5 / 131
第一章
第5話 俺の知るクロノじゃない
しおりを挟む
もしかしたらクロノの説明に「中性的な美少年」と書いたかもしれない。
成程、それが理由か。俺は納得して主人公の顔を見つめた。
チート持ちである彼は、灰色の鷹団追放後どんどん魅力的な女性たちと出会う。
そしてほぼ全員から惚れられる。これぐらい美形じゃないと釣り合いが取れない。
序盤の噛ませ犬であるアルヴァさえ顔は良い類なのだ。
俺が長々と見つめていたせいかクロノが「うーん」と言いながら寝返りを打った。
その拍子に毛布がめくれ、粗末な服を纏った細い体が表れた。
寝苦しいのか首元を寛げているせいで上着の隙間から鎖骨や白い胸元が見える。
毛布を掛け直そうと近づき、俺は目が点になった。
胸がある。いや胸はあるだろう。人間なのだから。俺にだってある。
違う。そういうことではなくて。胸が膨らんでいるのだ。
ガリガリに痩せた体なのに、薄くても確かに女性としての発育の証がある。
「うぇえええええ!?」
思わず口から出た声は予想以上に大きかった。
有り得ないものを見た衝撃と見てはいけないものを見てしまったという狼狽。
何故クロノが女性なのだ。男主人公なのに。それはおかしいだろう。
いやそもそも自分の作品の中に俺が悪役として転生していること自体が異常なのか。
今更そんなことを考えつつ、俺は勢い良く立ち上がった。この場から逃げなければ。
クロノに毛布をかけ直すどころではない。
少女の体に俺のようなおっさんが触れていい筈が無いのだ。近寄るだけで警察を呼ばれてしまう。
前世、満員電車で何回か痴漢呼ばわりされた時のトラウマが甦る。
半ばパニックになりつつ俺は台所から脱出しようとした。走って逃げようとしたのだ。
そしてクロノによって磨き上げられた床は容赦なく俺の足を滑らせる。
後頭部に強い衝撃を受け、意識が飛ぶ瞬間クロノとの会話が脳裏に浮かんだ。
『おい、床が汚いってミアンが言ってたぞ。鏡みたくなるまでお前飯食うなよ』
『は、はい。わかりました……アルヴァさん』
『なんだよその目は、不満があるなら出て行けよ、田舎に帰っちまえ』
『……それだけは、できません』
『なら黙って働け。出来損ないのお前を雇ってくれるパーティーなんてねぇよ』
お人好しの俺たち以外にはな。
そう軽薄に笑う男(じぶん)の声に、殺意を覚えながら俺は気絶した。
成程、それが理由か。俺は納得して主人公の顔を見つめた。
チート持ちである彼は、灰色の鷹団追放後どんどん魅力的な女性たちと出会う。
そしてほぼ全員から惚れられる。これぐらい美形じゃないと釣り合いが取れない。
序盤の噛ませ犬であるアルヴァさえ顔は良い類なのだ。
俺が長々と見つめていたせいかクロノが「うーん」と言いながら寝返りを打った。
その拍子に毛布がめくれ、粗末な服を纏った細い体が表れた。
寝苦しいのか首元を寛げているせいで上着の隙間から鎖骨や白い胸元が見える。
毛布を掛け直そうと近づき、俺は目が点になった。
胸がある。いや胸はあるだろう。人間なのだから。俺にだってある。
違う。そういうことではなくて。胸が膨らんでいるのだ。
ガリガリに痩せた体なのに、薄くても確かに女性としての発育の証がある。
「うぇえええええ!?」
思わず口から出た声は予想以上に大きかった。
有り得ないものを見た衝撃と見てはいけないものを見てしまったという狼狽。
何故クロノが女性なのだ。男主人公なのに。それはおかしいだろう。
いやそもそも自分の作品の中に俺が悪役として転生していること自体が異常なのか。
今更そんなことを考えつつ、俺は勢い良く立ち上がった。この場から逃げなければ。
クロノに毛布をかけ直すどころではない。
少女の体に俺のようなおっさんが触れていい筈が無いのだ。近寄るだけで警察を呼ばれてしまう。
前世、満員電車で何回か痴漢呼ばわりされた時のトラウマが甦る。
半ばパニックになりつつ俺は台所から脱出しようとした。走って逃げようとしたのだ。
そしてクロノによって磨き上げられた床は容赦なく俺の足を滑らせる。
後頭部に強い衝撃を受け、意識が飛ぶ瞬間クロノとの会話が脳裏に浮かんだ。
『おい、床が汚いってミアンが言ってたぞ。鏡みたくなるまでお前飯食うなよ』
『は、はい。わかりました……アルヴァさん』
『なんだよその目は、不満があるなら出て行けよ、田舎に帰っちまえ』
『……それだけは、できません』
『なら黙って働け。出来損ないのお前を雇ってくれるパーティーなんてねぇよ』
お人好しの俺たち以外にはな。
そう軽薄に笑う男(じぶん)の声に、殺意を覚えながら俺は気絶した。
23
お気に入りに追加
1,383
あなたにおすすめの小説

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。


異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる