初夜に「君を愛するつもりはない」と人形公爵から言われましたが俺は偽者花嫁なので大歓迎です

砂礫レキ

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63.一緒に実家に参りましょう

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 子供の姿をした俺とセシリアは縄で縛られていた。
 半ズボン姿の俺は泣きそうな顔をしていて、ピンクのワンピースを身に着けたセシリアは平気そうな顔をしている。
 寧ろニコニコと笑っていた。
 でも俺は、それが強がりだと誰よりも知っている……。

「セレスト!」

 叫ぶように名を呼ばれ、肩をがしりと掴まれる。
 その強さに痛みよりも熱を感じた。

「アリ、オス……」
「すまない、君に多くのことを一度に話し過ぎた」

 心に強い衝撃を受けるのも当然だ。そう謝罪する彼の声と揺らぐ瞳で現実に引き戻される。
 先程見た光景が何だったかはわからないままだけど、気分は大分楽になっていた。
 幼い俺とセシリアの件は後でエストにでも確認すればいいだろう。優先すべきは別だ。

「もし父がそこまでの事を俺がするなら、セシリアはもっと危険な目に遭っている筈」

 アリオスにそう説明しながら嫌な気分が再びわき上がってくるのを感じる。
 セシリアは強いから大丈夫、ずっとそう思ってきた。
 でも薬を飲まされていたら、縄で縛られていたら、人質を取られていたら。
 幾らでも彼女から抵抗を奪える方法はあると俺は今更気づいてしまった。 

 もしかしたら、もう酷い目に遭わされてしまった後かもしれない。
 どうして俺はセシリアが自分の意思で家出したと簡単に信じてしまったのだろう。
 彼女の書置きの筆跡すらろくに確認していないのに。
 純粋に妹を案じる気持ちと、罪悪感の二つに苛まれ泣き出したくなる。

「……図々しい頼みだとわかっていますが、アンブローズ公爵家の人間を俺につけて頂けませんか?」  
「理由は?」
「父への牽制です、公爵家は伯爵家より上の立場なので。それと俺が捕らえられた時の連絡役をお願いしたいのです」

 そこまで言って俺は、自分に何かあったらアリオスが助けてくれると当たり前に信じていることに気づいた。
 先程自分で言った通り図々しいにも程がある。だが今縋って助けてくれそうな相手が彼しか居ないことは事実だった。
 エストだって俺が監禁されたら絶対助けようとしてくれるだろう。でも彼のやり方はきっと自分を犠牲にして俺を救う方法だ。
 それは嫌だった。

「それは構わないが……」

 良い返事を貰えたので一気に気分が軽くなる。どうせなら猛牛、いや違った従者のオリバーを借りられないだろうか。
 彼ならもし父やその配下が俺を捕えようとしても容易く蹴散らしてくれそうだ。
 もしくは俺を抱えて全力でアンブローズ公爵邸まで連れ帰ってくれるか。
 逆に父を返り討ちにしてセシリアの居場所を吐かせることまで出来るかもしれない。
 ちょっとアリオスにおねだりしてみよう。 
 しかしそれは実行されることは無かった。

「なら私が君と共にリード伯爵邸へ赴こう」

 リード伯爵より上の権力が必要という事なら私が適役だ。
 そう告げるアンブローズ公爵の瞳は冬の青空のように澄み渡っていた。
 つまり、彼の同伴が決定ということだ。
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