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29.婚約者の親たち

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 アイリーンと俺たち双子は幼馴染だった。
 双方の母親同士が親友で、その縁で紹介された。

 アイリーンは俺の兄や姉には人見知りしたらしいが同じ年の俺とセシリアには比較的すぐに打ち解けた。
 今考えれば俺たち双子にというより、まずセシリアに心を開いたのだと思う。
 初顔合わせから数年後に俺とアイリーンの婚約の話を親たちがしだした。

 爵位も同じで母親たちは親友。当人同士の仲も良い。
 俺とアイリーンは恋愛関係では無かったが、そんなの貴族間の婚姻では珍しくなかった。
 だから俺は婚約を受け入れたしアイリーンもそうした筈だ。セシリアも賛同した。

 友人という間柄でも良好な関係が築けているだけ恵まれている。
 人見知りが激しく特に男性が苦手なアイリーン。
 少しでも緊張するとまともに話せなくなる小さな女の子。
 生き辛そうな彼女をフォローして支えたいと思う心は嘘じゃなかった。

 そして俺たちが正式に婚約してから何年か経った時、アイリーンの母親が病死した。五年前のことだ。
 とても悲しい出来事だったし、ショックだった。  
 
 その辛い出来事も薄らいできた頃新たに衝撃的なことが起きた。
 アイリーンの父親が再婚したのだ。伯爵より寧ろアイリーンとの方が年齢差の少ない相手と。
 二十歳年下なんて親子じゃないかと驚いたし、正直その時点で俺はオーガス伯爵に少し引いた。

 確かに紹介された女性は美人だった。
 そして身なりというか、自分を飾り立て魅力的に見せることに夢中な感じだった。
 
 貴婦人が着飾ることは当然悪いことではない。ただ、伯爵夫人らしくはなかった。流石に娼婦みたいだとは思わなかったが。
 俺が気になったのはその後妻があからさまな態度でアイリーンを見下していたことだった。
 そしてそれを彼女の父であるオーガス伯爵が咎めないことだった。

 アイリーンの婚約者として俺は彼にそのことについて意見した。
 俺は気が強い性格じゃないから、詰め寄ったり詰ったりはしていない。
 
 でも再婚した伯爵は娘であるアイリーンを余りにも軽んじていた。
 ただでさえ気が弱く落ち込みやすい彼女はまだ母親の死の悲しみから抜け出せていなかったのに。

 俺は父親として彼女をちゃんと見守ってあげて欲しいと将来義父になる人に頭を下げた。

 しかしオーガス伯爵はそれを生意気だと受け取ったようで俺と彼の関係は悪化した。
 自分は間違ったことは言っていないと思いつつも、アイリーンが八つ当たりを受ける可能性がある。
 両親にオーガス伯爵へのとりなしを頼もうとした時、俺は新たに驚愕した。

 父がオーガス伯爵の再婚相手の女性は高級娼婦だと告げたのだ。
 そして何故それをあなたが知っているのだと母に絞められていた。
 

  
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