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第一章
第12話 放置の理由
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残るスキルは後一つだけだ。
そしてそれを決めるのが最も難しい。
未取得のスキルが全部魅力的に見えるし、逆にどれも決め手に欠けるような気がする。
この本を自宅に持ち帰って三日間ぐらい検討させて貰いたい位だ。
「それは無理ですよ」
こちらが可能か確認する前に断られる。心を読まれているからだ。
俺が視線を向けると知の女神はコホンと咳をして言葉を続けた。
「ですが貴方がこの神殿に三日間滞在したいというのなら、検討はしますけれど」
本は外部に持ち出すことは出来ない、ならここで時間をかけて吟味すればいいのだ。そうエレナは言う。
成程、魅力的な提案だ。だが彼女の発言で俺は気づく。
ちょっとこの女神、俺に甘過ぎじゃないだろうか。
初めて顔を合わせた時はもっと厳しい態度だった気がする。
俺が女教師然としたエレナに対し勝手に緊張していただけなのだろうか。
そもそも彼女は何故今のような女神姿ではなく教師の恰好をしていたのだろう。
俺が無言でじっと見つめると知の女神は少し気まずそうに沈黙する。
やがて桜色の薄い唇から美しい声がぽつりと漏れた。
「灰村タクミ君。私は……貴方を誤解していたのです」
「誤解?」
「アルヴァ・グレイブラッドのクロノ・ナイトレイに対する虐待行為です」
そう言われて俺は一気に気まずい気持ちになる。
確かにアルヴァのクロノに対する態度は冷遇を超えて虐待と呼ばれてもおかしくない。
報いを受けて破滅する悪役のロールプレイと言っても見ていて不快になっただろう。
でも、もしエレナが女神として俺たちを観察していたのならもっと早く止めて欲しかったとも思う。
俺は酒場で突然、灰村タクミとしての記憶を取り戻した。だから今はクロノを虐めようとは全く思わない。
そして前世の記憶と人格を取り戻した反動かアルヴァとして生きてきた記憶が曖昧で薄くなっている。
でも冷たい床で縮こまって寝ていた少女の姿を思い出すと申し訳なさで苦しくなった。
エレナがアルヴァを主人公だと誤解していたのは先程の説明で理解している。
だが、だったら尚更少女を虐待する主人公の姿に違和感を覚えて欲しかった。
でもこんな考えも結局責任転嫁で俺は自分が少女を虐待していた事実を受け入れたくないだけかもしれない。
心を読む女神は力無く首を振り俺の自虐を否定した。
「そんなことは、当然です。貴方は少女を虐待して喜ぶようなサディストではありません」
だから私は誤解していたと言ったのです。
眼鏡の奥の目がそっと伏せられ彼女の長い睫毛が際立つ。
「……今なら、彼女の主張にもそう強く言い返せたでしょうに」
どうして貴方に少女を虐待する性癖があるなんて信じてしまったのでしょう。
貴方は通り魔から人々を救った優しい人だったのに。
後悔を滲ませた女神の台詞に俺は言葉を失った。
そしてそれを決めるのが最も難しい。
未取得のスキルが全部魅力的に見えるし、逆にどれも決め手に欠けるような気がする。
この本を自宅に持ち帰って三日間ぐらい検討させて貰いたい位だ。
「それは無理ですよ」
こちらが可能か確認する前に断られる。心を読まれているからだ。
俺が視線を向けると知の女神はコホンと咳をして言葉を続けた。
「ですが貴方がこの神殿に三日間滞在したいというのなら、検討はしますけれど」
本は外部に持ち出すことは出来ない、ならここで時間をかけて吟味すればいいのだ。そうエレナは言う。
成程、魅力的な提案だ。だが彼女の発言で俺は気づく。
ちょっとこの女神、俺に甘過ぎじゃないだろうか。
初めて顔を合わせた時はもっと厳しい態度だった気がする。
俺が女教師然としたエレナに対し勝手に緊張していただけなのだろうか。
そもそも彼女は何故今のような女神姿ではなく教師の恰好をしていたのだろう。
俺が無言でじっと見つめると知の女神は少し気まずそうに沈黙する。
やがて桜色の薄い唇から美しい声がぽつりと漏れた。
「灰村タクミ君。私は……貴方を誤解していたのです」
「誤解?」
「アルヴァ・グレイブラッドのクロノ・ナイトレイに対する虐待行為です」
そう言われて俺は一気に気まずい気持ちになる。
確かにアルヴァのクロノに対する態度は冷遇を超えて虐待と呼ばれてもおかしくない。
報いを受けて破滅する悪役のロールプレイと言っても見ていて不快になっただろう。
でも、もしエレナが女神として俺たちを観察していたのならもっと早く止めて欲しかったとも思う。
俺は酒場で突然、灰村タクミとしての記憶を取り戻した。だから今はクロノを虐めようとは全く思わない。
そして前世の記憶と人格を取り戻した反動かアルヴァとして生きてきた記憶が曖昧で薄くなっている。
でも冷たい床で縮こまって寝ていた少女の姿を思い出すと申し訳なさで苦しくなった。
エレナがアルヴァを主人公だと誤解していたのは先程の説明で理解している。
だが、だったら尚更少女を虐待する主人公の姿に違和感を覚えて欲しかった。
でもこんな考えも結局責任転嫁で俺は自分が少女を虐待していた事実を受け入れたくないだけかもしれない。
心を読む女神は力無く首を振り俺の自虐を否定した。
「そんなことは、当然です。貴方は少女を虐待して喜ぶようなサディストではありません」
だから私は誤解していたと言ったのです。
眼鏡の奥の目がそっと伏せられ彼女の長い睫毛が際立つ。
「……今なら、彼女の主張にもそう強く言い返せたでしょうに」
どうして貴方に少女を虐待する性癖があるなんて信じてしまったのでしょう。
貴方は通り魔から人々を救った優しい人だったのに。
後悔を滲ませた女神の台詞に俺は言葉を失った。
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