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2.無能令嬢の婚約者は王太子
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ナビーナが私に攻撃的な理由は少しだけ理解できる。
彼女の想い人であるアドリアン王太子の婚約者が私だからだ。
無能令嬢と呼ばれているのに何故と誰もが疑問に思うだろう。
答えは簡単で私の魔力量が年頃な貴族の娘の中で一番多い。それだけだ。封印のせいで気づく者は殆ど居ない。
ディジェ国では固有魔法だけでなく魔力量もかなりの確率で遺伝するらしい。
つまり私に求められているのは王家に嫁ぎ魔力量の多い子供を産み落とすこと、それだけだ。
忌み嫌われている『吸魔』の魔法が遺伝したらどうするのだろう。
そう父に尋ねたが、お前が考えることではないと叱られるだけだった。
どちらにしろ幸福な結婚も育児も期待など出来ないだろう。
アドリアン王太子が私を心から嫌っているからだ。
十年前、私は当時九歳のアドリアン王太子の婚約者にされた。
金髪の少年は私の青い髪と痩せた体を見て「幽霊みたいだ」と馬鹿にしたように笑った。
彼との婚約が決まってから間もなく父はナビーナ母子を公爵邸に連れてきた。
私を魔法を使えない姉と紹介された七歳の異母妹は「あなたが失敗作だから私を作ったのね」と笑った。
アドリアン王太子とよく似た笑顔だった。
そんなナビーナに腹が立つよりも、こんな小さい子さえそんな酷いことを言うのだと怖かった。
無能力者をここまで差別して嘲笑うこの国にいることが、きっと死ぬまで出られないことが怖かったのだ。
ある日アドリアン王太子が公爵邸に遊びに来て、庭の薔薇を乱暴に毟って棘で怪我をした。
それをナビーナが固有魔法で治療した時、彼の頬が赤く染まっていたことを今でも私は覚えている。
王太子を傷つけたという罪で根まで焼き捨てられた薔薇は亡き母が愛した品種だった。
「お前なんかじゃなくナビーナと結婚したかった。お前は幽霊だけどナビーナは天使だ」
その日からアドリアン王太子は何度も私にそう言うようになった。
それにうんざりした私はある日彼にこう返した。
「では私との婚約は解消してナビーナと婚約してはいかがでしょうか」
「お前にしてはいい考えだな!」
次の日、頬と目をを赤く腫らしたアドリアン王太子は公爵邸にやってくるなり呼びつけた私を力任せに殴った。
やってきたナビーナは王太子だけ心配し治療をして、そして二人は子供部屋に引っ込んだ。
まだ七歳の異母妹は幼さに似つかわしくない笑みを浮かべていた。
その夜、余計な事を言うなと私は父親に酷く叱責された。
頬の腫れを案じる言葉を聞くことは無かった。
この日を始めとして私は十年以上アドリアン王太子の八つ当たりを受け続けている。
「何故魔法も使えないお前なんだ、何故聖女のナビーナを妻に出来ないのだ」と。
私だって自分よりも異母妹のナビーナが彼と婚約して結婚して欲しいと願っていた。
「だって二人はずっと前から恋人なのだから……」
そう呟いて頬を撫でた。知っているのは私だけではない。
父も継母も使用人たちもきっと一部の貴族だって知っている。二人は関係を全く隠していないのだから。
「こんなことになるのなら、魔力なんて一切持たず生まれてきた方が良かった」
まともな魔法は使えず馬鹿にされ、だけど公爵令嬢という身分と何より魔力量だけは国内一なせいで王太子と婚約を結ばされた。
その婚約者は異母妹と愛し合っていて、二人とも私を邪魔者扱いしている。誰も味方はいない。
前世でどんな悪事を働いたら、ここまで拗れた存在として生まれてくるのだろう。
涙さえ流せず私は苦く笑った。
彼女の想い人であるアドリアン王太子の婚約者が私だからだ。
無能令嬢と呼ばれているのに何故と誰もが疑問に思うだろう。
答えは簡単で私の魔力量が年頃な貴族の娘の中で一番多い。それだけだ。封印のせいで気づく者は殆ど居ない。
ディジェ国では固有魔法だけでなく魔力量もかなりの確率で遺伝するらしい。
つまり私に求められているのは王家に嫁ぎ魔力量の多い子供を産み落とすこと、それだけだ。
忌み嫌われている『吸魔』の魔法が遺伝したらどうするのだろう。
そう父に尋ねたが、お前が考えることではないと叱られるだけだった。
どちらにしろ幸福な結婚も育児も期待など出来ないだろう。
アドリアン王太子が私を心から嫌っているからだ。
十年前、私は当時九歳のアドリアン王太子の婚約者にされた。
金髪の少年は私の青い髪と痩せた体を見て「幽霊みたいだ」と馬鹿にしたように笑った。
彼との婚約が決まってから間もなく父はナビーナ母子を公爵邸に連れてきた。
私を魔法を使えない姉と紹介された七歳の異母妹は「あなたが失敗作だから私を作ったのね」と笑った。
アドリアン王太子とよく似た笑顔だった。
そんなナビーナに腹が立つよりも、こんな小さい子さえそんな酷いことを言うのだと怖かった。
無能力者をここまで差別して嘲笑うこの国にいることが、きっと死ぬまで出られないことが怖かったのだ。
ある日アドリアン王太子が公爵邸に遊びに来て、庭の薔薇を乱暴に毟って棘で怪我をした。
それをナビーナが固有魔法で治療した時、彼の頬が赤く染まっていたことを今でも私は覚えている。
王太子を傷つけたという罪で根まで焼き捨てられた薔薇は亡き母が愛した品種だった。
「お前なんかじゃなくナビーナと結婚したかった。お前は幽霊だけどナビーナは天使だ」
その日からアドリアン王太子は何度も私にそう言うようになった。
それにうんざりした私はある日彼にこう返した。
「では私との婚約は解消してナビーナと婚約してはいかがでしょうか」
「お前にしてはいい考えだな!」
次の日、頬と目をを赤く腫らしたアドリアン王太子は公爵邸にやってくるなり呼びつけた私を力任せに殴った。
やってきたナビーナは王太子だけ心配し治療をして、そして二人は子供部屋に引っ込んだ。
まだ七歳の異母妹は幼さに似つかわしくない笑みを浮かべていた。
その夜、余計な事を言うなと私は父親に酷く叱責された。
頬の腫れを案じる言葉を聞くことは無かった。
この日を始めとして私は十年以上アドリアン王太子の八つ当たりを受け続けている。
「何故魔法も使えないお前なんだ、何故聖女のナビーナを妻に出来ないのだ」と。
私だって自分よりも異母妹のナビーナが彼と婚約して結婚して欲しいと願っていた。
「だって二人はずっと前から恋人なのだから……」
そう呟いて頬を撫でた。知っているのは私だけではない。
父も継母も使用人たちもきっと一部の貴族だって知っている。二人は関係を全く隠していないのだから。
「こんなことになるのなら、魔力なんて一切持たず生まれてきた方が良かった」
まともな魔法は使えず馬鹿にされ、だけど公爵令嬢という身分と何より魔力量だけは国内一なせいで王太子と婚約を結ばされた。
その婚約者は異母妹と愛し合っていて、二人とも私を邪魔者扱いしている。誰も味方はいない。
前世でどんな悪事を働いたら、ここまで拗れた存在として生まれてくるのだろう。
涙さえ流せず私は苦く笑った。
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