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76.蚊帳の外の当事者
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「はあ、吃驚したなあ……」
馬車に揺られながら溜息を吐く。
俺たちは少し前にアイリーンの家を後にしていた。
二人はやることがあるらしくリード伯爵邸にはついてこないらしい。
他家のアイリーンは兎も角、マレーナはセシリア奪還目的で絶対乗り込むと思ったが予想が外れた。
「勘違いとは言え、彼女には悪いことしたな。自分がセシリアの格好をしていること忘れてた」
窓に映るドレス姿の自分を眺め呟く。
俺とアリオスが会話している姿が恋人同士に見えたのかマレーナは突如号泣し始めたのだ。
アイリーンは苦笑いしながら「この娘失恋したばかりなの、御免なさいね」と代わりに謝っていた。
失恋した相手というのは十中八九俺の双子の妹だろう。
アイリーンもセシリアには好きな人がいると言っていたし。
俺たちと合流する前にマレーナもその事実を伝えられたのだろうか。
だとしたら女装した俺の姿を見るのも辛かったかもしれない。
そんな訳で俺たちは迅速に女性二人が暮らす家を後にしたのだった。
「アイリーンは通帳を俺に返したかったのはわかるけれど、セシリアはいつ俺の部屋から取っていったんだ……」
そうぼやいた後で何時でも取り放題だなと気づく。
セシリアは俺の服を借りるという名目で俺が不在だろうと気にせず入室していた。
俺もそれに慣れ切っていたから騒ぐこともしなかった。
「……まさか服を借りるというのも、通帳を持っていく為の囮だった?」
「そうかもしれないな」
俺の疑問に対面のアリオスが静かに答える。
「そして君の通帳に自らの退職金を入金した上で両親の手に渡らないようオーガス伯爵令嬢に保管を頼んだ」
「セシリアの奴、親友とはいえアイリーンに大変なこと頼み過ぎだろ」
もし両親がそのことを知ったらアイリーンが泥棒扱いされる可能性だってあった。
ただでさえ彼女の父親の再婚で俺の両親、特に母はあの家を良く思っていないのだ。
「だがオーガス伯爵令嬢は役割を全うし、君に通帳を返した。これで問題の一つは解決した」
「そうですね。通帳は俺がずっと持っていたことにすればいい。……両親が俺の通帳なんて気にしていないのが一番良いですけれどね」
父母がセシリアの通帳を取り上げていなければもっと良い。子供の金は親の金。そういう考えがあることも知っている。
でも俺はセシリアが働いて得た金はセシリアのものであって欲しい。それを許す両親でいて欲しい。叶わぬ願いだとしても。
いやそんなことを考えていたら駄目だ。両親に対し動揺しないように今の内に最悪な想定をした方が良いかもしれない。
そういや父親はアリオスを男色だと勘違いして俺を売りつけたんだ。そして金を寄越せと下劣な手紙を送りつけていた。
マレーナがそれを運んでいたのは先程聞いたばかりだが、潔癖な印象の彼女が内容を知ったらおぞましさに吐いているかもしれない。
両親はセシリアの忠実な侍女である彼女を邪魔者扱いでアンブローズ公爵邸に押し付けつつ、定期的に戻って俺たちの様子を報告するよう指示していた。
そしてマレーナの後を追ってその企みを知ったアンブローズ公爵家は彼女を逆スパイに仕立て上げたと言う訳だ。
俺の両親によって伯爵家に長居できないマレーナは、それでもタンポポ大好き号の様子だけは都度確認していた。
だからセシリアが屋敷内に居ることは彼女もアイリーンもそしてアリオスもわかっていた。俺だけ蚊帳の外だった訳だ。
馬車に揺られながら溜息を吐く。
俺たちは少し前にアイリーンの家を後にしていた。
二人はやることがあるらしくリード伯爵邸にはついてこないらしい。
他家のアイリーンは兎も角、マレーナはセシリア奪還目的で絶対乗り込むと思ったが予想が外れた。
「勘違いとは言え、彼女には悪いことしたな。自分がセシリアの格好をしていること忘れてた」
窓に映るドレス姿の自分を眺め呟く。
俺とアリオスが会話している姿が恋人同士に見えたのかマレーナは突如号泣し始めたのだ。
アイリーンは苦笑いしながら「この娘失恋したばかりなの、御免なさいね」と代わりに謝っていた。
失恋した相手というのは十中八九俺の双子の妹だろう。
アイリーンもセシリアには好きな人がいると言っていたし。
俺たちと合流する前にマレーナもその事実を伝えられたのだろうか。
だとしたら女装した俺の姿を見るのも辛かったかもしれない。
そんな訳で俺たちは迅速に女性二人が暮らす家を後にしたのだった。
「アイリーンは通帳を俺に返したかったのはわかるけれど、セシリアはいつ俺の部屋から取っていったんだ……」
そうぼやいた後で何時でも取り放題だなと気づく。
セシリアは俺の服を借りるという名目で俺が不在だろうと気にせず入室していた。
俺もそれに慣れ切っていたから騒ぐこともしなかった。
「……まさか服を借りるというのも、通帳を持っていく為の囮だった?」
「そうかもしれないな」
俺の疑問に対面のアリオスが静かに答える。
「そして君の通帳に自らの退職金を入金した上で両親の手に渡らないようオーガス伯爵令嬢に保管を頼んだ」
「セシリアの奴、親友とはいえアイリーンに大変なこと頼み過ぎだろ」
もし両親がそのことを知ったらアイリーンが泥棒扱いされる可能性だってあった。
ただでさえ彼女の父親の再婚で俺の両親、特に母はあの家を良く思っていないのだ。
「だがオーガス伯爵令嬢は役割を全うし、君に通帳を返した。これで問題の一つは解決した」
「そうですね。通帳は俺がずっと持っていたことにすればいい。……両親が俺の通帳なんて気にしていないのが一番良いですけれどね」
父母がセシリアの通帳を取り上げていなければもっと良い。子供の金は親の金。そういう考えがあることも知っている。
でも俺はセシリアが働いて得た金はセシリアのものであって欲しい。それを許す両親でいて欲しい。叶わぬ願いだとしても。
いやそんなことを考えていたら駄目だ。両親に対し動揺しないように今の内に最悪な想定をした方が良いかもしれない。
そういや父親はアリオスを男色だと勘違いして俺を売りつけたんだ。そして金を寄越せと下劣な手紙を送りつけていた。
マレーナがそれを運んでいたのは先程聞いたばかりだが、潔癖な印象の彼女が内容を知ったらおぞましさに吐いているかもしれない。
両親はセシリアの忠実な侍女である彼女を邪魔者扱いでアンブローズ公爵邸に押し付けつつ、定期的に戻って俺たちの様子を報告するよう指示していた。
そしてマレーナの後を追ってその企みを知ったアンブローズ公爵家は彼女を逆スパイに仕立て上げたと言う訳だ。
俺の両親によって伯爵家に長居できないマレーナは、それでもタンポポ大好き号の様子だけは都度確認していた。
だからセシリアが屋敷内に居ることは彼女もアイリーンもそしてアリオスもわかっていた。俺だけ蚊帳の外だった訳だ。
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