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第一部終了記念短編 

赤毛の騎士と翼の淑女 下

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 リリアの家から出た後グラジオは一人で山に登った。

 相変わらず獣の気配が少ない。その理由はアドニスから聞かされて納得している。


「魔物にならなきゃ熊一つ狩れないなんてダサすぎてまじうける」 


 ロザリエかアドニスのどちらかでもいたら確実に注意される発言だ。

 だがそのどちらも今この場所にはいない。黒髪の癒し手の護衛係を仲良くやっていることだろう。

 あの二人は楽しそうだとグラジオは思う。ロザリエもアドニスも『守るべき弱者』を必要とするタイプなのだろう。

 騎士道精神に溢れていて何よりだと思う。思うが、流石に少し飽いている。

 山の頂上近く来た所で空から大きな影が舞い降りてきた。

 慣れた動作で腕を突き出す。灰色の鳶がスッとそこに止まった。

 猛禽類にしては意外とつぶらな瞳で鳥はグラジオを見つめる。


「元気にしてたか、モルガー」


 そう声で労わりながら赤毛の騎士は先程捕まえ腰の袋に入れて置いた野鼠を彼女に与えた。

 モルガ―がそれを味わった後、彼女の足に赤い紐を二本邪魔にならないように巻く。


「やっと王都に帰れそうなんだ。馬車を二台、姫様の家にねだってきてくれるか」

「ハ」


 女性が呆れた時のような空気の抜けた声で鳴いて、灰色の鳶はグラジオの肩へ移動した。

 彼女の名はモルガ―。赤毛の騎士が飼っている非常に賢い鳶だ。

 だからこうやって旅先では伝書鳩ならぬ伝書鳶のような真似もしてくれる。

 だが非常に人間嫌いな為村には寄り付きもせず、今はこの山を仮の住処としている。

  
「ここ小さい獣は多いんだけどな、多分食う奴がいないからだろうけど。大丈夫かね」


 前村長ヴェイドが獰猛な大型獣を殺しつくしたせいでこの山は少し歪な生態系になっているようだった。

 それを狩りの名人であるグラジオは早々に見抜き案じていた。


「ピ」

「何?自分が兎食べまくったから大丈夫だって?ハハッ、俺たちの晩飯は捕らないでくれよ」

「ハ」

「いや、魚でも食ってろじゃなくてさ……」


 グラジオは鳥や獣と会話ができる。

 だがその上で鳥や獣を狩るのが好きだと話すと大抵異常者呼ばわりされる為にそのことはあまり人には言わない。   

 その後モルガ―との会話を暫く楽しみ、飛び立つ彼女と別れグラジオは下山した。

 肝心の夕飯材料を狩るのを忘れた事に気づいて山へ逆戻りをするのはそれから三十分後のことである。 



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