初夜に「君を愛するつもりはない」と人形公爵から言われましたが俺は偽者花嫁なので大歓迎です

砂礫レキ

文字の大きさ
上 下
16 / 77

16.間違い探しをするように

しおりを挟む
 昼食を終え食堂から自室へ戻る。
 午後からセシリア付きの侍女が公爵邸にやってくる。それを待つ為だ。

 途中の廊下でメイドたちと擦れ違う。彼女たちはすぐに俺の為に道を開け最上級のお辞儀をした。
 女主人として歓迎されているかは不明だが、舐められてはいないと思う。

 俺もセシリアも伯爵家の人間だ。公爵家よりは家格が下だが高位貴族ではある。
 何より今回の結婚には王家が介在している。結婚式には第三王女も賓客として参加していた。
 そんな肝入りの相手を公爵家の使用人が堂々と馬鹿にしたならそいつは命知らずなだけだろう。

 まあ公爵本人には愛していない宣言という無礼を働かれたが、こちらも偽花嫁というやらかしがあるので強くは責められない。
 伯爵家の場合は無礼どころか下手したら犯罪ですらある。
 しかしそこを深く考えると絶望しかないので俺はそっと思考を切り替えた。

 セシリアの失踪で動転してパニックになった父は兎も角、いつもなら父のストッパーになっている母も成りすまし作戦を止めなかったので何とかなると信じたい。
 現に最大の難関である初夜はクリアできている。花婿側の拒否によってだが。

 そして今後も閨に呼ばれることは無いだろう。
 アリオスは恐らく実子を跡継ぎにすることに拘るタイプでも無いと思う。
 もし後継者について真剣に考えているなら公爵家当主が三十間近でも未婚というのが有り得ない。

 現在の状況を考えるなら形だけの結婚をして、アンブローズの縁戚から養子を迎え育てるというのが妥当だろう。
 まあ俺がそれに口を出すことは当然ながら無い。
 アリオスに妻として意見を聞かれたらコメントはしないといけないだろうが、そんな気配は皆無だ。

 経験が無いのでわからないが、政略とは言え結婚式翌日にここまで夫婦が顔を合わさないということはあるのだろうか。
 いや確かに朝に庭でお茶会もどきはした。
 しかし新婚に期待するような甘やかな空気など無く寧ろ気が合わない人間同士の気まずさが漂っていた。

 大体あれも公爵の従者が余計な気を利かせてセッティングしただけに過ぎない。
 いや彼は悪くない。多分何も知らないのだ。
 俺たちを普通に新婚熱々夫婦だと勘違いしたのだろう。だがその誤解も解けた筈だ。

 そういえばあの金髪碧眼の従者の名前を俺は知らない。彼は名乗らなかったし俺も訊かなかった。
 公爵の従者なら彼の婚約者であるセシリアとは既に交流がある筈だからだ。
 
 午後から来る妹付きの侍女なら知っているだろう。
 セシリアが公爵邸を訪れる時伴っていたのはいつも彼女だった筈だ。

 俺が今斜め後ろにエストを控えさせているように。
 よく磨かれた窓ガラスに映る自分と従者の姿を眺める。

 それはセシリア・アンブローズ公爵夫人と彼女が実家から連れて来た侍女に見えた。
 いつも連れている侍女でないと気づく人間はいても、公爵夫人自身が偽者だと気づく人間は居るだろうか。
 
 それぐらい俺はセシリアに似ていた。だけど今彼女が何を考えているかはわからなかった。 
 双子だろうが、わからないものはわからないのだ。いつの間にかわからなくなっていた。

 セシリアから婚約者の話をもっと良く聞いておくべきだったと後悔をする。
 アリオスがどんな人間かを把握したかったというのもあるが、妹にとってアリオスがどんな人間だったのかを知りたかった。

 そんなことを考えながら廊下を進む。俺が与えられた部屋の前に長身の青年が立っている。
 先程まで考えていた相手、アリオス・アンブローズ本人だった。 
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

嫌われ者の僕が学園を去る話

おこげ茶
BL
嫌われ者の男の子が学園を去って生活していく話です。 一旦ものすごく不幸にしたかったのですがあんまなってないかもです…。 最終的にはハピエンの予定です。 Rは書けるかわからなくて入れるか迷っているので今のところなしにしておきます。 ↓↓↓ 微妙なやつのタイトルに※つけておくので苦手な方は自衛お願いします。 設定ガバガバです。なんでも許せる方向け。 不定期更新です。(目標週1) 勝手もわかっていない超初心者が書いた拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。 誤字などがありましたらふわふわ言葉で教えて欲しいです。爆速で修正します。

幸せになりたかった話

幡谷ナツキ
BL
 このまま幸せでいたかった。  このまま幸せになりたかった。  このまま幸せにしたかった。  けれど、まあ、それと全部置いておいて。 「苦労もいつかは笑い話になるかもね」  そんな未来を想像して、一歩踏み出そうじゃないか。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

婚約破棄されたから伝説の血が騒いでざまぁしてやった令息

ミクリ21 (新)
BL
婚約破棄されたら伝説の血が騒いだ話。

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

処理中です...