57 / 77
57.無実の罪を拭いたくて
しおりを挟む
「私に社交界で男色家の噂があることを君は知っていたか?」
アリオスにそう告げられ俺は大きく首を振る。
そんな噂なんて全く知らない。
俺が知っていたのは彼が王室と繫がりのある美貌の独身貴族であることだけ。
冷たい表情を崩さない人形公爵。若く美しい令嬢を前にしても彼が微笑むことは無い。
成程、女性に興味が無いから男性が好きなんだとアリオスは思われていたということか。
下世話というか、単純な考えだと俺は思った。
女性に冷たく男性に甘い態度を取っていたならまだわかるが彼はそうではないだろう。
「私と君はかなり年齢差があるから知らなくても仕方がないかもしれないな」
ただ昔は私の耳にも入る程騒がれたものだ。
そう語るアリオスの声は静かだったが俺は無遠慮に騒ぎ立てた連中に内心腹を立てた。
悪口を言うな、変な噂話をするなとまでは言わないが本人に聞かせないぐらいの分別はあるべきだろう。
「元婚約者に毒殺されかけて以来、暫く若い女性を避けていたからかもしれない」
「それは……」
「今なら性別の問題とわかるのだが、当時は笑顔を浮かべて近づいてくる令嬢たちが恐ろしくて仕方が無かった」
可憐な微笑みの裏で私を殺そうと計画しているのではないかと。
アリオスは溜息を吐いた。それが俺には苦悶の声に聞こえた。
「一時期使用人を男性だけにしていたこともある。恐らくそれも私が男色を疑われた理由の一つだろう」
上手い言葉が出てこないが彼が気の毒だと思った。
婚約者に殺されかけて、結果女性が怖くなって、そうしたら男が好きなんだと勘違いされて。
そしてアリオスの先程の発言から考えれば俺の両親も彼を男色家だと認識していたようなのだ。
父母の勘違いについて謝罪すべきか迷っているとアリオスが再び口を開いた。
「リード伯爵家当主は私がセシリア嬢との間に子供をもうける気が無いと知っている」
「えっ」
「孫を期待していたら気の毒だからな。私の持病が理由だと婚約の話が出た際に伝えてある」
「持病……」
「しかしそれは嘘だと思われていたらしい。実際半分は嘘だが」
「もっ、申し訳ありません」
流石に居た堪れなくて頭を下げる。
アリオスはちゃんと子供が作れない事情を話しているのに両親はそれを嘘と決めつけ邪推までしたのだ。
「君が謝る必要は無い。リード伯爵夫妻と君は別の人間なのだから」
「だけど……」
「それに先程も話した通り半分は嘘だ。私の体が蝕まれているのは事実だが、理由は病気ではない」
「アリオス……」
「それに毒が体から消えたとしても、女性と子供を作ろうという気持ちが消えているのも確かだ」
そう無表情で言う彼を見ていると何故か胸が痛くなった。
子供を作れない体になったのも女性を恐れるようになったのも彼が悪いわけでは無いのに。
「三十を境に親戚から養子を迎えるつもりだ。だが亡くなった両親には申し訳ないと思う」
私は公爵家の当主として失格だ。
俯きながら告げる彼を無意識に抱きしめていた。
「そんなの……アリオスのせいじゃない! 貴方は、被害者だ」
「……セレスト」
「だから自分を責めなくていいんです」
自分より大きな体を両手を伸ばして包み込む。
昔誰かにそうして貰った時のように。彼を、アリオスを安心させたかった。
貴方は悪くないと何度でも言ってあげたかった。
アリオスにそう告げられ俺は大きく首を振る。
そんな噂なんて全く知らない。
俺が知っていたのは彼が王室と繫がりのある美貌の独身貴族であることだけ。
冷たい表情を崩さない人形公爵。若く美しい令嬢を前にしても彼が微笑むことは無い。
成程、女性に興味が無いから男性が好きなんだとアリオスは思われていたということか。
下世話というか、単純な考えだと俺は思った。
女性に冷たく男性に甘い態度を取っていたならまだわかるが彼はそうではないだろう。
「私と君はかなり年齢差があるから知らなくても仕方がないかもしれないな」
ただ昔は私の耳にも入る程騒がれたものだ。
そう語るアリオスの声は静かだったが俺は無遠慮に騒ぎ立てた連中に内心腹を立てた。
悪口を言うな、変な噂話をするなとまでは言わないが本人に聞かせないぐらいの分別はあるべきだろう。
「元婚約者に毒殺されかけて以来、暫く若い女性を避けていたからかもしれない」
「それは……」
「今なら性別の問題とわかるのだが、当時は笑顔を浮かべて近づいてくる令嬢たちが恐ろしくて仕方が無かった」
可憐な微笑みの裏で私を殺そうと計画しているのではないかと。
アリオスは溜息を吐いた。それが俺には苦悶の声に聞こえた。
「一時期使用人を男性だけにしていたこともある。恐らくそれも私が男色を疑われた理由の一つだろう」
上手い言葉が出てこないが彼が気の毒だと思った。
婚約者に殺されかけて、結果女性が怖くなって、そうしたら男が好きなんだと勘違いされて。
そしてアリオスの先程の発言から考えれば俺の両親も彼を男色家だと認識していたようなのだ。
父母の勘違いについて謝罪すべきか迷っているとアリオスが再び口を開いた。
「リード伯爵家当主は私がセシリア嬢との間に子供をもうける気が無いと知っている」
「えっ」
「孫を期待していたら気の毒だからな。私の持病が理由だと婚約の話が出た際に伝えてある」
「持病……」
「しかしそれは嘘だと思われていたらしい。実際半分は嘘だが」
「もっ、申し訳ありません」
流石に居た堪れなくて頭を下げる。
アリオスはちゃんと子供が作れない事情を話しているのに両親はそれを嘘と決めつけ邪推までしたのだ。
「君が謝る必要は無い。リード伯爵夫妻と君は別の人間なのだから」
「だけど……」
「それに先程も話した通り半分は嘘だ。私の体が蝕まれているのは事実だが、理由は病気ではない」
「アリオス……」
「それに毒が体から消えたとしても、女性と子供を作ろうという気持ちが消えているのも確かだ」
そう無表情で言う彼を見ていると何故か胸が痛くなった。
子供を作れない体になったのも女性を恐れるようになったのも彼が悪いわけでは無いのに。
「三十を境に親戚から養子を迎えるつもりだ。だが亡くなった両親には申し訳ないと思う」
私は公爵家の当主として失格だ。
俯きながら告げる彼を無意識に抱きしめていた。
「そんなの……アリオスのせいじゃない! 貴方は、被害者だ」
「……セレスト」
「だから自分を責めなくていいんです」
自分より大きな体を両手を伸ばして包み込む。
昔誰かにそうして貰った時のように。彼を、アリオスを安心させたかった。
貴方は悪くないと何度でも言ってあげたかった。
10
お気に入りに追加
1,370
あなたにおすすめの小説
モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
「アルウィン、君が好きだ」
「え、お断りします」
「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」
目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。
ざまぁ要素あるかも………しれませんね
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る
112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。
★本編で出てこない世界観
男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。
婚約破棄される悪役令嬢ですが実はワタクシ…男なんだわ
秋空花林
BL
「ヴィラトリア嬢、僕はこの場で君との婚約破棄を宣言する!」
ワタクシ、フラれてしまいました。
でも、これで良かったのです。
どのみち、結婚は無理でしたもの。
だってー。
実はワタクシ…男なんだわ。
だからオレは逃げ出した。
貴族令嬢の名を捨てて、1人の平民の男として生きると決めた。
なのにー。
「ずっと、君の事が好きだったんだ」
数年後。何故かオレは元婚約者に執着され、溺愛されていた…!?
この物語は、乙女ゲームの不憫な悪役令嬢(男)が元婚約者(もちろん男)に一途に追いかけられ、最後に幸せになる物語です。
幼少期からスタートするので、R 18まで長めです。
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
悪役令息の死ぬ前に
やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」
ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。
彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。
さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。
青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。
「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」
男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。
例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる