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35.謎の男
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口紅を拭われた時も思ったが、アリオス・アンブローズという男が謎すぎる。
普通男は、いや女性同士であってもみだりに唇や髪に触ったりはしない。
平民はわからないが貴族はそうだ。馴れ馴れしい行為は基本禁止なのである。
しかし彼は俺に対してそういったものをまるっきり無視している。
二十七歳なのに。公爵家当主なのに。
いやアリオスにそうされて喜ぶ女性は多いだろう。地位のある美男子だし。
でも俺は正直微妙な気分だ。嬉しくはない。
男同士だからというのもあるが、何よりも。
「……私のことを愛するつもりはないとおっしゃいましたよね」
「ああ、言った」
彼の手を自分の髪からそれとなくどかして俺は言った。
戸惑うことすらなくアリオスはその問いかけを首肯する。
「ならばこういうことをされては困ります」
「だが、似合っている」
眼の前の相手に自分の言語が通じているか不安になった。
俺たちが本当に夫婦で、いや夫婦じゃなくても恋人同士だった場合。
彼氏が彼女の髪に薔薇を飾って似合っているといちゃつくのは理解できる。
そして今俺とアリオスの関係は凄い微妙なもので。
俺は自分が妹の代わりの偽花嫁だと自覚しているが、夫の彼はそれを知らない。
だからアリオスが夫として妻と睦まじくするつもりで唇や髪に触れたりするなら困るけれど仕方がないと思う。
それ以上は正体がバレるので抵抗するけれど。
「でも初夜の時に愛するつもりはないとはっきり断言されましたよね?」
「言った」
「なのに唇や髪にベタベタ触るのはおかしいですからね?!」
「そうなのか?」
「そうなのかって、そうですよ。確かに私は旦那様の妻ですが、愛のない関係を望まれているのでしょう?」
彼が俺の性別を誤解していても子供をつくるつもりもないのだから、義務的な交わりだってする必要はない。
その部分は口に出さず俺はアリオスを見つめた。
彼は俺の言葉を聞いた後押し黙っている。
なんだか叱られて落ち込んでいる子供みたいなオーラが見える気がするが気の所為だ。
相手は俺より十歳近く年上の成人男性。それにもし本当に落ち込んでいても自業自得だ。
花嫁に対し初夜当日に愛していないと告げておいて、でも自分がその気になったら触れ合いますは男として駄目だろう。
まあ性別誤魔化して偽花嫁演じる俺も男として駄目だけど。
なんだか気まずくなり俺も黙ったままで居る。
重苦しい空気の中、数分が経過しただろうか。
唐突に公爵の瞳が輝いた気がした。
彼の表情筋は滅多に動かないが、じっくり観察すると意外と視線には変化がある。
先程俺の髪に薔薇を差した時と似た雰囲気を感じ警戒した。
「わかった、なら君から私に触れてほしい」
私からは許可が無い限り触れないようにするから。
「……は?」
俺はぽかんと口を開けた。
開いた口が塞がらないとはまさに今の状態そのものだ。
アリオス・アンブローズという男が本当に謎でしかない。
普通男は、いや女性同士であってもみだりに唇や髪に触ったりはしない。
平民はわからないが貴族はそうだ。馴れ馴れしい行為は基本禁止なのである。
しかし彼は俺に対してそういったものをまるっきり無視している。
二十七歳なのに。公爵家当主なのに。
いやアリオスにそうされて喜ぶ女性は多いだろう。地位のある美男子だし。
でも俺は正直微妙な気分だ。嬉しくはない。
男同士だからというのもあるが、何よりも。
「……私のことを愛するつもりはないとおっしゃいましたよね」
「ああ、言った」
彼の手を自分の髪からそれとなくどかして俺は言った。
戸惑うことすらなくアリオスはその問いかけを首肯する。
「ならばこういうことをされては困ります」
「だが、似合っている」
眼の前の相手に自分の言語が通じているか不安になった。
俺たちが本当に夫婦で、いや夫婦じゃなくても恋人同士だった場合。
彼氏が彼女の髪に薔薇を飾って似合っているといちゃつくのは理解できる。
そして今俺とアリオスの関係は凄い微妙なもので。
俺は自分が妹の代わりの偽花嫁だと自覚しているが、夫の彼はそれを知らない。
だからアリオスが夫として妻と睦まじくするつもりで唇や髪に触れたりするなら困るけれど仕方がないと思う。
それ以上は正体がバレるので抵抗するけれど。
「でも初夜の時に愛するつもりはないとはっきり断言されましたよね?」
「言った」
「なのに唇や髪にベタベタ触るのはおかしいですからね?!」
「そうなのか?」
「そうなのかって、そうですよ。確かに私は旦那様の妻ですが、愛のない関係を望まれているのでしょう?」
彼が俺の性別を誤解していても子供をつくるつもりもないのだから、義務的な交わりだってする必要はない。
その部分は口に出さず俺はアリオスを見つめた。
彼は俺の言葉を聞いた後押し黙っている。
なんだか叱られて落ち込んでいる子供みたいなオーラが見える気がするが気の所為だ。
相手は俺より十歳近く年上の成人男性。それにもし本当に落ち込んでいても自業自得だ。
花嫁に対し初夜当日に愛していないと告げておいて、でも自分がその気になったら触れ合いますは男として駄目だろう。
まあ性別誤魔化して偽花嫁演じる俺も男として駄目だけど。
なんだか気まずくなり俺も黙ったままで居る。
重苦しい空気の中、数分が経過しただろうか。
唐突に公爵の瞳が輝いた気がした。
彼の表情筋は滅多に動かないが、じっくり観察すると意外と視線には変化がある。
先程俺の髪に薔薇を差した時と似た雰囲気を感じ警戒した。
「わかった、なら君から私に触れてほしい」
私からは許可が無い限り触れないようにするから。
「……は?」
俺はぽかんと口を開けた。
開いた口が塞がらないとはまさに今の状態そのものだ。
アリオス・アンブローズという男が本当に謎でしかない。
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