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3.女騎士の兄である俺

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「それで二人について何かわかったか?」
「わからないですね、アスロー港で船には乗っていないようです」

 船場の人間が女性の二人組は居なかったと証言したので。
 伯爵家から一番近い港町の名を出しエストは答えた。

「……男女の二人組は? セシリアが男装している可能性もある」
「夕方の便に子供を連れた夫婦なら何組か乗船したそうですけれど、それだけですね」
「じゃあ陸か、あいつ乗馬も得意だからな」
「タンポポ大好き号はいなくなってませんよ」

 妹の愛馬の名を出す従者に俺は首を振った。

「今のセシリアなら馬を買える金ぐらい持っている、だけど……」

 腕を組んで考え込む俺をエストは黙って見ている。
 
「アイリーンもいるし、使うなら馬車かな。貴族令嬢が馬に二人乗りは目立つから避ける可能性もある」
「私もそう思います。それにセシリア様は恐らく以前のようには」
「……ああ、そうだった」

 従者に指摘され俺は今更気づく。
 俺の妹は一年前まで王女の護衛騎士だった。
 だが職務中の怪我で以前のように腕を動かすことが出来なくなり職を辞した。
 生活するだけなら不便はないらしいが、それはあくまで貴族令嬢としての生活はということだろう。

「でも二か月前に腕組みしたままタンポポ大好き号を足で操馬してオーガス家まで遊びに行ってましたね」
「いやそれはタンポポ大好き号が凄いんだろう、多分……」

 それでも妹が規格外の貴族令嬢であることは間違いないが。

 セシリア・リード。
 彼女は一言でいえば女騎士になる為生まれてきたような存在だった。
 そして俺は双子の片割れのセシリアと顔だけでなく背丈も似ていた。
 似ているのは外見だけともよく言われたが。

 俺は男にしては小柄で、彼女は女にしては長身だった。
 妹をやっと追い抜いたと思ったら追いつかれるという状態を繰り返し俺たちの成長は止まった。

 ちなみに髪の長さも余り変わらない。
 肩甲骨より少し下までのセミロングを後ろで細いリボンで結ぶ。それが俺と妹の髪型だった。
 ただセシリアは去年から髪を伸ばし始めていた。
 なので今の俺は足りない分を母から借りたつけ毛で誤魔化している。 

 目の前に居るエストは黒髪を伸ばしては突然バッサリ切るを繰り返している。
 現在は伸ばしている期間らしくで腰の半ばまである。一年前から髪を伸ばし始めたセシリアよりずっと長い。

 それを今は前に垂らすような形で一本の三つ編みにしていた。
 メイド服と対のホワイトブリムが良く似合っている。口を開けばバリトンボイスが出てくる長身の美女だ。

「そういやお前、見た目はともかくその声で良く公爵邸の人間に侍女と認められたな?」
「毎晩強い酒飲んで酔い潰れてたらこうなりましたって言ったら納得してくれましたよ」
「伯爵令嬢付きの侍女にアル中設定を気軽につけるな」

 そして公爵邸の人たちは本当にそんな理由で納得していいのか。
 色々騙されやすそうで心配になる。

 ああ、でも今は俺が詐欺を働いている側だから警戒心は緩い方が助かるのか。
 昨夜、公爵に声が変だと言われた時は心臓が飛び出そうになったけれど。
 俺は今更ながら冷や汗をかいた。

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