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第二部:虚飾の聖女と女神の癒し手

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 リリアは決して悪い娘ではない。だが生い立ちが特殊すぎる。

 人間の枠から大きく外れているような人物に育てられ、一般的な価値観が欠けている。

 それに加えて養い親の失踪により村で唯一の癒し手として老人たちから酷使され続けてきた。

 信じられないことにいくら奉仕をしても全く感謝されず、不満だがお前しかいないから使ってやるという上から目線でだ。

 そこに元村長の悪意も絡み、リリアは生かさず殺さずの扱いで十年間村に軟禁されてきた。

 だから彼女は人に怯え、自らの価値を低く見積もる。常に自信なさげに俯き、大きな声に怖がる。

 十代前半から栄養も睡眠も足りない生活を長年続けてきたせいで成人女性とは思えない体つきだ。

 ロザリエの治療が切っ掛けとなり村からの脱出は叶ったものの十年分積み重なった心身への負担が一気に消えた訳ではない。

 初対面の頃より大分改善されたとはいえ、触れれば折れそうなか細さと衝撃に叫び声も上げず気を失う儚さはまだ彼女に存在していた。

 つまり甘やかされ我儘に育ったディアンと相性が良い筈もないのだ。


「だっ、誰も惚れたなんて言ってない、この馬鹿騎士!」


 うん、絶対無理だ。グラジオは再確認した。

 わかっている、少年は照れ隠しに騒いでいるだけだ。

 少しつついただけで癇癪玉のような反応をする相手と、常に張りつめて震えているような娘を近づけたらどうなるか。

 リリアは限界まで耐えるだろうが、だからこそ悪い結果しか予想できない。

 ディアンは頭に血が上りやすく単純だが歪んだ性格ではない。 

 リリアの事情を話せば理解し距離を置いてくれる可能性もある。しかし己の判断で話して良い内容なのか。

 かといって年齢差とか立場を理由に反対しても逆効果だろう。寧ろ一気に燃え上がりそうだ。

 しかし今まで色恋沙汰に興味を持つ素振りなどなく、寧ろ早婚願望のある双子の姉について理解できないと呆れていたのに急に拗らせたものだ。

 恋とはそういうものなのかもしれないが。うんうんと頷いているグラジオの足を少年は容赦なく蹴った。絶対リリアと相性が悪い。


「聞いているのか、おい!僕は別にそういう気持ちで黒髪の娘に会いたい訳じゃない!」 

「あら、ディアンったら嘘ばっかり」


 キーキーと叫ぶ少年とよく似た声が廊下から放られる。そういえば扉を開けたままのやり取りだった。

 廊下と部屋の中間に立っていたディアンが後ろを振り向いて呻く。踏まれた蛙のような声だった。発生し慣れている。


「お前っ、ヴィオラ!女がこんなところ来るなよ!」

「あら嫌な言い方。そんな態度じゃ自由恋愛は無理ね。だってそんな殿方を好きになる女性なんていないもの」


 ましてお子様なディアンではね。くすくすと羽根のように軽やかな笑い声がグラジオの元まで舞ってくる。頭痛がした。

 声だけでわかる。今廊下にいるのはディアンの双子の姉のヴァイオレット・ルクスだ。

 子供と呼んでいい年齢なのに、既にロザリエの女の部分を煮詰めたような貫禄がある。

 剣を振りかざす代わりに毒針を隠し持つタイプだ。ディアンと比べ既に色々と完成されている感がある。厄介な、女性だ。


「……どうして揃いも揃って俺のところに来るかな」


 疲れてるからさっさと布団かぶって寝たいんですけど。グラジオの悲痛な本音は伯爵家の子供たち両名に却下された。
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