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43.2番目の兄
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入浴後、いつ呼び出されても良いように身支度を完璧に整えたがアリオスの顔を見ることは無かった。
エストに注意された為こちらから出向くことも部屋の外をうろつくことはしなかった。
しかし彼は夕食時にも姿を現さなかった。
広い食堂で晩餐を黙々と一人で摂るのは居心地が悪い。
これから先ずっとこうなら今後は自室に食事を運んで貰いたい位だ。
料理は文句無く美味しい。
食器も食材も実家のものよりグレードが高い物が使われている。
俺は公爵家と伯爵家の格差を思い知る。
セシリアがアリオスの事を条件の良い相手だと言っていたことを思い出す。
確かに資産的な物を考えればそうだろう。
アンブローズ公爵家の家計について俺はほぼ知らないので料理や屋敷内の様子だけで判断しているけれど。
それに広い庭にあんなに見事な薔薇園を作り上げている時点で困窮はしていないだろう。
園芸と言うのは金がかかる。特に薔薇は金食い虫だ。そう教えてくれたのは二番目の兄だ。
六歳年上だったが俺のすぐ上だったからか昔は色々教えてくれた。
彼はセシリアの結婚式には出席しなかった。そしてセシリアも俺も次兄の結婚式に出席していない。
結婚したらしいと噂で聞いたきりだ。
次兄が父や一番上の兄と揉めていたことは知っていた。そして気づいたら屋敷から居なくなっていた。
五年前だから俺とセシリアが十三歳の時だ。
母の実家から仕事を紹介されて働いているらしいが彼が一度もリード伯爵家に顔を出すことは無かった。
薄情な話だがそれを寂しいと思うことも無い。
幼い頃は慕っていたが年齢を重ねるにつれて、直ぐ上の兄が苦手になっていった。彼がいつも苛々していたからだ。
薄情な話だが居なくなってくれて正直安堵した。
彼が屋敷から消えた年齢は今の俺より一つ上だ。
昔は大人だと思っていたが全然そんなことは無い。
俺たちの年齢差がもっと近かったら彼の苛立ちを恐れるだけでなく、その理由に寄り添えたのだろうか。
そんなことを思いながら食事を終えた。
次兄は長兄のエドワードを差し置いて後継になろうとしていたとを父から教えられたのは十五歳の時だ。
しかしそれを現当主である父に拒否され続け家に居づらくなったのだろうと言われた。
確かに彼は良くも悪くも自信家だった。子供の頃はそれも頼もしさに映っていた。
決して追い出した訳じゃないと繰り返す父を心から信じることも出来なかったが嘘だと否定することもしなかった。
そしてある日突然消えた次兄を心配することも無く会いたいとも思わず俺は生きて来た。寧ろ忘れてさえいた。
アリオスを異常扱いしていたが俺も人の事は言えないかもしれない。今更気づいた。
一人で黙々と食事をする機会が無ければずっと忘れたままでいたかもしれない。
エストには散々お人好しだと言われているが俺は寧ろ軽薄な人間だった。
夕食後俺は自室に戻り、寝間着に着替える。
そして黒髪の従者に淹れて貰ったハーブティーを飲みながら、セシリアの侍女が残した手記に目を通した。
エストに次兄について思い出したことは言わないでおこうと思った。
エストに注意された為こちらから出向くことも部屋の外をうろつくことはしなかった。
しかし彼は夕食時にも姿を現さなかった。
広い食堂で晩餐を黙々と一人で摂るのは居心地が悪い。
これから先ずっとこうなら今後は自室に食事を運んで貰いたい位だ。
料理は文句無く美味しい。
食器も食材も実家のものよりグレードが高い物が使われている。
俺は公爵家と伯爵家の格差を思い知る。
セシリアがアリオスの事を条件の良い相手だと言っていたことを思い出す。
確かに資産的な物を考えればそうだろう。
アンブローズ公爵家の家計について俺はほぼ知らないので料理や屋敷内の様子だけで判断しているけれど。
それに広い庭にあんなに見事な薔薇園を作り上げている時点で困窮はしていないだろう。
園芸と言うのは金がかかる。特に薔薇は金食い虫だ。そう教えてくれたのは二番目の兄だ。
六歳年上だったが俺のすぐ上だったからか昔は色々教えてくれた。
彼はセシリアの結婚式には出席しなかった。そしてセシリアも俺も次兄の結婚式に出席していない。
結婚したらしいと噂で聞いたきりだ。
次兄が父や一番上の兄と揉めていたことは知っていた。そして気づいたら屋敷から居なくなっていた。
五年前だから俺とセシリアが十三歳の時だ。
母の実家から仕事を紹介されて働いているらしいが彼が一度もリード伯爵家に顔を出すことは無かった。
薄情な話だがそれを寂しいと思うことも無い。
幼い頃は慕っていたが年齢を重ねるにつれて、直ぐ上の兄が苦手になっていった。彼がいつも苛々していたからだ。
薄情な話だが居なくなってくれて正直安堵した。
彼が屋敷から消えた年齢は今の俺より一つ上だ。
昔は大人だと思っていたが全然そんなことは無い。
俺たちの年齢差がもっと近かったら彼の苛立ちを恐れるだけでなく、その理由に寄り添えたのだろうか。
そんなことを思いながら食事を終えた。
次兄は長兄のエドワードを差し置いて後継になろうとしていたとを父から教えられたのは十五歳の時だ。
しかしそれを現当主である父に拒否され続け家に居づらくなったのだろうと言われた。
確かに彼は良くも悪くも自信家だった。子供の頃はそれも頼もしさに映っていた。
決して追い出した訳じゃないと繰り返す父を心から信じることも出来なかったが嘘だと否定することもしなかった。
そしてある日突然消えた次兄を心配することも無く会いたいとも思わず俺は生きて来た。寧ろ忘れてさえいた。
アリオスを異常扱いしていたが俺も人の事は言えないかもしれない。今更気づいた。
一人で黙々と食事をする機会が無ければずっと忘れたままでいたかもしれない。
エストには散々お人好しだと言われているが俺は寧ろ軽薄な人間だった。
夕食後俺は自室に戻り、寝間着に着替える。
そして黒髪の従者に淹れて貰ったハーブティーを飲みながら、セシリアの侍女が残した手記に目を通した。
エストに次兄について思い出したことは言わないでおこうと思った。
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