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第一章
第24話 ある日、神に遭った
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「勝手に決めつけないでよ恋愛脳、あんな性格最悪の人間にこの私が惚れる訳ないでしょ」
「でも、ミアンさんはアルヴァさんのことよく知っていますよね」
「そんなの、仲良くなくても何年も一緒に暮らしてれば誰だって……一応仲間なんだし」
罵倒されても引き下がらないクロノに対し、ミアンの言葉が徐々に弱くなっていく。
そして俺は彼女が口ごもりつつ呟いた言葉に、びっくりする程衝撃を受けた。
仲良くなくても仲間。何年も一緒に暮らしてきた。だから相手のことを熟知しているのは当たり前。
俺には他人と長く暮らしていた記憶はない。ただ仲間を家族に置き換えれば納得出来る部分はある。
けれど俺はきっと母や弟の中身が別人になっても、ミアンのように怒って倒そうとしたりしない。
家族だから、何だっていうんだ。自分の生活がこれ以上悪くなければそれでいいじゃないか。
そんな風に考えて気づかないふりで偽者と暮らし続けるだろう。
でも俺の考えは異常だということに今更気づいた。
そうだ、縁というのはそういうものだ。人間が他人と関わって生きると言うのはそういうことだ。忘れていた。忘れていたかった。
俺がミアンに偽物認定された原因は、俺がアルヴァの人生を内心軽んじていたからだ。アルヴァだけじゃない、彼の仲間たちのことも。
アルヴァと長年同居し一緒に冒険してきた仲間との関係を単純視して甘く見ていた。
この世界で二十数年間生きてきたアルヴァ・グレイブラッドという冒険者。
銀級冒険者で、灰色の鷹団のリーダーで、仲間と共同生活が出来る拠点を何年も維持し続けきた。
冷静に考えれば、それは結構凄いことではないだろうか。少なくとも俺には出来ない。
主人公を虐げ追い出して、結果惨めに死んでいく愚かな男。それだけがこの男の一生だと俺はアルヴァのことを無意識に見下していた。
だから何も考えず平気な顔で拠点に戻った。こちらから真実を話さなければアルヴァの中身なんて誰も気に留めないと考えて。
でも、深い絆を持つ相手もいない。家族からさえ必要とされない。
誰が成り代わっても役割さえこなせば気にされない。
そんな灰村タクミという人間とアルヴァは同じ価値ではなかったのだ。
「アルヴァ?」
「アルヴァさん?」
ずっと無言でいる俺を不思議に思ったのか、女性陣が俺の名を口々に呼ぶ。
しかしそれは本当に俺に対して呼びかけた言葉なのか。心が重くなりながらも口を開いた。
「ミアンの処遇は一旦保留にする。そして……二人に伝えたいことがある」
「伝えたいことって何よ」
「俺の様子、おかしくなったと思わないか?その理由だよ」
こちらを見る二人の視線が強くなる。逃げ出したい気持ちを抑えて息を吸った。
俺は偽物じゃない。
前世の記憶が戻っただけ、俺は確かにアルヴァ・グレイブラッドなんだ。
そう強く己に言い聞かせながら口を開く。
「実は信じられないかもしれないが……俺は、神と出会ったんだ」
言い方を少し間違えたかもしれない。気づいたのは発言を終えた後だった。
ちょっと壮大が過ぎた。宗教に目覚めた人みたいなことを言ってしまった。
案の定、魔女の紫の瞳に警戒と呆れが同時に浮かんでいる。その気持はわかる。
でもこの部分については実際嘘ではないのだ。
「……は?何それ、頭でも打った?」
「凄いですアルヴァさん!!」
皮肉にもミアンの疑い深い反応の方が対峙していて落ち着く。クロノは良くも悪くも素直で直球過ぎだと思う。
しかしこんな性格だからこそ不平不満も言わず、こき使われながら床で寝る暮らしを何年も続けていられたのかもしれない。
「頭は、打ったかもしれない。いや多分打ったかな? っていうかソロで依頼こなそうとして洞窟の罠にはまって……」
落とし穴で死にかけた。そう俺は視線を合わさずにぼそぼそと話した。
態度がおかしいのは大嘘を吐いているからだが、二人は失敗談に対する羞恥と解釈した様だった。
「ハ、この馬鹿!犬なのに鼻も利かないのねえ!!あほわんこ!!」
「ち、ちょっとミアンさん。言い過ぎですよ。犬は可愛いです!」
金髪の魔女がそんな俺を容赦なく嘲笑ってくる。嘘だから馬鹿にされても悔しくない。悔しくないが腹は立つ。
「大体そんな罠が設置してある場所に、戦うしか能のないアンタが一人で行くのがそもそも馬鹿!!」
せめて罠対策にカースを誘いなさいよ!そうミアンに正論を言われ反射的に言い返す。
「うっせーな、俺だけでいけると思ったんだよ!」
「あんたはいつもそう!サルガタナスの遺跡の時だって……!!」
先程までの大人しさが嘘のように騒ぐ魔女に、いつものように売り言葉に買い言葉で喧嘩になりかける。
いや、違う。このままでは本筋から逸れまくってしまう。俺はゴホンと咳払いをしてミアンとの会話を断ち切った。
「いや過ぎた事はもういいだろ。……で、俺はずっと気絶していて目が覚めたら真っ白な神殿にいたんだよ。それで凄い美人が助けてくれて……」
「はい嘘、それか妄想」
「良いから黙って聞け!それで俺が礼を言ったら彼女は知の女神だって名乗って、色々知識を教えてくれたんだ」
「女神様にお会いしたんですか?凄いです!!」
「そう、それで今のままの生活だと俺は近い内に死ぬって判明したんだよ」
だから俺はこのままじゃいけないと思って、仲間にもっと優しくしようと心を入れ替えたんだ!
ぐっと拳を握りながら俺は宣言する。演技がかっている自覚はあるが嘘は言っていない。嘘ではない。
俺が女神様と出会ったのは事実だ。繰り返し強く主張する程ミアンの目は冷えて行った。
「でも、ミアンさんはアルヴァさんのことよく知っていますよね」
「そんなの、仲良くなくても何年も一緒に暮らしてれば誰だって……一応仲間なんだし」
罵倒されても引き下がらないクロノに対し、ミアンの言葉が徐々に弱くなっていく。
そして俺は彼女が口ごもりつつ呟いた言葉に、びっくりする程衝撃を受けた。
仲良くなくても仲間。何年も一緒に暮らしてきた。だから相手のことを熟知しているのは当たり前。
俺には他人と長く暮らしていた記憶はない。ただ仲間を家族に置き換えれば納得出来る部分はある。
けれど俺はきっと母や弟の中身が別人になっても、ミアンのように怒って倒そうとしたりしない。
家族だから、何だっていうんだ。自分の生活がこれ以上悪くなければそれでいいじゃないか。
そんな風に考えて気づかないふりで偽者と暮らし続けるだろう。
でも俺の考えは異常だということに今更気づいた。
そうだ、縁というのはそういうものだ。人間が他人と関わって生きると言うのはそういうことだ。忘れていた。忘れていたかった。
俺がミアンに偽物認定された原因は、俺がアルヴァの人生を内心軽んじていたからだ。アルヴァだけじゃない、彼の仲間たちのことも。
アルヴァと長年同居し一緒に冒険してきた仲間との関係を単純視して甘く見ていた。
この世界で二十数年間生きてきたアルヴァ・グレイブラッドという冒険者。
銀級冒険者で、灰色の鷹団のリーダーで、仲間と共同生活が出来る拠点を何年も維持し続けきた。
冷静に考えれば、それは結構凄いことではないだろうか。少なくとも俺には出来ない。
主人公を虐げ追い出して、結果惨めに死んでいく愚かな男。それだけがこの男の一生だと俺はアルヴァのことを無意識に見下していた。
だから何も考えず平気な顔で拠点に戻った。こちらから真実を話さなければアルヴァの中身なんて誰も気に留めないと考えて。
でも、深い絆を持つ相手もいない。家族からさえ必要とされない。
誰が成り代わっても役割さえこなせば気にされない。
そんな灰村タクミという人間とアルヴァは同じ価値ではなかったのだ。
「アルヴァ?」
「アルヴァさん?」
ずっと無言でいる俺を不思議に思ったのか、女性陣が俺の名を口々に呼ぶ。
しかしそれは本当に俺に対して呼びかけた言葉なのか。心が重くなりながらも口を開いた。
「ミアンの処遇は一旦保留にする。そして……二人に伝えたいことがある」
「伝えたいことって何よ」
「俺の様子、おかしくなったと思わないか?その理由だよ」
こちらを見る二人の視線が強くなる。逃げ出したい気持ちを抑えて息を吸った。
俺は偽物じゃない。
前世の記憶が戻っただけ、俺は確かにアルヴァ・グレイブラッドなんだ。
そう強く己に言い聞かせながら口を開く。
「実は信じられないかもしれないが……俺は、神と出会ったんだ」
言い方を少し間違えたかもしれない。気づいたのは発言を終えた後だった。
ちょっと壮大が過ぎた。宗教に目覚めた人みたいなことを言ってしまった。
案の定、魔女の紫の瞳に警戒と呆れが同時に浮かんでいる。その気持はわかる。
でもこの部分については実際嘘ではないのだ。
「……は?何それ、頭でも打った?」
「凄いですアルヴァさん!!」
皮肉にもミアンの疑い深い反応の方が対峙していて落ち着く。クロノは良くも悪くも素直で直球過ぎだと思う。
しかしこんな性格だからこそ不平不満も言わず、こき使われながら床で寝る暮らしを何年も続けていられたのかもしれない。
「頭は、打ったかもしれない。いや多分打ったかな? っていうかソロで依頼こなそうとして洞窟の罠にはまって……」
落とし穴で死にかけた。そう俺は視線を合わさずにぼそぼそと話した。
態度がおかしいのは大嘘を吐いているからだが、二人は失敗談に対する羞恥と解釈した様だった。
「ハ、この馬鹿!犬なのに鼻も利かないのねえ!!あほわんこ!!」
「ち、ちょっとミアンさん。言い過ぎですよ。犬は可愛いです!」
金髪の魔女がそんな俺を容赦なく嘲笑ってくる。嘘だから馬鹿にされても悔しくない。悔しくないが腹は立つ。
「大体そんな罠が設置してある場所に、戦うしか能のないアンタが一人で行くのがそもそも馬鹿!!」
せめて罠対策にカースを誘いなさいよ!そうミアンに正論を言われ反射的に言い返す。
「うっせーな、俺だけでいけると思ったんだよ!」
「あんたはいつもそう!サルガタナスの遺跡の時だって……!!」
先程までの大人しさが嘘のように騒ぐ魔女に、いつものように売り言葉に買い言葉で喧嘩になりかける。
いや、違う。このままでは本筋から逸れまくってしまう。俺はゴホンと咳払いをしてミアンとの会話を断ち切った。
「いや過ぎた事はもういいだろ。……で、俺はずっと気絶していて目が覚めたら真っ白な神殿にいたんだよ。それで凄い美人が助けてくれて……」
「はい嘘、それか妄想」
「良いから黙って聞け!それで俺が礼を言ったら彼女は知の女神だって名乗って、色々知識を教えてくれたんだ」
「女神様にお会いしたんですか?凄いです!!」
「そう、それで今のままの生活だと俺は近い内に死ぬって判明したんだよ」
だから俺はこのままじゃいけないと思って、仲間にもっと優しくしようと心を入れ替えたんだ!
ぐっと拳を握りながら俺は宣言する。演技がかっている自覚はあるが嘘は言っていない。嘘ではない。
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