魔力無しと虐げられた公爵令嬢が隣国で聖女と呼ばれるようになるまで

砂礫レキ

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13.高鳴りの理由

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「有難う、じゃあ具体的な作戦を考えよう」
「ええ、わかったわ」

 頷くと私に合わせて座り込んでいたディオンが立ち上がる。
 私も同じようにゆっくりと立ち上がった。魔法石で治療したお陰で足の痛みは消えていた。

「研究時に寝泊まりしている小屋があるからまず移動しよう、暗いから手を繋いでもいいかな?」
「大丈夫、お願いするわ」

 ディオンが差し伸べた手に自らの手を重ねる。
 当たり前だが彼の手は温かった。
 こんな風に誰かと手をつなぐのは初めてだ。アドリアン王太子が私をエスコートすることは無い。

 前ナビーナが言っていた。
 人付き合いが嫌いな私の代わりに妹の自分が社交界ではアドリアンのパートナーを務めているのだと。

『どちらが婚約者でどちらが愛人かわからないわね』

 そう言われても特に何とも思わなかった。
 何故かナビーナはそのことが気に入らなかったみたいで持っていた扇子をぶつけられたけれど。
 もしかしたら悔しがる顔でもすれば良かったのかもしれない。
 自分が人付き合いが嫌いかはわからないけれど不得意なことは確かだ。
 
「ついたよ、ロゼリア嬢。お茶を入れるからその椅子に座って」
「ありがと……」

 小屋に到着し中に入った途端私のお腹が鳴る。
 お礼を言おうとした私は固まった。
 思い出したけれど、軽く昼食を食べてそれきりだった。今は夕食は終わった頃だろう。

 前侍女の前でお腹を鳴らした時は「魔法も使えないのにお腹は鳴らせるんですね」と笑われた。
 ディオンは公爵家の人間とは違うだろうけれど、やっぱり恥ずかしい。
 私が顔を赤くしてどう誤魔化すか考えているとディオンが口を開く。

「ごめん、俺夕食まだだった」
「え……」
「一人で食べるのもつまらないから、一緒に食べて貰っていいかな。駄目かい?」
「だっ、駄目じゃないわ。私もお腹空いていて……」

 彼が空腹だと言ったので私も素直に同意する。
 誤魔化す必要なんて全くなかった。

「良かった。大した物は無いけれど一人より二人で食べる方が楽しいからね」
「そうなの?」
「そうだよ、まあ気が合う相手限定だけど」

 ディオンはそういうと笑顔を浮かべた。
 何故か胸がドキリと高鳴る。
 もしかして彼って眼鏡と前髪で目立たないけれど整った顔をしているのではないだろうか。

 でもそれが理由ならアドリアン王太子だって優れた容姿をしている。
 いつも立派な身なりで髪で目が隠れることもない。
 ナビーナに対する笑顔なら何度も見たことがある。

「でも、こんな気持ちになったことはないわ……」

 スープが入っているらしい鍋を温めようとしているディオンの背中に呟く。
 間もなく室内においしそうな香りが漂い始めた。
 
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