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41.大抵の計画は実行する前は完璧
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エストに風呂の温さを気づかれる前に手早く髪と体を洗う。
そして着替えを終えた直後に浴室のドアを外から叩かれた。
こちらから声をかける前に低く心地よい声が名乗る。
相手が黒髪の従者だと確信したので扉を開け迎え入れた。
「……髪の水気を取ってから服は着てくださいね」
言葉と共に毛足の長いタオルで頭を覆われ、わしわしとされる。
そういえば忘れていた。風呂上りには髪を拭くというフェーズがあるのだ。
普段そこら辺はエストに一任しているのですっかり頭から抜け落ちていた。
「……次は忘れないようにする」
「次が無いようにしたいものですね」
入浴の手伝いが出来なくて申し訳ありませんでした。
そう謝罪されながら優しく髪や体を拭かれる。
俺が貴族でエストがその従者という関係を差し引いても甘やかされ過ぎているような気がした。
それも俺が頼りなさ過ぎるからだろう。そつなく振舞っているつもりでも必ずどこか抜けがあるのだ。
そんな俺が偽花嫁なんて大それた役を務めることになるなんて驚きだ。
父も母もどうかしている。そして彼らの命令を受け入れた俺も。
もし公爵にこの罪が露見し激怒されたらエストは俺が無理やり巻き込んだのだとしっかり主張しよう。
まあ、叶うなら怒られたくないのだが。
「どうされましたか?」
無意識に溜息を吐いてしまう。案の定エストが心配そうに訊いてきた。
彼は俺以外の人間からは表情が変わらないと言われているらしい。
でも大袈裟でないだけでエストはちゃんと感情表現が出来ていると俺は思う。
「いや、公爵に俺の正体がバレても怒られたくないなって」
「それ自分が同じことをされても……いや、セレスト様は怒らないでしょうね」
寧ろ自分に非があったのではと勝手に落ち込んで自責しそうです。
想像の中の俺に対し呆れた顔をするエストに何か言い出したかったが、俺の想像の中の俺も似たような感じだったので何も言えなかった。
「じゃあエストが騙された側ならどうなんだ?」
矛先を変えようと俺は口を開く。黒髪の従者は手を止めず即答した。
「私はそもそも騙されないと思います」
それはそうだ。彼は俺とセシリアが双子だとよく知っている。
アリオスもその事実は知っている筈だが、俺は単体だとかなり印象の薄い人間なので忘れているかもしれない。
セレストとしてはろくに会話をした記憶もない。
マレーナの手記を軽く読んだがセシリアが俺を双子の片割れとして話題に上げている様子も無かった。
「まあ騙された振りをする可能性はありますね」
「騙された振り?」
俺の髪のブラッシングを始めながらエストが言う。
発言の意味が分からなくて鸚鵡返しにした。
「無礼かもしれませんがセシリア様よりセレスト様の方が私は見ていて面白いので」
傍に置かなければいけないなら後者でいいかなと。
褒められているのか馬鹿にされているのかわからないことを言われ俺は口をへの字にする。
「……その場合、俺が自白したらどうするんだよ。罰するのか?」
「罰する前に関係者全員に事情聴取しますね。でも現状セレスト様の罪が一番軽いです」
両親に強制されただけですし。
そうエストは語るが、現実はそう上手く行かないと思う。
直接騙しているのは俺な訳だし。
アリオスが事実を知り即怒りをぶつけやすいのも公爵邸にいる俺だろう。
俺の罪が一番軽いと考えるのはエストが俺と親しいので肩入れしてるからだ。
そう考えて俺はあることに気づいた。
「そうか、こうすれば最悪の場合でも……」
「セレスト様?」
エストが不思議そうに呼びかける。
俺はにんまりと笑いながら彼に名案を語り始めた。
そして着替えを終えた直後に浴室のドアを外から叩かれた。
こちらから声をかける前に低く心地よい声が名乗る。
相手が黒髪の従者だと確信したので扉を開け迎え入れた。
「……髪の水気を取ってから服は着てくださいね」
言葉と共に毛足の長いタオルで頭を覆われ、わしわしとされる。
そういえば忘れていた。風呂上りには髪を拭くというフェーズがあるのだ。
普段そこら辺はエストに一任しているのですっかり頭から抜け落ちていた。
「……次は忘れないようにする」
「次が無いようにしたいものですね」
入浴の手伝いが出来なくて申し訳ありませんでした。
そう謝罪されながら優しく髪や体を拭かれる。
俺が貴族でエストがその従者という関係を差し引いても甘やかされ過ぎているような気がした。
それも俺が頼りなさ過ぎるからだろう。そつなく振舞っているつもりでも必ずどこか抜けがあるのだ。
そんな俺が偽花嫁なんて大それた役を務めることになるなんて驚きだ。
父も母もどうかしている。そして彼らの命令を受け入れた俺も。
もし公爵にこの罪が露見し激怒されたらエストは俺が無理やり巻き込んだのだとしっかり主張しよう。
まあ、叶うなら怒られたくないのだが。
「どうされましたか?」
無意識に溜息を吐いてしまう。案の定エストが心配そうに訊いてきた。
彼は俺以外の人間からは表情が変わらないと言われているらしい。
でも大袈裟でないだけでエストはちゃんと感情表現が出来ていると俺は思う。
「いや、公爵に俺の正体がバレても怒られたくないなって」
「それ自分が同じことをされても……いや、セレスト様は怒らないでしょうね」
寧ろ自分に非があったのではと勝手に落ち込んで自責しそうです。
想像の中の俺に対し呆れた顔をするエストに何か言い出したかったが、俺の想像の中の俺も似たような感じだったので何も言えなかった。
「じゃあエストが騙された側ならどうなんだ?」
矛先を変えようと俺は口を開く。黒髪の従者は手を止めず即答した。
「私はそもそも騙されないと思います」
それはそうだ。彼は俺とセシリアが双子だとよく知っている。
アリオスもその事実は知っている筈だが、俺は単体だとかなり印象の薄い人間なので忘れているかもしれない。
セレストとしてはろくに会話をした記憶もない。
マレーナの手記を軽く読んだがセシリアが俺を双子の片割れとして話題に上げている様子も無かった。
「まあ騙された振りをする可能性はありますね」
「騙された振り?」
俺の髪のブラッシングを始めながらエストが言う。
発言の意味が分からなくて鸚鵡返しにした。
「無礼かもしれませんがセシリア様よりセレスト様の方が私は見ていて面白いので」
傍に置かなければいけないなら後者でいいかなと。
褒められているのか馬鹿にされているのかわからないことを言われ俺は口をへの字にする。
「……その場合、俺が自白したらどうするんだよ。罰するのか?」
「罰する前に関係者全員に事情聴取しますね。でも現状セレスト様の罪が一番軽いです」
両親に強制されただけですし。
そうエストは語るが、現実はそう上手く行かないと思う。
直接騙しているのは俺な訳だし。
アリオスが事実を知り即怒りをぶつけやすいのも公爵邸にいる俺だろう。
俺の罪が一番軽いと考えるのはエストが俺と親しいので肩入れしてるからだ。
そう考えて俺はあることに気づいた。
「そうか、こうすれば最悪の場合でも……」
「セレスト様?」
エストが不思議そうに呼びかける。
俺はにんまりと笑いながら彼に名案を語り始めた。
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