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15.公爵夫人の仕事
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昼食は白身魚の香草焼きがメインだった。だだっ広い食堂でエストに給仕されながら一人で摂った。
居心地は多少悪いが料理は大変美味しい。
サラダには艶々と赤いトマトが添えられていた。
俺一人だから大丈夫だという判断なのだろうか。
公爵と一緒に食事をした事がないのでわからない。いやセレストの時一度あるか。
そんなことを考えながら皿を空にしていくと食後のデザートと一緒に紅茶が出てきた。
伯爵家では飲まない銘柄だと思うが嫌いな香りではない。
そういえば結局アリオスと一緒にいる時の飲み物は何を選べば正解なのだろう。
妥当なものが水しか思い浮かばない。
林檎など果物を使ったジュースや牛乳なども選択肢には入るがシチュエーションどちらもを選ぶ。
面倒臭い相手と結婚したなと改めて思った。
俺は偽者だからセシリアが見つかり次第お役御免だけれど。
そんなことを考えつつ、果たしてそう簡単に行くのだろうかと疑ってもいる。
そしてこの歪な結婚生活を妹にそのまま引き継いでいいのかとも。
公爵が今すぐ誰かとの真実の愛にでも目覚めて離婚を宣言してくれないだろうか。
その際は慰謝料を格安にして貰うよう父に談判してやってもいい。
アリオスの人形のような顔を思い浮かべ俺は思った。隠している愛人とか居たら良いのにと。
だだっ広い公爵邸の敷地の隅にでも美女を囲っていないだろうか。
寧ろ俺が敷地の隅で気兼ねなく暮らしたい。
愛人が居るなら正妻気取りで屋敷を取り仕切って貰っても構わない。
ただそれは俺が偽花嫁だから言えるのであって、妹を相手にそれをしたらきっと許せないだろう。
見た事も無い愛人の存在に期待したり憤ったりしている内にティーカップは空になった。
すかさずエストがお代わりを注いでくる。彼以外の使用人の姿は見当たらない。
気楽だが、女主人として認められていない気はしている。いやそれは事実そうなのだが。
昨日の今日とは言え公爵夫人らしいことを一切していない。
そもそも俺は公爵夫人の仕事なんてわからないのだ。
父や兄の仕事の手伝いをしたり偶に伯爵領の視察に付き合ったりはしたが、母や姉が同じことをしていた記憶はない。
セシリアは城勤めになる前は俺と似たようなことをしていたが騎士を目指していた彼女は参考にならないだろう。
俺は婚約者の家に婿入りする筈だった。アイリーンが一人娘だからだ。
その為の準備なら色々していたし、彼女の父親の仕事を見ながら学んだこともある。
アイリーンの父オーガス伯爵とは数年前から疎遠気味になっていたが。
こちら側ではなく向こう側が俺を避けたのだ。
その時にもう少しオーガス家の事情に突っ込んでいたら、アイリーンが唐突に失踪することは無かったのだろうか。
彼女の実母が亡くなったのは五年前だ。そしてオーガス伯爵が二十歳年下の後妻を迎えたのは二年前。
父が語ったところによると新しいオーガス伯爵夫人は元娼婦らしい。
貴族というのは多かれ少なかれ面子と家柄を大切にする。
俺の婚約者の新しい母親が元娼婦なのは伯爵である父には大問題だった。
父からアイリーンとの婚約解消を打診されたこともある。
ただ俺はそれだけは絶対嫌だと強く否定した。普段は割と流されやすい方だが断固拒絶した。
俺が縁を切ってしまったら、ただでさえ親子関係で悩んでいたアイリーンは消えて無くなってしまう気がしたからだ。
結果俺と彼女の婚約は継続したが、オーガス伯爵は散々説教してきた俺の父を嫌い俺のことも嫌うようになった。
でも結局俺がしたことはアイリーンにとってただの余計なお世話だったのかもしれない。
彼女が求めていた相手はセシリアだったのだろうから。
なら今は満足そうに微笑んでいるのだろうか。
デザートの桃のコンポートの甘さを感じながら俺は思った。
居心地は多少悪いが料理は大変美味しい。
サラダには艶々と赤いトマトが添えられていた。
俺一人だから大丈夫だという判断なのだろうか。
公爵と一緒に食事をした事がないのでわからない。いやセレストの時一度あるか。
そんなことを考えながら皿を空にしていくと食後のデザートと一緒に紅茶が出てきた。
伯爵家では飲まない銘柄だと思うが嫌いな香りではない。
そういえば結局アリオスと一緒にいる時の飲み物は何を選べば正解なのだろう。
妥当なものが水しか思い浮かばない。
林檎など果物を使ったジュースや牛乳なども選択肢には入るがシチュエーションどちらもを選ぶ。
面倒臭い相手と結婚したなと改めて思った。
俺は偽者だからセシリアが見つかり次第お役御免だけれど。
そんなことを考えつつ、果たしてそう簡単に行くのだろうかと疑ってもいる。
そしてこの歪な結婚生活を妹にそのまま引き継いでいいのかとも。
公爵が今すぐ誰かとの真実の愛にでも目覚めて離婚を宣言してくれないだろうか。
その際は慰謝料を格安にして貰うよう父に談判してやってもいい。
アリオスの人形のような顔を思い浮かべ俺は思った。隠している愛人とか居たら良いのにと。
だだっ広い公爵邸の敷地の隅にでも美女を囲っていないだろうか。
寧ろ俺が敷地の隅で気兼ねなく暮らしたい。
愛人が居るなら正妻気取りで屋敷を取り仕切って貰っても構わない。
ただそれは俺が偽花嫁だから言えるのであって、妹を相手にそれをしたらきっと許せないだろう。
見た事も無い愛人の存在に期待したり憤ったりしている内にティーカップは空になった。
すかさずエストがお代わりを注いでくる。彼以外の使用人の姿は見当たらない。
気楽だが、女主人として認められていない気はしている。いやそれは事実そうなのだが。
昨日の今日とは言え公爵夫人らしいことを一切していない。
そもそも俺は公爵夫人の仕事なんてわからないのだ。
父や兄の仕事の手伝いをしたり偶に伯爵領の視察に付き合ったりはしたが、母や姉が同じことをしていた記憶はない。
セシリアは城勤めになる前は俺と似たようなことをしていたが騎士を目指していた彼女は参考にならないだろう。
俺は婚約者の家に婿入りする筈だった。アイリーンが一人娘だからだ。
その為の準備なら色々していたし、彼女の父親の仕事を見ながら学んだこともある。
アイリーンの父オーガス伯爵とは数年前から疎遠気味になっていたが。
こちら側ではなく向こう側が俺を避けたのだ。
その時にもう少しオーガス家の事情に突っ込んでいたら、アイリーンが唐突に失踪することは無かったのだろうか。
彼女の実母が亡くなったのは五年前だ。そしてオーガス伯爵が二十歳年下の後妻を迎えたのは二年前。
父が語ったところによると新しいオーガス伯爵夫人は元娼婦らしい。
貴族というのは多かれ少なかれ面子と家柄を大切にする。
俺の婚約者の新しい母親が元娼婦なのは伯爵である父には大問題だった。
父からアイリーンとの婚約解消を打診されたこともある。
ただ俺はそれだけは絶対嫌だと強く否定した。普段は割と流されやすい方だが断固拒絶した。
俺が縁を切ってしまったら、ただでさえ親子関係で悩んでいたアイリーンは消えて無くなってしまう気がしたからだ。
結果俺と彼女の婚約は継続したが、オーガス伯爵は散々説教してきた俺の父を嫌い俺のことも嫌うようになった。
でも結局俺がしたことはアイリーンにとってただの余計なお世話だったのかもしれない。
彼女が求めていた相手はセシリアだったのだろうから。
なら今は満足そうに微笑んでいるのだろうか。
デザートの桃のコンポートの甘さを感じながら俺は思った。
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