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第一章

第25話 パーティーから抜けろ

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 俺が炎の鳥戦で使ったスキル取得権譲渡。その際に俺は女神エレナの名を呼び懇願した。
 ミアンはその事を思い出したらしく、結局長い沈黙の後俺の話を信じることにしたようだ。


「ただ叫んだだけじゃなく、実際にクロノが魔力封印に目覚めたのは事実だものね」

「はい、びっくりしました!」 

「でも条件を満たしただけで即あんな高度な術が使えるなんて未だに信じられない」

 私にもスキル権とやらを権渡しなさいよ。そう金髪の魔女が俺に強請って来る。
 もう出来ないというと「使えないわね」と軽く舌打ちをされた。


「あーあ、私も女神様に情けをかけて貰いたいものね。でも女だから無理かしら」

「俺だって男だからって理由で貰ったわけじゃないぞ」
 
「だったらどういう理由?」

「理由は……よくわからなかったな」


 ミアンの問いかけを俺は曖昧にはぐらかした。
 その部分を正直に話したら、彼女もクロノもこの世界が作りものだと知ることになる。
 それだけでなく自分たちのモデルが俺の考えた小説の登場人物であることも。
 今は反省しているとはいえエレナがあっさりと住人ごと世界を滅ぼそうとしたことも。
 この世界で生きている人間が知って幸せになる内容ではない。
 
 そもそも信じて貰えるとも思わない。狂人に不愉快な妄想を語られたと認識するだけの気もする。
 同じ理由で俺は自分が灰村タカシという別世界の人間だということも黙って置くことにした。
 全部不必要で話す価値のない情報だ。毒にしかならない。


「でもまさかボクがあのミアンさんを倒すことが出来たなんて……!」


 男装の少女が目をキラキラさせながら興奮気味に言う。


「人を魔物みたいに言わないでくれる!?」

「いや、凶暴さでは似たようなもんだっただろ」

「ちょっと、私が魔物扱いした事、根に持ってるわけ?」


 確かにさっきは少しだけ頭に血が上り過ぎていたけど。
 一応反省しているらしき魔女の言葉に、俺は「どこが少しだ」と内心で呟いた。
 この突っ込みを口から出せば、言い合いに発展して話が横道にそれてしまう。
 ただ、確かにミアンのあの怒り具合は尋常でなかったと感じる。
 彼女が普段から仲間殺しを躊躇わない程の激情家なら似たような騒動は既に何回も起きている筈だ。


「根に持ってないけど、二度と暴走して俺たちに襲い掛かるなよ」

「それは……私だって、そうしたいわよ。いや、そうする」  

 
 釘を刺した俺の言葉に金髪の魔女は意外と殊勝に頷いて見せた。
 だがその顔はどこか不安そうだ。


「……今のクロノなら、何か有った時に私の魔力を封印することが出来るのよね」


 そうどこか縋るような声で語るミアンはどこか苦し気だった。
 俺がクロノと肉体関係を持ったと誤認した結果、嫉妬でミアンの箍は外れたと思っていた。
 しかし遠くを見るような彼女を見ていると、それだけが理由とも思えない気がした。
 この我儘で火力の高い魔女も心に深い傷を抱えているのかもしれない。


「でも、私はこの団を抜けるんだから頼りにする訳にもいかないか」

「ミアンさん……」


 自分でなんとかしなきゃ。そう弱々しく笑う相手をクロノが心配そうに呼ぶ。
 そして黒髪の少女は縋るような目で俺を見て来た。まるで自分自身がパーティーを追放されるように。
 その顔にはミアンに対する怒りは皆無だ。ひたすら気遣っているだけ。
 性別が違ってもクロノの本質は変わらない。俺は溜息を吐いた。

 小説内の少年クロノも自分を追い出したアルヴァを憎むことは無かった。
 元リーダーの惨めな最期を知った後も嘲笑いもせず哀しみ憐れんでいた。
 いつか和解して対等に話すことが出来たらよかったのにと。

 あの世界のアルヴァは死んでしまったが、この世界のミアンはまだ生きている。
 俺は溜息を吐いて口を開いた。
    

「ミアン、有り金全部はいらない。ただお前が燃やしたテーブルは弁償しろ」

「え……」

「それとお前が勝手に服置き場にしている部屋を片付けろ。あそこをクロノの部屋にする」

「それって、アルヴァさん……」

「後、適当な店でクロノの服を見繕ってやれ。それで今回だけはチャラだ」


 嫌ならパーティーを抜けろ。
 俺の台詞に金髪の魔女はビクッと肩を震わせると凄い勢いで首を横に振った。
 どうやら自分から脱退を言い出した時のサバサバした様子は格好つけだったようだ。
 大きな紫の瞳を輝かせていると、クロノと同年齢だと言われても信じてしまうかもしれない。
 
 
「い、嫌じゃない。嫌じゃないけど……」

「けど?」

「嫌なら抜けろって言ってる時のアンタ、凄い悪党っぽかった」

「お前なあ……」


 顔は良いけど雰囲気がチンピラっぽいのよね。そうケラケラと笑いながら魔女は言う。


「あったまきた、二週間の飯当番も追加な」

「は?つーかそっちこそ捜索してやった私たちに二週間食事を奢るべきでしょ!」

「じゃあ便所掃除三週間にしてやるよ」

「絶対嫌!!」


 子供みたいにギャアギャアと言い争う俺たちをクロノはニコニコと満足そうに笑っていた。


「なんか、仲間って言うより家族って感じでいいですね!」


 ボク、今度こそ皆さんとずっと冒険したいです。

 特別な運命を背負った少女はあどけない笑顔でそう願った。


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