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第一章
第7話 失敗世界の救世主
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眼鏡の美女、エレナが言うには俺の転生先をクリエイトする際に参考にした資料が悪かったらしい。
それはつまり俺がノートに書き貯めた小説になる訳だが。
「えっ、このアルヴァという人物が主役じゃないの?」
「あの、それはいわばスピンオフ短編で」
「なんですぐに死ぬ敵なんかをわざわざ取り上げるのよ!」
「それは、まあ、悪役にもそれぞれの人生がある、みたいな」
「それとここ、クロノ・ナイトレイの容姿説明で中性的な美少女って書いてありますけど」
「あっ、それは誤字……ですね」
「なんで書き終えた後に見直しをしないんですか!?」
なんで俺、未来人に自作小説を駄目出しされているのだろう。
そもそも他人に見せるつもりで書いたものじゃないのに。いや賞に応募するつもりではあったけれど。
でも母親に燃やされて灰になったノートがまさか千年後に復元されて第三者に読まれるとは思わないだろう。
「つまり俺の魂がアルヴァとして転生したのは、短編と本編が混ざってしまったからで……」
「そしてクロノ・ナイトレイが女性になったのは貴方の誤字が原因です」
私は悪くありません。エレナの眼差しが雄弁に主張している。
「でも作品を最後まで読めば、クロノが主人公なのも男性設定であることもわかる気がするんですけど」
「……それは、どうでしょう」
「えっ」
「貴方の作品を完璧に復元できた訳ではないので」
だって千年前に灰になった作品ですよ。そう眼鏡を持ち上げながら女教師が言う。
どうやら俺の小説ノートはページ数はバラバラ、ところどころ虫食い状態で存在しているらしい。
そこから登場人物たちの特徴を抽出し反映させたのが俺が先程までいた世界ということだ。
千年後の人類は俺の願いを叶えてくれようとした。
ただ利用した資料が完璧でないせいで、俺の意図した転生とは違う結果になったというわけだ。
しかしよりにもよってすぐ死ぬ噛ませキャラとして生まれ変わらせなくても。
「ですがリカバリーは出来ます。貴方の望み通りに世界と人間たちを作り直しましょう」
まるで書類をコピーをし直す様な気軽さでエレナが提案する。もしくは開始直後のゲームをセーブせずやり直すような。
ただ俺はそれにすぐ頷くことができなかった。
酒場の女将、そして少女の姿のクロノ。彼女たちは、いやあの世界の住人達はどうなるのだろうか。
俺の質問にエレナはなんでもないことのように答えた。
「失敗作なので舞台ごと消去します。でもすぐに同等の存在を生み出しますので」
待ち時間も無く正しい世界を楽しめますよ。テーマパークのキャストのような笑顔を浮かべ未来人は告げた。
失敗作という言葉に、母親の顔が浮かぶ。知らない間に消滅した俺の部屋と燃やされたノート。
あどけないクロノの寝顔と、俺を店から追い出しつつも「ちゃんと家に帰れ」と告げた女将の声を思い出す。
彼女たちは生きている。そして彼女たち以外の存在もきっと。
アルヴァは、俺はまだ死んでいない。クロノを追放していない。破滅ルートには入ってない。
まだ、きっとやり直せる。
主人公じゃなくても、世界と人々を犠牲にしなくても。
今度こそちゃんと生きて、ちゃんと幸せになる。
「住人を消してまで作り直す必要はない。俺はアルヴァとして生きていくよ」
そうエレナに宣言した途端、手の甲が燃えるように熱くなった。
「熱ッ!」
しかし灼熱の痛みは一瞬で、恐る恐る確認した右手の甲には文字か模様かもわからない刻印が赤く浮かんでいた。
『条件クリア、失敗世界の救世主の称号ヲ得マシタ』
そしてそれを待っていたかのように、壁のスピーカーから機械的な声が流れ出す。
『アルヴァ・グレイブラッド。該当ユーザーノ高位スキルガ複数解放可能デス』
「やれやれ、仕方ないですね……本当、呆れるぐらいお人好しだわ」
女神エレンノ指示ニ従イ、スキル選択シテクダサイ。
その台詞と共に教室が荘厳な神殿へと変化する。
事態についていけないまま、それでも俺の胸は興奮に高鳴っていた。
それはつまり俺がノートに書き貯めた小説になる訳だが。
「えっ、このアルヴァという人物が主役じゃないの?」
「あの、それはいわばスピンオフ短編で」
「なんですぐに死ぬ敵なんかをわざわざ取り上げるのよ!」
「それは、まあ、悪役にもそれぞれの人生がある、みたいな」
「それとここ、クロノ・ナイトレイの容姿説明で中性的な美少女って書いてありますけど」
「あっ、それは誤字……ですね」
「なんで書き終えた後に見直しをしないんですか!?」
なんで俺、未来人に自作小説を駄目出しされているのだろう。
そもそも他人に見せるつもりで書いたものじゃないのに。いや賞に応募するつもりではあったけれど。
でも母親に燃やされて灰になったノートがまさか千年後に復元されて第三者に読まれるとは思わないだろう。
「つまり俺の魂がアルヴァとして転生したのは、短編と本編が混ざってしまったからで……」
「そしてクロノ・ナイトレイが女性になったのは貴方の誤字が原因です」
私は悪くありません。エレナの眼差しが雄弁に主張している。
「でも作品を最後まで読めば、クロノが主人公なのも男性設定であることもわかる気がするんですけど」
「……それは、どうでしょう」
「えっ」
「貴方の作品を完璧に復元できた訳ではないので」
だって千年前に灰になった作品ですよ。そう眼鏡を持ち上げながら女教師が言う。
どうやら俺の小説ノートはページ数はバラバラ、ところどころ虫食い状態で存在しているらしい。
そこから登場人物たちの特徴を抽出し反映させたのが俺が先程までいた世界ということだ。
千年後の人類は俺の願いを叶えてくれようとした。
ただ利用した資料が完璧でないせいで、俺の意図した転生とは違う結果になったというわけだ。
しかしよりにもよってすぐ死ぬ噛ませキャラとして生まれ変わらせなくても。
「ですがリカバリーは出来ます。貴方の望み通りに世界と人間たちを作り直しましょう」
まるで書類をコピーをし直す様な気軽さでエレナが提案する。もしくは開始直後のゲームをセーブせずやり直すような。
ただ俺はそれにすぐ頷くことができなかった。
酒場の女将、そして少女の姿のクロノ。彼女たちは、いやあの世界の住人達はどうなるのだろうか。
俺の質問にエレナはなんでもないことのように答えた。
「失敗作なので舞台ごと消去します。でもすぐに同等の存在を生み出しますので」
待ち時間も無く正しい世界を楽しめますよ。テーマパークのキャストのような笑顔を浮かべ未来人は告げた。
失敗作という言葉に、母親の顔が浮かぶ。知らない間に消滅した俺の部屋と燃やされたノート。
あどけないクロノの寝顔と、俺を店から追い出しつつも「ちゃんと家に帰れ」と告げた女将の声を思い出す。
彼女たちは生きている。そして彼女たち以外の存在もきっと。
アルヴァは、俺はまだ死んでいない。クロノを追放していない。破滅ルートには入ってない。
まだ、きっとやり直せる。
主人公じゃなくても、世界と人々を犠牲にしなくても。
今度こそちゃんと生きて、ちゃんと幸せになる。
「住人を消してまで作り直す必要はない。俺はアルヴァとして生きていくよ」
そうエレナに宣言した途端、手の甲が燃えるように熱くなった。
「熱ッ!」
しかし灼熱の痛みは一瞬で、恐る恐る確認した右手の甲には文字か模様かもわからない刻印が赤く浮かんでいた。
『条件クリア、失敗世界の救世主の称号ヲ得マシタ』
そしてそれを待っていたかのように、壁のスピーカーから機械的な声が流れ出す。
『アルヴァ・グレイブラッド。該当ユーザーノ高位スキルガ複数解放可能デス』
「やれやれ、仕方ないですね……本当、呆れるぐらいお人好しだわ」
女神エレンノ指示ニ従イ、スキル選択シテクダサイ。
その台詞と共に教室が荘厳な神殿へと変化する。
事態についていけないまま、それでも俺の胸は興奮に高鳴っていた。
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