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第一章

第5話 俺の知るクロノじゃない

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 もしかしたらクロノの説明に「中性的な美少年」と書いたかもしれない。
 成程、それが理由か。俺は納得して主人公の顔を見つめた。
 チート持ちである彼は、灰色の鷹団追放後どんどん魅力的な女性たちと出会う。

 そしてほぼ全員から惚れられる。これぐらい美形じゃないと釣り合いが取れない。
 序盤の噛ませ犬であるアルヴァさえ顔は良い類なのだ。
 俺が長々と見つめていたせいかクロノが「うーん」と言いながら寝返りを打った。

 その拍子に毛布がめくれ、粗末な服を纏った細い体が表れた。
 寝苦しいのか首元を寛げているせいで上着の隙間から鎖骨や白い胸元が見える。
 毛布を掛け直そうと近づき、俺は目が点になった。

 胸がある。いや胸はあるだろう。人間なのだから。俺にだってある。
 違う。そういうことではなくて。胸が膨らんでいるのだ。
 ガリガリに痩せた体なのに、薄くても確かに女性としての発育の証がある。

「うぇえええええ!?」

 思わず口から出た声は予想以上に大きかった。
 有り得ないものを見た衝撃と見てはいけないものを見てしまったという狼狽。
 何故クロノが女性なのだ。男主人公なのに。それはおかしいだろう。 

 いやそもそも自分の作品の中に俺が悪役として転生していること自体が異常なのか。
 今更そんなことを考えつつ、俺は勢い良く立ち上がった。この場から逃げなければ。
 クロノに毛布をかけ直すどころではない。
 少女の体に俺のようなおっさんが触れていい筈が無いのだ。近寄るだけで警察を呼ばれてしまう。

 前世、満員電車で何回か痴漢呼ばわりされた時のトラウマが甦る。 
 半ばパニックになりつつ俺は台所から脱出しようとした。走って逃げようとしたのだ。

 そしてクロノによって磨き上げられた床は容赦なく俺の足を滑らせる。
 後頭部に強い衝撃を受け、意識が飛ぶ瞬間クロノとの会話が脳裏に浮かんだ。

『おい、床が汚いってミアンが言ってたぞ。鏡みたくなるまでお前飯食うなよ』 

『は、はい。わかりました……アルヴァさん』

『なんだよその目は、不満があるなら出て行けよ、田舎に帰っちまえ』

『……それだけは、できません』

『なら黙って働け。出来損ないのお前を雇ってくれるパーティーなんてねぇよ』

 お人好しの俺たち以外にはな。

 そう軽薄に笑う男(じぶん)の声に、殺意を覚えながら俺は気絶した。

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