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16.間違い探しをするように
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昼食を終え食堂から自室へ戻る。
午後からセシリア付きの侍女が公爵邸にやってくる。それを待つ為だ。
途中の廊下でメイドたちと擦れ違う。彼女たちはすぐに俺の為に道を開け最上級のお辞儀をした。
女主人として歓迎されているかは不明だが、舐められてはいないと思う。
俺もセシリアも伯爵家の人間だ。公爵家よりは家格が下だが高位貴族ではある。
何より今回の結婚には王家が介在している。結婚式には第三王女も賓客として参加していた。
そんな肝入りの相手を公爵家の使用人が堂々と馬鹿にしたならそいつは命知らずなだけだろう。
まあ公爵本人には愛していない宣言という無礼を働かれたが、こちらも偽花嫁というやらかしがあるので強くは責められない。
伯爵家の場合は無礼どころか下手したら犯罪ですらある。
しかしそこを深く考えると絶望しかないので俺はそっと思考を切り替えた。
セシリアの失踪で動転してパニックになった父は兎も角、いつもなら父のストッパーになっている母も成りすまし作戦を止めなかったので何とかなると信じたい。
現に最大の難関である初夜はクリアできている。花婿側の拒否によってだが。
そして今後も閨に呼ばれることは無いだろう。
アリオスは恐らく実子を跡継ぎにすることに拘るタイプでも無いと思う。
もし後継者について真剣に考えているなら公爵家当主が三十間近でも未婚というのが有り得ない。
現在の状況を考えるなら形だけの結婚をして、アンブローズの縁戚から養子を迎え育てるというのが妥当だろう。
まあ俺がそれに口を出すことは当然ながら無い。
アリオスに妻として意見を聞かれたらコメントはしないといけないだろうが、そんな気配は皆無だ。
経験が無いのでわからないが、政略とは言え結婚式翌日にここまで夫婦が顔を合わさないということはあるのだろうか。
いや確かに朝に庭でお茶会もどきはした。
しかし新婚に期待するような甘やかな空気など無く寧ろ気が合わない人間同士の気まずさが漂っていた。
大体あれも公爵の従者が余計な気を利かせてセッティングしただけに過ぎない。
いや彼は悪くない。多分何も知らないのだ。
俺たちを普通に新婚熱々夫婦だと勘違いしたのだろう。だがその誤解も解けた筈だ。
そういえばあの金髪碧眼の従者の名前を俺は知らない。彼は名乗らなかったし俺も訊かなかった。
公爵の従者なら彼の婚約者であるセシリアとは既に交流がある筈だからだ。
午後から来る妹付きの侍女なら知っているだろう。
セシリアが公爵邸を訪れる時伴っていたのはいつも彼女だった筈だ。
俺が今斜め後ろにエストを控えさせているように。
よく磨かれた窓ガラスに映る自分と従者の姿を眺める。
それはセシリア・アンブローズ公爵夫人と彼女が実家から連れて来た侍女に見えた。
いつも連れている侍女でないと気づく人間はいても、公爵夫人自身が偽者だと気づく人間は居るだろうか。
それぐらい俺はセシリアに似ていた。だけど今彼女が何を考えているかはわからなかった。
双子だろうが、わからないものはわからないのだ。いつの間にかわからなくなっていた。
セシリアから婚約者の話をもっと良く聞いておくべきだったと後悔をする。
アリオスがどんな人間かを把握したかったというのもあるが、妹にとってアリオスがどんな人間だったのかを知りたかった。
そんなことを考えながら廊下を進む。俺が与えられた部屋の前に長身の青年が立っている。
先程まで考えていた相手、アリオス・アンブローズ本人だった。
午後からセシリア付きの侍女が公爵邸にやってくる。それを待つ為だ。
途中の廊下でメイドたちと擦れ違う。彼女たちはすぐに俺の為に道を開け最上級のお辞儀をした。
女主人として歓迎されているかは不明だが、舐められてはいないと思う。
俺もセシリアも伯爵家の人間だ。公爵家よりは家格が下だが高位貴族ではある。
何より今回の結婚には王家が介在している。結婚式には第三王女も賓客として参加していた。
そんな肝入りの相手を公爵家の使用人が堂々と馬鹿にしたならそいつは命知らずなだけだろう。
まあ公爵本人には愛していない宣言という無礼を働かれたが、こちらも偽花嫁というやらかしがあるので強くは責められない。
伯爵家の場合は無礼どころか下手したら犯罪ですらある。
しかしそこを深く考えると絶望しかないので俺はそっと思考を切り替えた。
セシリアの失踪で動転してパニックになった父は兎も角、いつもなら父のストッパーになっている母も成りすまし作戦を止めなかったので何とかなると信じたい。
現に最大の難関である初夜はクリアできている。花婿側の拒否によってだが。
そして今後も閨に呼ばれることは無いだろう。
アリオスは恐らく実子を跡継ぎにすることに拘るタイプでも無いと思う。
もし後継者について真剣に考えているなら公爵家当主が三十間近でも未婚というのが有り得ない。
現在の状況を考えるなら形だけの結婚をして、アンブローズの縁戚から養子を迎え育てるというのが妥当だろう。
まあ俺がそれに口を出すことは当然ながら無い。
アリオスに妻として意見を聞かれたらコメントはしないといけないだろうが、そんな気配は皆無だ。
経験が無いのでわからないが、政略とは言え結婚式翌日にここまで夫婦が顔を合わさないということはあるのだろうか。
いや確かに朝に庭でお茶会もどきはした。
しかし新婚に期待するような甘やかな空気など無く寧ろ気が合わない人間同士の気まずさが漂っていた。
大体あれも公爵の従者が余計な気を利かせてセッティングしただけに過ぎない。
いや彼は悪くない。多分何も知らないのだ。
俺たちを普通に新婚熱々夫婦だと勘違いしたのだろう。だがその誤解も解けた筈だ。
そういえばあの金髪碧眼の従者の名前を俺は知らない。彼は名乗らなかったし俺も訊かなかった。
公爵の従者なら彼の婚約者であるセシリアとは既に交流がある筈だからだ。
午後から来る妹付きの侍女なら知っているだろう。
セシリアが公爵邸を訪れる時伴っていたのはいつも彼女だった筈だ。
俺が今斜め後ろにエストを控えさせているように。
よく磨かれた窓ガラスに映る自分と従者の姿を眺める。
それはセシリア・アンブローズ公爵夫人と彼女が実家から連れて来た侍女に見えた。
いつも連れている侍女でないと気づく人間はいても、公爵夫人自身が偽者だと気づく人間は居るだろうか。
それぐらい俺はセシリアに似ていた。だけど今彼女が何を考えているかはわからなかった。
双子だろうが、わからないものはわからないのだ。いつの間にかわからなくなっていた。
セシリアから婚約者の話をもっと良く聞いておくべきだったと後悔をする。
アリオスがどんな人間かを把握したかったというのもあるが、妹にとってアリオスがどんな人間だったのかを知りたかった。
そんなことを考えながら廊下を進む。俺が与えられた部屋の前に長身の青年が立っている。
先程まで考えていた相手、アリオス・アンブローズ本人だった。
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