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第一章
第2話 悪役への転生
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「ちょっとアルヴァ、ウチはもう店じまいだよ!」
さっさと起きて出て行ってくれ。
迷惑さを隠しもしない女性の声が鼓膜を叩く。
店員が眠り込んだ酔っ払いを叱っているのだろうか。
他人事とはいえ居心地が悪い。
ぼんやりとした意識でそんなことを考えていたら、急に冷たい水が頭上から降って来た。
「アンタに言ってるんだよ、アルヴァ・グレイブラッド!このろくでなし冒険者!!」
驚いて上半身をガバリと木のテーブルから起こす。
見上げると水桶を持った恰幅の良い中年女性が俺を睨みつけていた。
俺はそんな外国人みたいな名前じゃない。
人違いですと、口に出そうとした刹那突然頭に電流が走った。
アルヴァ・グレイブラッド。俺はその名前を知っている。思い出した。
中学生の頃書いていたファンタジー小説『漆黒のナイトレイ』の登場人物だ。
主人公、クロノ・ナイトレイが所属する冒険者パーティー『灰色の鷹』のリーダー。
二十代後半の赤髪の剣士。そこまで弱くはないが最強主人公にとっては雑魚でしかない。
好きな物は女と名声と金。主人公の実力を見抜けず無能扱いし雑用係として酷使する。
挙句クロノを「自分の最強パーティーにはふさわしくない」と追放する。
その後、真の仲間たちと出会いどんどん有名になっていく彼に嫉妬し騙し討ちをしようとして惨めに死ぬ。
愚かで哀れな序盤の悪役だ。
書いていた当時は気づかなかったが、いわゆる『ざまぁ』対象のキャラということになるだろう。
そして俺は、どうやらそんな小悪党になってしまっているらしい。
「ぼんやりしてないでさっさと出て行っておくれアルヴァ!!」
じゃないと今度は熱湯をぶっかけるよ、そう言いながら酒場の女将は俺を睨みつける。
彼女は物語の最初からクロノに対し親切な人物だ。昔病気で亡くした息子に似ているからという理由だ。
だから彼をこき使い自分は酒場に入り浸っているアルヴァを嫌っているのだ。
次から次へ設定という名の記憶が引き出されてくる。便利だが気が狂いそうだ。
俺は現代日本で通り魔に殺された筈なのに、何故か自分が書いた小説の中で生きている。
灰村タクミではなく、アルヴァ・グレイブラッドという人物になって。
「どういうことなんだよ……」
呟いた声に聞き覚えは無かった。
さっさと起きて出て行ってくれ。
迷惑さを隠しもしない女性の声が鼓膜を叩く。
店員が眠り込んだ酔っ払いを叱っているのだろうか。
他人事とはいえ居心地が悪い。
ぼんやりとした意識でそんなことを考えていたら、急に冷たい水が頭上から降って来た。
「アンタに言ってるんだよ、アルヴァ・グレイブラッド!このろくでなし冒険者!!」
驚いて上半身をガバリと木のテーブルから起こす。
見上げると水桶を持った恰幅の良い中年女性が俺を睨みつけていた。
俺はそんな外国人みたいな名前じゃない。
人違いですと、口に出そうとした刹那突然頭に電流が走った。
アルヴァ・グレイブラッド。俺はその名前を知っている。思い出した。
中学生の頃書いていたファンタジー小説『漆黒のナイトレイ』の登場人物だ。
主人公、クロノ・ナイトレイが所属する冒険者パーティー『灰色の鷹』のリーダー。
二十代後半の赤髪の剣士。そこまで弱くはないが最強主人公にとっては雑魚でしかない。
好きな物は女と名声と金。主人公の実力を見抜けず無能扱いし雑用係として酷使する。
挙句クロノを「自分の最強パーティーにはふさわしくない」と追放する。
その後、真の仲間たちと出会いどんどん有名になっていく彼に嫉妬し騙し討ちをしようとして惨めに死ぬ。
愚かで哀れな序盤の悪役だ。
書いていた当時は気づかなかったが、いわゆる『ざまぁ』対象のキャラということになるだろう。
そして俺は、どうやらそんな小悪党になってしまっているらしい。
「ぼんやりしてないでさっさと出て行っておくれアルヴァ!!」
じゃないと今度は熱湯をぶっかけるよ、そう言いながら酒場の女将は俺を睨みつける。
彼女は物語の最初からクロノに対し親切な人物だ。昔病気で亡くした息子に似ているからという理由だ。
だから彼をこき使い自分は酒場に入り浸っているアルヴァを嫌っているのだ。
次から次へ設定という名の記憶が引き出されてくる。便利だが気が狂いそうだ。
俺は現代日本で通り魔に殺された筈なのに、何故か自分が書いた小説の中で生きている。
灰村タクミではなく、アルヴァ・グレイブラッドという人物になって。
「どういうことなんだよ……」
呟いた声に聞き覚えは無かった。
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