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12.ディオンの提案
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「……なんて酷い話だ」
私が身の上を大体語り終えた頃ディオンの表情は険しくなっていた。
いつも温厚な彼がそんな顔をしていることを少しだけ怖いと思ってしまう。
「生まれてからずっと道具のように、いや道具だってもっと大切にされる筈だ」
「道具……」
「ごめん、言い過ぎたね。でも俺には君が人間として大切にされていないような気がしたんだ」
ディオンに謝られ、気にしないでと首を振る。
人間扱いされていない。そう言われたが不思議とショックは受けなかった。
生まれてから飢えたことは余り無い。父に逆らわなければ衣食住は保障されていた。
私は子供を産まなければいけないので健康を損ねてはいけないからだ。
だから肉付きが悪いことを逆に叱られて、食事量を増やされて吐いたりした。
アドリアン王太子が肉付きの良いナビーナを寵愛していたのも関係しているだろう。
『お前は幸せだ、公爵家に生まれていなければ呪われた魔法を宿した罪で殺されていただろう』
『お前は恵まれている、何もしなくても生かして貰えるのだから。婚約を取り付けた私に感謝しろ』
『私に養って貰った恩は優れた子を産むことで返せ』
父親に繰り返し言われた言葉を思い出す。
「私は子を産むだけで良いから恵まれている、王太子と婚約させたことに感謝しろと父に言われて来たの」
「……悪いけど、君の父親は人でなしだと思うよ」
「貴族なら愛の無い結婚なんて当然だとも言われて来た」
「政略結婚だろうと、相手を奴隷のように扱っていいわけじゃない。愛が無いから虐げるなんて獣以下だ」
「それってつまり、私にも怒る権利があるということなのかしら」
「当たり前だ、君には怒る権利があるよロゼリア嬢」
ディオンに真剣な顔で肯定され、胸から重い物が抜け落ちたような気持ちになった。
そして怒ろうと思ったが、上手く出来なかった。怒り方がわからないのかもしれない。
「怒りたいけど怒れないわ。怒るなんて感情を持つことが許されなかったから」
「君が怒りという感情を知っていたら、婚約者の男に毎回怒鳴っていただろうね」
「そんなことしたら不敬罪で処刑よ。多分子供を産んだ後になると思うけど」
私の冗談が下手だったせいかディオンの表情が暗くなる。
「ごめんなさい、変な事を言って」
「いや良いんだ、それよりロゼリア嬢。一つ提案があるんだ」
「提案?」
「王太子との婚約を解消して隣国で暮らさないか」
「隣国ってレスタールに行くってこと?」
「勝手なことを言っているとわかっている。でも俺を信じて欲しい。君を死なせたくないんだ」
ディオンの紫の瞳が眼鏡の奥で私を見つめる。暗い森の中でそれは鮮やかに輝いて見えた。
紫色なのにどこか炎のようだ。触れたら火傷しそうな程の激情を感じた。
「……わかった、貴方を信じるわディオン」
だから私は頷いた。ディオンの提案を受け入れて幸せになるかなんてわからない。
それでも彼の言葉を信じて、利用されるだけの運命を変えたいと思った。
私が身の上を大体語り終えた頃ディオンの表情は険しくなっていた。
いつも温厚な彼がそんな顔をしていることを少しだけ怖いと思ってしまう。
「生まれてからずっと道具のように、いや道具だってもっと大切にされる筈だ」
「道具……」
「ごめん、言い過ぎたね。でも俺には君が人間として大切にされていないような気がしたんだ」
ディオンに謝られ、気にしないでと首を振る。
人間扱いされていない。そう言われたが不思議とショックは受けなかった。
生まれてから飢えたことは余り無い。父に逆らわなければ衣食住は保障されていた。
私は子供を産まなければいけないので健康を損ねてはいけないからだ。
だから肉付きが悪いことを逆に叱られて、食事量を増やされて吐いたりした。
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『お前は幸せだ、公爵家に生まれていなければ呪われた魔法を宿した罪で殺されていただろう』
『お前は恵まれている、何もしなくても生かして貰えるのだから。婚約を取り付けた私に感謝しろ』
『私に養って貰った恩は優れた子を産むことで返せ』
父親に繰り返し言われた言葉を思い出す。
「私は子を産むだけで良いから恵まれている、王太子と婚約させたことに感謝しろと父に言われて来たの」
「……悪いけど、君の父親は人でなしだと思うよ」
「貴族なら愛の無い結婚なんて当然だとも言われて来た」
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「それってつまり、私にも怒る権利があるということなのかしら」
「当たり前だ、君には怒る権利があるよロゼリア嬢」
ディオンに真剣な顔で肯定され、胸から重い物が抜け落ちたような気持ちになった。
そして怒ろうと思ったが、上手く出来なかった。怒り方がわからないのかもしれない。
「怒りたいけど怒れないわ。怒るなんて感情を持つことが許されなかったから」
「君が怒りという感情を知っていたら、婚約者の男に毎回怒鳴っていただろうね」
「そんなことしたら不敬罪で処刑よ。多分子供を産んだ後になると思うけど」
私の冗談が下手だったせいかディオンの表情が暗くなる。
「ごめんなさい、変な事を言って」
「いや良いんだ、それよりロゼリア嬢。一つ提案があるんだ」
「提案?」
「王太子との婚約を解消して隣国で暮らさないか」
「隣国ってレスタールに行くってこと?」
「勝手なことを言っているとわかっている。でも俺を信じて欲しい。君を死なせたくないんだ」
ディオンの紫の瞳が眼鏡の奥で私を見つめる。暗い森の中でそれは鮮やかに輝いて見えた。
紫色なのにどこか炎のようだ。触れたら火傷しそうな程の激情を感じた。
「……わかった、貴方を信じるわディオン」
だから私は頷いた。ディオンの提案を受け入れて幸せになるかなんてわからない。
それでも彼の言葉を信じて、利用されるだけの運命を変えたいと思った。
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