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第二章

第27話 群れて固まると厄介な雑魚

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「ミアンは居るか?!」

 俺より頭一つでかい男は扉を開いた途端真っ先にそう吠えた。
 あの金髪の魔女が何かトラブルでも起こしたのだろうか。一瞬不安になるが相手の顔に怒りは無い。
 それを確認すると今度はこちらがムッとする番だった。


「いても挨拶すらできねー奴の前には出せねーよ」


 あいつはお嬢様育ちで礼儀に厳しいからな。そう返すと戦士のような風貌の男は表情を歪めた。
 そして吐き捨てるようにこちらの名を口にする。


「相変わらず底意地が悪いな、灰色のアルヴァ」


 そういった余裕が無いことぐらい見てわからないのか。憎々しげに言われて俺は無言で相手を見つめた。
 予想通り、浮かんだ負の感情を躊躇わず口にするのが「アルヴァらしさ」のようだ。

 目の前の男の情報も思い出す。元銀級冒険者で今は街の自警団で副団長を務めているトマスだ。
 付き合いはそれなりに長いが決して親しくはない。道であっても挨拶すらしない。
 困りごとが解決せずどうしても力を借りたい時だけ灰色の鷹団のアジトを渋々訪ねてくるのだ。

 彼に対してはミアンたちにしたように善人に生まれ変わったアピールをする必要はないと判断した。
 少なくとも今はその時ではない。
 やり過ぎはいけないが適度に小憎らしく振舞っておこう。

「俺は一般常識の話をしただけなんだがな、今のあんたの振る舞いをあんたの子供が真似したら駄目だろ?」 

 見て無いようで子供は親の姿を観察してるもんだぜ。そう続けて言えば鈍い音がした。
 トマスが自らの拳を俺の横の壁に叩きつけたのだ。突然の暴力に一瞬固まる。

 引退したとはいえ男の体は服の上からも筋肉の厚さを感じさせた。
 確か得意武器は棍棒だったか。一振りで俺の頭を殴り潰せそうな腕の太さをしている。


「……その子供が、大変なんだ」


 行動とは裏腹にトマスの声は静かだった。だがそれは色々な感情を押し殺しているからだろう。
 前言撤回。悠長におちょくっている場合ではない。俺は会話を進めることにした。


「ミアンならクロノと出かけている。家具屋と服屋と飯屋を回る予定の筈だ」

「わかった、彼女を見つけて直接依頼をする」


 邪魔したな。そう言って背を向けた男を俺は引き留めた。
 今にも噛みつきそうな顔を隠しもせずトマスはこちらを見る。
 冷静になれと説教したなら叩き殺されそうだ。


「もし会えたとしても、あいつは今魔術を使えないと思うぞ」

「なんだって?!」


 悲鳴と共に男の顔が哀れな程に青くなっていく。やはり彼女の炎魔法を目当てにしていたか。
 どうしてだと食って掛かるトマスに一時的なトラブルだと返す。部外者に詳しい理由を話す必要はない。


「一時的なものだと……じゃあ、いつ使えるようになるんだ!!」

「よくて数時間後か今日中か、初めてのことだからわからないな」


 自室に置いてあるスキル本になら魔力封印について詳細が記されていると思う。
 しかし正確な解除時間がわかったところでトマスの想定するタイムリミットには間に合わない気がした。


「数時間なんて……そんなに放置していたらマルコは死んでしまう!!」  

「死ぬ?」

「そうだ、あの子は友達と森に遊びに行って、巨大スライムに取り込まれてしまったんだ!」


 巨大スライム。積極的に攻撃してこないのは通常のスライムと同じだが人間への危険性は比ではない。
 その名の通り巨大な体は半固体とも液体とも呼べる不思議な質感を持っている。
 獲物をその体で包み込み、逃がさぬまま弱らせゆっくりと腐り溶けていく死体を栄養として取り込むのだ。
 何十匹、何百匹もの小型スライムが合体して生まれると言われている。

 だから定期的に魔物狩りが行われる人里近くには出現しない筈だった。
 しかし一度現れたなら、火か氷の魔術以外での対処は厳しい。
 追い払うだけなら兎も角、倒して取り込まれた人間を助けるとなるとかなりの難題だ。


「あの魔物には直接攻撃が殆ど効かない。オークさえ一撃で殺せる俺の棍棒もてんで役立たずだった……」


 そう力自慢の男は自らの無力さを嘆き涙した。
 だから炎の魔術師を急いで求めていたのか。


「他の魔術師たちも皆出払っていて……頼む、金なら幾らでも払うからミアンの炎を貸してくれ!」

「だから、貸したくても……」


 出来ないのだと気まずい気持ちで続けようとして俺の頭に一つのアイディアが浮かんだ。
 現在ミアンは魔術を使えない状態だがクロノの弱体化と強化は使える。
 そして俺は、スライム斬りのスキルが条件さえ達成すれば使えるようになる。


「……努力はするが解決は約束しない、成功したら報酬はたんまり貰う」 

「アルヴァ……?」

「そんなでかいスライムがいるのは森の奥の沼地辺りだろ、クロノと……ついでにミアンをそこに連れて行ってくれ」


 それと出来るだけ体力のある人間を搔き集めて現地に集合させろ。
 俺の言葉に男は首を傾げる。


「そりゃ自警団の連中なら協力してくれると思うが、あいつらにスライムを倒すことは……」

「連中に求めている役割はそれじゃない。各々盾か板も持参するよう言っておけ」


 俺はそうトマスに告げると準備があると言ってアジトの扉を閉めた。

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