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67.予期せぬ知人
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俺が違和感に気づいてから間もなく馬車は止まった。
当然俺のリード伯爵家に到着したわけではない。
だが全く見知らぬ場所では無く、そこはアリオスと俺の実家のちょうど中間にある街だった。
その外れにある停車所に馬車は辿り着いたのだった。
「……アリオス?」
「突然で済まないが君に会わせたい人が居る」
対面に座るアンブローズ公爵家当主の名を呼ぶと、そう告げられる。
予想していなかった返答に俺は目を丸くした。
「会わせたい人って……俺の知り合いですか?」
「ああ、そうだ。それからリード伯爵亭に向かう。なので今から私に付き合って欲しい」
そう言われて俺は頷いた。必要があるから、わざわざ寄り道したのだろうし。
しかし本当に誰なのだろう。知り合いらしいが。俺は聞いてみることにした。
「すみません。相手の名前を教えて貰う事は可能ですか?」
「アイリーン・オーガス伯爵令嬢と、マレーナ・シュルツ子爵令嬢だ」
「へあ?!」
思わず声が跳ね上がる。予想が出来ないにも程がある。
アイリーンって、俺の婚約者の、いや元婚約者のアイリーンのことか?
フルネームが完全合致しているからそうなのだろう。彼女はこの街にいたのか。
しかしなんでそれをアリオスが、というかマレーナって誰だったっけ。
「マレーナ・シュルツはセシリア嬢の侍女をしていた娘だ」
「あっ」
そうだ思い出した。
あの灰色の髪のセシリア命と顔に張り付けてあるような侍女。
エストと侍女の仕事を分担させるつもりだったけれど、憔悴してとても無理だから即日実家に帰した娘だ。
「……ああ」
何となくわかった気がする。といっても肝心なことはわからないが。
「あの日、馬車を断り徒歩で戻ると言ったマレーナを使用人に尾行させましたか?」
「オリバーがそっと見守ると言い出したんだ。遠目でもわかる程様子がおかしかったし万が一行き倒れになると公爵家に悪評が立つと言って」
「あああ、それは本当に申し訳ありません!」
オリバーの指摘も行動も正しい。
マレーナが絶対徒歩で帰ると言い張っても、止めるべきだった。
「病人に対して無責任なことをしたと思います……」
「そこまで気にすることは無い。君たちが彼女に自由行動を許したから、今こうして会いに行ける」
「会いに……」
「アイリーン嬢は実家を出てすぐこの街で暮らし始めたそうだ。そして今は使用人のマレーナも合流している」
「アイリーンは……元気でしたか?」
「元気そうではあった」
「そうですか……」
なら良かったと思う。何で彼女がこの街にいるのかはわからないけれど。
そして俺は気づいた、自らの格好に。
「あの、俺今セシリアのドレスを身に着けているのですが……」
「ああ、とてもよく似合っている」
「そうじゃなくて……」
俺は元婚約者にドレス姿で再会しなければいけないのか。
なんで事前に教えてくれなかったのだろう。心の中で少しだけアリオスを恨んだ。
当然俺のリード伯爵家に到着したわけではない。
だが全く見知らぬ場所では無く、そこはアリオスと俺の実家のちょうど中間にある街だった。
その外れにある停車所に馬車は辿り着いたのだった。
「……アリオス?」
「突然で済まないが君に会わせたい人が居る」
対面に座るアンブローズ公爵家当主の名を呼ぶと、そう告げられる。
予想していなかった返答に俺は目を丸くした。
「会わせたい人って……俺の知り合いですか?」
「ああ、そうだ。それからリード伯爵亭に向かう。なので今から私に付き合って欲しい」
そう言われて俺は頷いた。必要があるから、わざわざ寄り道したのだろうし。
しかし本当に誰なのだろう。知り合いらしいが。俺は聞いてみることにした。
「すみません。相手の名前を教えて貰う事は可能ですか?」
「アイリーン・オーガス伯爵令嬢と、マレーナ・シュルツ子爵令嬢だ」
「へあ?!」
思わず声が跳ね上がる。予想が出来ないにも程がある。
アイリーンって、俺の婚約者の、いや元婚約者のアイリーンのことか?
フルネームが完全合致しているからそうなのだろう。彼女はこの街にいたのか。
しかしなんでそれをアリオスが、というかマレーナって誰だったっけ。
「マレーナ・シュルツはセシリア嬢の侍女をしていた娘だ」
「あっ」
そうだ思い出した。
あの灰色の髪のセシリア命と顔に張り付けてあるような侍女。
エストと侍女の仕事を分担させるつもりだったけれど、憔悴してとても無理だから即日実家に帰した娘だ。
「……ああ」
何となくわかった気がする。といっても肝心なことはわからないが。
「あの日、馬車を断り徒歩で戻ると言ったマレーナを使用人に尾行させましたか?」
「オリバーがそっと見守ると言い出したんだ。遠目でもわかる程様子がおかしかったし万が一行き倒れになると公爵家に悪評が立つと言って」
「あああ、それは本当に申し訳ありません!」
オリバーの指摘も行動も正しい。
マレーナが絶対徒歩で帰ると言い張っても、止めるべきだった。
「病人に対して無責任なことをしたと思います……」
「そこまで気にすることは無い。君たちが彼女に自由行動を許したから、今こうして会いに行ける」
「会いに……」
「アイリーン嬢は実家を出てすぐこの街で暮らし始めたそうだ。そして今は使用人のマレーナも合流している」
「アイリーンは……元気でしたか?」
「元気そうではあった」
「そうですか……」
なら良かったと思う。何で彼女がこの街にいるのかはわからないけれど。
そして俺は気づいた、自らの格好に。
「あの、俺今セシリアのドレスを身に着けているのですが……」
「ああ、とてもよく似合っている」
「そうじゃなくて……」
俺は元婚約者にドレス姿で再会しなければいけないのか。
なんで事前に教えてくれなかったのだろう。心の中で少しだけアリオスを恨んだ。
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