初夜に「君を愛するつもりはない」と人形公爵から言われましたが俺は偽者花嫁なので大歓迎です

砂礫レキ

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60.下衆が勘繰る

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「私にはあまりよく分からなかったのだが……」

 そう口にした後アリオスは沈黙する。俺が待っていると薄い唇がゆっくりと開いた。
 何度か躊躇うような素振りをしてアンブローズ公爵は言葉を発する。

「その、リード伯爵はこの手紙で私と、君の……夜についても言及しているらしい」
「はあ?!」

 思わず間抜けな声が出る。音量が大き過ぎたせいかアリオスの肩がピクリと跳ねた。

「あっ、ごめんなさい」

 俺は慌てて謝ると視線を彼の指先へ戻した。家紋が透けるその便箋には見覚えがある。
 正直アリオスの話した内容が事実なら嘘で有って欲しいと思う。品が無いにも程がある。
 俺が女性だとしても有り得ない。
 年が離れている為滅多に話さない長兄が、両親から孫の催促をされて困ったと愚痴って来た事を思い出す。
 
 格上のアンブローズ公爵家とリード伯爵家の間に孫が生まれたら、両親は確かに嬉しいだろう。
 でも俺は男で、何より妹セシリアとの婚約の時点で子供は作らないという話は聞いている筈だ。
 なのにこちらの性生活について言及してくるなんて下世話を通り越して理解不能だった。

「私が君を男性だと知った上で妻として遇しているかを明確に確認したかったのかもしれない」

 こちらも返信では常に曖昧な回答をしていたから。
 アリオスの言葉に半分納得しつつ親への幻滅は消えないままだった。
 考えなしはリード家のお家芸だとしても少しは考えて欲しい。母はこの手紙を知っているのだろうか。

「馬鹿親父、その手紙を見てアリオスが俺を抱こうとしたらどうするつもりだったんだ……」

 つい思ったことをストレートに言葉にしてしまう。 
 流石に過激だったかとアリオスの方を見たら彼は横を向いて聞こえないふりをしてくれていた。
 しかし耳が仄かに赤い。俺は反省した。
 アリオスと話す時は相手が十歳ぐらいだと考えた方が良いかもしれない。

「すみません、言葉が悪過ぎました」
「いや、いいんだ。私が慣れるべきなのだと思う」

 そうしてくれると助かるという気持ちと否そのままでいてくれという欲望が俺の中で喧嘩を始める。
 纏めて押し潰して俺は彼に話しかけた。

「それで、父からの手紙には返事を書いたんですか?」
「ああ、セレスト・リード伯爵令息の女性関係について問い質した」
「えっ」
「そう返せば、リード伯爵は私たちがそういう関係だと勘違いすると思ったからだ」

 全く想定していなかった発言に息が止まりそうになる。だが同時に鍵が鍵穴にはまる感覚もした。
 成程、その返信で父は回答したのだ。
 俺に女性の影は無い。婚約も解消していると。だから好きにしてくれとでも書いたかもしれない。

 しかし俺とアイリーンの婚約が継続していたなら両親はどうするつもりだったのだろう。
 そして妹と俺の元婚約者は今何所にいるのだろう。そんなことをうっすら考えた。

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