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13.警戒心が足りないと言われた

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「……予想以上に面倒臭い男だった」
「アンブローズ公爵が厄介な人物だというのは初夜の時に既に理解できていたのでは?」
「初夜って言うな」

 アリオスに口紅を拭われた後、俺は化粧が乱れたことを理由にそそくさと退出した。
 彼には色々尋ねたいことはあったが、身の危険を感じたのだ。

「妻とは言え、愛してない女の唇に平気で触る男ってマジ理解出来ない」
「確かにあれは私の目から見ても紳士らしからぬ振舞いだとは思いましたが」

 てきぱきと衣装を整理しながらエストが言う。
 侍女のふりをした従者は俺の服やアクセサリーからせっせと赤色のものを取り除いている。

「セシリアの侍女が新しくドレスとか持ってくるんだろ、それからにしたら?」
「それまでの間に又アンブローズ公爵から呼び出されたらどうするんですか」

 うっかり赤い物を身に着けていったらどんな目に遭わされるかわかりませんよ。
 丈の長い黒いドレスと白いエプロンを着こなしたエストに詰め寄られる。

「口紅だから拭われるだけで済みましたが、真紅のドレスを着ていたらその場で脱がされたかもしれません」
「流石にそれは無いだろ……多分」
「予想以上に面倒な相手だと仰ったのは自分でしょう、油断禁物ですよ」

 ただでさえ今のセレスト様は秘密を抱えているのだから。
 女装した従者に言われ俺は頷く。
 万が一公爵に身包みを剥がされて男だと知られたら確かに不味い。 
 俺がそう言うとエストは呆れたような顔をした。
 
「一応言っておきますが脱がされた後の事も心配してくださいね」
「俺の正体がばれた後の言い訳を考えて置けという事か?」
「それだけじゃなくて、脱がされて襲われる危険性にもですよ」  

 大真面目な顔で告げられ俺はぽかんと口を開けた。
 
「いや服を脱いだ時点で男だとはわかるだろう」
「男だったら襲われないなんて考えは捨てた方が良いですよ」

 少なくとも今のセレスト様は。
 名指しで言われ、俺は従者の顔を見返す。

「麗人と名高いセシリア様の代役が出来る時点で自覚して下さいよ」

 普通の男はドレス着て軽く化粧しただけで美女になんてなれないのだから。
 そう説明してくる侍女姿のエストに鏡を見ろと言いたくなった。

「男と気づかれても、いや騙していたことで激怒した公爵に乱暴される可能性もあります」
「いやいやそこまでやばい奴じゃないだろ……多分」
「しかもその場合伯爵家が彼を訴えるのは難しいかと思います、だから自衛してください」

 絶対二人きりで会わないように。
 まるで幼子に言い聞かせるように告げられ俺はエストの謎の迫力に頷くしか無かった。

  
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