寄ってくる。金髪と黒髪の二名。ミアンとクロノだ。
 俺の目の前に立つなり炎の魔女は苛立たし気に叫んだ。


「ったく、タイミングが悪いったらないわ。魔力が戻れば私の炎で灰にしてやるのに!」

「灰にって、お前人質がいるんだぞ」

「あの子を巻き込まない程度のコントロールは出来るわよ、クローベルの血を甘く見ないで」


 そうミアンは強いまなざしで言う。確かに暴走時もテーブルだけ器用に灰にしていた。
 成程トマスが頼りにするわけだ。そしてミアンの魔力が封じられていることを知って深く絶望したのもわかる。


「小さくてもいいから炎を出せないか?」

「まだ無理ね、でも魔力に対して蓋をする力が弱くなっているのは感じる」


 そこをこじ開けることに意識を集中すれば一時間ぐらいでどうにかできるんじゃないかしら。
 俺に語る時点でミアンは口にしたそれを既に試みているたようだった。今いる場所はすぐそこが沼なのでひんやりと涼しい。
 けれど彼女だけが白い肌に汗を滴らせている。


「わかった。無駄足になりそうだけど頑張ってくれ」

「あんたはいつも一言多いのよ、お願いしますとだけ言いなさい」


 ぶすくれる魔女から視線を外し今度は黒髪の少女に向き直る。


「クロノ、お前の力で俺たちを超強化してくれ。可能ならあのスライムも弱体化させて欲しい」

「えっ」

「俺は今からあのデカブツに百回攻撃をする」


 そうすれば剣でスライムを倒せるようになる。 
 驚いた顔をするクロノに俺は巨大スライムを指し示して語った。
 
 拠点でトマスの話を聞いていて、手伝いを申し出たのは『スライム斬り』のスキルを思い出したからだ。
 神殿で何者かが強くアピールしていたそれを熱意に負けるような形で俺は取得していた。
 だがその時点では利用することは出来ない。資格を完璧に満たしていなかったからだ。

 スライムに対し百回攻撃をすること、それが『スライム斬り』の発動可能条件。
 自室にあるスキル本で確認したから間違いない。百体でなく百回で本当に良かったと思う。

 俺は今からあの巨大スライムを百回剣で攻撃する。そうすれば百一回目にはスキルが利用可能になり見事斬り倒せるというわけだ。
 だが問題点が幾つかある。

 ほぼ効かないとはいえ、何十回も連続攻撃を受ける中でスライムが逃亡する可能性は高い。
 基本この魔物は捕食以外の部分では臆病なのだ。子供が小さなスライムを棒で追い回していじめる光景は田舎だとよく見かける。
 仲間を連れて復讐しに来るから止めろと大人に叱られるおまけつきだ。実際そうなのかは知らない。

 陸地なら悪ガキのように追いかけて剣で殴り続ければいい。だがすぐそこに大きな沼がある。
 そこに中の子供ごと飛び込まれたら終わりだ。だからスライムが沼に入る素振りを見せたらトマスと仲間たちで邪魔をしてもらう。

 巨大スライムに取り込まれず押し出す為に盾や木の板が必要なのだ。強く押して離れてを繰り返して貰う。かなり体力を使うだろう。
 それは俺も同じだ。寧ろこちらの方がずっと負担が大きいと思う。

 スキル使用解除の為に百回全力で剣を振り続けなければいけないのだ。
 倒せないのがわかっているのに本気で攻撃しなければいけない。手を抜くと攻撃回数としてカウントされないと書いてあった。
 それを一時間以内に完了しなければいけない。明日は絶対筋肉痛だ。

 だからこそクロノの助けが必要なのだ。
 彼女が戦闘時に後ろで祈ってくれている結果俺たちは攻撃力や魔力、体力がグンと底上げされている。
 クロノの祈りに該当するスキルを本で探した所『勇輝の祈り』というのがそれに当てはまるのではないかと俺は思っている。

 今回期待したいのは体力の底上げだ。絶対疲れる作業をなるべく早く終わらせる必要がある。全力全開だ。
 だからこそクロノのスキルによるスタミナアップがあるとないとでは大違いだ。


「何言ってんだお前、その娘は使えないお荷物だって話だろ。そんな便利なことできるかよ」


 外野から横槍が飛んでくる。クロノにあいつらの強化はしなくていいと言ってやろうか。
 下手に余裕を持たせると俺がスライムを攻撃してる最中にも野次を飛ばしかねない。
 とりあえず俺とミアンにだけ勇輝の祈りを使ってもらって他の奴らは様子見で良いか。
 俺はそう判断を締めくくると再度クロノに向かって口を開こうとした。しかし言葉を発したのは少女が先だった。


「で、できないです……」

「えっ」


 クロノの赤い瞳は戸惑いと悲しみに震え揺れていた。


「ボク、アルヴァさんたちを超強化なんて、そんな凄いことできません、役立たずでごめんなさい……!」


 代わりに助けになりそうな人を呼んできます! そう叫ぶなり脱兎のように駆けていく姿を俺は間抜けな表情で見送った。
 そうだ、クロノはまだ己の能力を把握していないのだ。いつも通り祈ってくれというべきだったのだ。今更悔やんでももう遅い。手遅れだ。
 しかし彼女が全力で逃げ出すという展開は全く予想していなかった。

 
「……誰か、あいつを呼び戻して来てくれ」


 ミアンは木にもたれて完全集中しているらしく反応がない。結局トマスが釈然としない表情ながらもその役割を買って出てくれた。
 クロノが口にした助けになりそうな人物とやらに期待しているのかもしれない。
 残ったのは俺のことが心底気に入らない連中ばかり。
 逆に笑えてきた。


「さてと……仕方ないから全員仲良く筋肉痛になろうな!」


 お前だけなってろという野次を背に受け、俺は巨大スライム相手に剣を抜いた。

 
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