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9.死んだ方がマシらしいので死にます
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死んだ方がマシと歌うように繰り返してナビーナは去って行った。
その時には辺りは暗くなっていた。
夕食の時間には早いが、いつもなら自室にいる時間だ。
公爵邸の庭は広いけれど明かりが少なく夜の散策には向いていない。
まして人が立ち入らない森なら尚更だ。
けれど私の足は自室では無く再び森に向かっていた。
危険な行動だとはわかっている。
公爵家の森に魔獣は居ないけれど、夜の森はそれだけで危険だ。
道に迷うかもしれないし、転んで怪我をするかもしれない。
でも、怪我位なんだというのだろう。
私はナビーナに言わせれば死んだ方がマシな状態らしいのに。
「……産むだけの人形になるのと森で迷って飢え死にするのと、どちらがマシかしらね」
独り言を呟きながら森を進んでいく。
でも答えなら出ていた。
不幸な子供が生まれない為に私は死んだ方が良い。
王太子が私の子供をナビーナの子と偽るようなことが出来る人なら、失敗作など平気で捨てるに違いない。
捨てるどころか殺してしまうかもしれない。
「ナビーナが庇ってくれるなんて絶対ありえないでしょうしね」
不幸なまま終わるのは私だけでいい。
だから王宮に連れていかれる前に自害することは決めた。
どうやって死にたいか考えて思った。
誰も来ない場所で誰にも知られず眠るように死にたい。
その為に私は魔大樹の元に向かおうとしていた。
あの樹は近づいた者の魔力を吸い取る。
魔力を吸われた人間は体に力が入らなくなるらしい。
そのまま魔力を吸われ続けると眠るように死ぬ。理想的な死に方に思えた。
「私の吸魔の魔法でも同じことが出来るらしいけれど……」
でも魔法は自分自身にかけることは出来ない。
しかも私は魔法を封印されていて、少しでも使えば体を激痛を苛む。安楽死から程遠い。
「何でこんな魔法だったのかしら」
もっと皆の役に立つ魔法を持って生まれたかった。
違う、それは綺麗ごとだ。
「ナビーナみたいに、皆に愛される力を持って生まれてきたかった……!」
吐き出した言葉に返事は無い。鳥が小さく鳴く音だけ聞こえた。
涙が流れるのをそのままに私は苦く笑った。叶わない願いを口にしても虚しくなるだけだ。
でもその苦しみももう少しで終わる。
「朝まで歩いたら魔大樹へ辿り着けるかしら」
一度でいいから遠くに見えるあの大きな樹に触れて見たかった。
私と同じように吸魔の力がある不思議な大木に。
そんなことを思いながら森を歩く。何回か転んだ。
すっかり夜になっていた。もう夕食の時間は過ぎているかもしれない。
父は私が食堂に来ないことを不思議がるだろうか。
そもそも私がまだ屋敷に戻っていないことに誰か気づいているだろうか。
まだ私には役割がある。魔力量に優れた子供を産むという役割が。
だから屋敷に居ないことに気付かれたから捜索はされるだろう。そして父にきつく叱責されるに違いない。
「それまでに、せめて魔大樹の影響域に辿り着かないと……」
貴族たちは魔力を吸われることを何よりも嫌がっている。
だから魔大樹の近くには絶対近寄らない。そして公爵家の衛兵などは殆どが下級貴族だ。
そこに到着すればかなりの時間稼ぎができる。
私は早足になった。しかしその途端足元の蔦に躓く。
「いたっ」
盛大に転び、小さく悲鳴を上げる。
涙目になりながら起き上がりかけると目の前に光る二つの目があった。
その時には辺りは暗くなっていた。
夕食の時間には早いが、いつもなら自室にいる時間だ。
公爵邸の庭は広いけれど明かりが少なく夜の散策には向いていない。
まして人が立ち入らない森なら尚更だ。
けれど私の足は自室では無く再び森に向かっていた。
危険な行動だとはわかっている。
公爵家の森に魔獣は居ないけれど、夜の森はそれだけで危険だ。
道に迷うかもしれないし、転んで怪我をするかもしれない。
でも、怪我位なんだというのだろう。
私はナビーナに言わせれば死んだ方がマシな状態らしいのに。
「……産むだけの人形になるのと森で迷って飢え死にするのと、どちらがマシかしらね」
独り言を呟きながら森を進んでいく。
でも答えなら出ていた。
不幸な子供が生まれない為に私は死んだ方が良い。
王太子が私の子供をナビーナの子と偽るようなことが出来る人なら、失敗作など平気で捨てるに違いない。
捨てるどころか殺してしまうかもしれない。
「ナビーナが庇ってくれるなんて絶対ありえないでしょうしね」
不幸なまま終わるのは私だけでいい。
だから王宮に連れていかれる前に自害することは決めた。
どうやって死にたいか考えて思った。
誰も来ない場所で誰にも知られず眠るように死にたい。
その為に私は魔大樹の元に向かおうとしていた。
あの樹は近づいた者の魔力を吸い取る。
魔力を吸われた人間は体に力が入らなくなるらしい。
そのまま魔力を吸われ続けると眠るように死ぬ。理想的な死に方に思えた。
「私の吸魔の魔法でも同じことが出来るらしいけれど……」
でも魔法は自分自身にかけることは出来ない。
しかも私は魔法を封印されていて、少しでも使えば体を激痛を苛む。安楽死から程遠い。
「何でこんな魔法だったのかしら」
もっと皆の役に立つ魔法を持って生まれたかった。
違う、それは綺麗ごとだ。
「ナビーナみたいに、皆に愛される力を持って生まれてきたかった……!」
吐き出した言葉に返事は無い。鳥が小さく鳴く音だけ聞こえた。
涙が流れるのをそのままに私は苦く笑った。叶わない願いを口にしても虚しくなるだけだ。
でもその苦しみももう少しで終わる。
「朝まで歩いたら魔大樹へ辿り着けるかしら」
一度でいいから遠くに見えるあの大きな樹に触れて見たかった。
私と同じように吸魔の力がある不思議な大木に。
そんなことを思いながら森を歩く。何回か転んだ。
すっかり夜になっていた。もう夕食の時間は過ぎているかもしれない。
父は私が食堂に来ないことを不思議がるだろうか。
そもそも私がまだ屋敷に戻っていないことに誰か気づいているだろうか。
まだ私には役割がある。魔力量に優れた子供を産むという役割が。
だから屋敷に居ないことに気付かれたから捜索はされるだろう。そして父にきつく叱責されるに違いない。
「それまでに、せめて魔大樹の影響域に辿り着かないと……」
貴族たちは魔力を吸われることを何よりも嫌がっている。
だから魔大樹の近くには絶対近寄らない。そして公爵家の衛兵などは殆どが下級貴族だ。
そこに到着すればかなりの時間稼ぎができる。
私は早足になった。しかしその途端足元の蔦に躓く。
「いたっ」
盛大に転び、小さく悲鳴を上げる。
涙目になりながら起き上がりかけると目の前に光る二つの目があった。
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