初夜に「君を愛するつもりはない」と人形公爵から言われましたが俺は偽者花嫁なので大歓迎です

砂礫レキ

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68.元婚約者との再会

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 正直、女装姿を元婚約者には見られたくない。
 しかも今は妹のドレスを着ているのだ。
 だからこそわかってしまう。アリオスがアイリーンに会うことを俺に隠していた理由を。

「……俺がセシリアの格好をしてアイリーンに会う必要があるということですよね?」
「すまない」

 謝罪を了承と受け取って俺は溜息を吐いた。
 公爵邸に居た段階で打ち明けられていたら俺は多分難色を示しただろう。
 だからこうやって何も知らせず現地に連れてくるのが一番スムーズなのだ。

「君を騙したことについての償いはさせて貰う」
「いや別に良いです、それが必要だと判断したってことですから」

 騙したと言われて父親のことを思い出し胸がチクリと痛んだ。
 だがアリオスは俺たち伯爵家の問題に巻き込まれ協力してくれている側だ。
 何より俺がセシリアの格好をして元婚約者に会わなければいけない理由が知りたい。

「それより、早くアイリーンの元に向かいましょう。俺は平気なので」

 にこりと微笑んでアリオスを促す。
 彼は無表情の仮面を張り付けわかったと頷いた。



 アイリーンと、そしてマレーナが暮らしているのは町外れの小さな一軒家だった。
 平民でも家族連れは選ばなそうな質素で小さな家だ。
 伯爵家の一人娘であるアイリーンが暮らしていけると思えない。

 だから家出してから今まで誰にも見つからなかったのだろうか。
 そもそもアイリーンの生家は彼女の捜索を今でも続けているのだろうか。
 色々なことを考えながら俺は扉の前に立ち呼び鈴を鳴らした。
 少しの時間の後「どなたですか」と固い女性の声が聞こえる。
 多分マレーナだろう。彼女の声なんてろくに覚えてないけれど、アイリーンでは無かった。
 だから消去法で彼女だ。もしかしたら知らない第三者かもしれないが。

「アリオス・アンブローズだ。大切な客人も連れてきた」
「……かしこまりました」

 アリオスが名乗ると扉の向こうから返事が来る。
 そしてカチャカチャと恐らく解錠する音も聞こえた。
 やがてゆっくりと扉が開く。
 俺は当然マレーナが出迎えると思った。
 その予感は当たっていた、けれど彼女だけでは無かった。
 アイリーンも居た。ただ俺の知る彼女では無かった。

「久し振り……セレスト、だよね?」
「……アイリーン、だよな?」

 彼女は腰まであった髪を短く切り揃えていた。そう、俺よりも短く。
 そして平民の格好をしていた。正しく言えば平民の男性の服を着ていた。
 まるで別人だ。今の彼女は細身の男性にしか見えない。

 俺は自分の事を棚に上げて元婚約者の変貌に息を呑んだ。
 
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