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第一章
第6話 神様気取りの手違い
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目が覚めたら放課後の教室にいた。
教卓の真上に設置された時計はガラスにヒビが入っている。だからここが中学三年生の時の教室だと気づいた。
野球部のサイトウたちがボール遊びをして割ったのだ。止めなかったという理由で俺まで教師に怒られた。
何十年も忘れていたのに、こんな些細な情報で鮮やかに思い出す。
どうやら肉体も中学生に戻っているらしい。
頬のニキビ跡に触れていると、前の扉を開けて誰かが入って来た。
「灰村タクミ様」
点呼を取るように俺の名を読んだのは眼鏡をかけた女性だった。まとめ髪に細身のスーツ。口元に小さな黒子がある。
二十代半ばか後半位の性格のきつそうな美人だ。三年の時の担任がこのような人物だった気がする。。
漠然とした懐かしさを感じても名前は思い出せない。
どうせ中身は別人だろう。そんなことを考えていると彼女は教壇に立った。
「貴方はとても偉大なことをしました」
「はあ」
思わず間の抜けた返事をする。心当たりがない。人違いではという気分だ。
女教師はそんな俺を見て呆れたように溜息を吐いた。
「自分の死因をもう忘れたのですか?」
「いえ、流石にまだ覚えていますけど」
「貴方が命を賭して通り魔を止めなければ、貴方以外に三人が亡くなっていました」
「ああ、そのことですか」
「そして死亡する人間の中に、わかりやすく言えば人類の救世主がいたのです。当時はまだ胎児でしたが」
「それは……」
随分と規模の大きな話だ。他人事のような感想が浮かぶ。
そういえば悲鳴を上げた女性のお腹が膨らんでいた気がする。俺が通り魔から離れていたら彼女も犠牲になっていたという事か。
救世主というのがどういう存在かピンと来ないが、彼女もお腹の子も助かったなら良かった。
「そして滅亡の危機を回避出来た人類は貴方の時代から千年以上経っても存在し続けています」
素晴らしいことでしょう? 同意を得るように言われて曖昧に頷く。
やっと満足のいくアクションを得られたのか、彼女は俺に対し唇の端を吊り上げた。
「結果、人類は創生神の真似事が出来るようになりました。だからこうやって貴方の願いを叶えて差し上げたのです」
進化した人類の叡智は素晴らしいでしょう?
祈るように手を組み俺より千歳年下の女教師は言う。
買って貰ったばかりの玩具を自慢していた幼い甥の姿を思い出した。
多分俺は凄い凄いとはしゃいで大袈裟に嬉しがるべきなのだ。目の前の女教師を喜ばせたいのなら。
だがしかし、どうしても言いたいことはある。
俺は中途半端な高さで挙手し女性に言った。
「すみません、余り叶ってないです」
何故か俺、序盤で死ぬ悪役になっているんですけど。
そう告げた所、女教師は目を丸くした。
教卓の真上に設置された時計はガラスにヒビが入っている。だからここが中学三年生の時の教室だと気づいた。
野球部のサイトウたちがボール遊びをして割ったのだ。止めなかったという理由で俺まで教師に怒られた。
何十年も忘れていたのに、こんな些細な情報で鮮やかに思い出す。
どうやら肉体も中学生に戻っているらしい。
頬のニキビ跡に触れていると、前の扉を開けて誰かが入って来た。
「灰村タクミ様」
点呼を取るように俺の名を読んだのは眼鏡をかけた女性だった。まとめ髪に細身のスーツ。口元に小さな黒子がある。
二十代半ばか後半位の性格のきつそうな美人だ。三年の時の担任がこのような人物だった気がする。。
漠然とした懐かしさを感じても名前は思い出せない。
どうせ中身は別人だろう。そんなことを考えていると彼女は教壇に立った。
「貴方はとても偉大なことをしました」
「はあ」
思わず間の抜けた返事をする。心当たりがない。人違いではという気分だ。
女教師はそんな俺を見て呆れたように溜息を吐いた。
「自分の死因をもう忘れたのですか?」
「いえ、流石にまだ覚えていますけど」
「貴方が命を賭して通り魔を止めなければ、貴方以外に三人が亡くなっていました」
「ああ、そのことですか」
「そして死亡する人間の中に、わかりやすく言えば人類の救世主がいたのです。当時はまだ胎児でしたが」
「それは……」
随分と規模の大きな話だ。他人事のような感想が浮かぶ。
そういえば悲鳴を上げた女性のお腹が膨らんでいた気がする。俺が通り魔から離れていたら彼女も犠牲になっていたという事か。
救世主というのがどういう存在かピンと来ないが、彼女もお腹の子も助かったなら良かった。
「そして滅亡の危機を回避出来た人類は貴方の時代から千年以上経っても存在し続けています」
素晴らしいことでしょう? 同意を得るように言われて曖昧に頷く。
やっと満足のいくアクションを得られたのか、彼女は俺に対し唇の端を吊り上げた。
「結果、人類は創生神の真似事が出来るようになりました。だからこうやって貴方の願いを叶えて差し上げたのです」
進化した人類の叡智は素晴らしいでしょう?
祈るように手を組み俺より千歳年下の女教師は言う。
買って貰ったばかりの玩具を自慢していた幼い甥の姿を思い出した。
多分俺は凄い凄いとはしゃいで大袈裟に嬉しがるべきなのだ。目の前の女教師を喜ばせたいのなら。
だがしかし、どうしても言いたいことはある。
俺は中途半端な高さで挙手し女性に言った。
「すみません、余り叶ってないです」
何故か俺、序盤で死ぬ悪役になっているんですけど。
そう告げた所、女教師は目を丸くした。
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