無能な癒し手と村で蔑まれ続けましたが、実は聖女クラスらしいです。

砂礫レキ

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第一部終了記念短編 

毒より苦い栄養剤

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 エルシアの作る栄養剤は不味い。

 辛くて苦くて青臭くて、嚥下後すぐに山程水を飲んでも喉や下から最悪な風味が暫く剥がれない。

 しかし一日の終わりにこれを飲まないと翌日の農作業が筋肉痛と持ち越しの疲労で地獄の苦しみになるのだ。

 朝早く起きて日が暮れるまで外で汗水垂らし働く。

 確かに村人なら当たり前の毎日かもしれない。だが自分たちはもう老人だ。

 働き盛りの若者のように全力で農作業をさせるのは虐待ではないか。

 そう堪りかねて村長のレストを捕まえて直訴したことがある。

 エルシアが近くに控えていないことを確認した上での行動だったが気づいたら背後にいた。

 銀髪の女が。

「私は貴方より年上ですよ」

 年寄りということに甘えないでくださいね。

 そうにっこり笑って告げられた後、年齢の件は冗談だと言われたが十年前と変わらない美貌を考えれば十分有り得る話だった。

 リリアにもっと優しくしてやればよかったと思う。

 いた頃は未熟で物足りない娘だと思っていたが、あれぐらいが丁度よかったのだ。

 エルシアは恐らく人間ではない。死んだヴェイドの主張は正しかった。

 だがその息子のレストは父親があれ程恐れたエルシアにすっかり取り込まれたまに夜を共に過ごすなどしているらしい。

 親不孝だと彼に説教したら「亡くなった父より、生きている自分たちのことを考えたらどうですか」と冷たく言われた。

 なんて生意気なんだと怒って帰った次の日にエルシアから渡された栄養剤はこれまでの数倍は不味かった。

 それを飲み干すまで彼女がこちらをじっと見つめていたのが一番怖かった。


「健全な精神は健全な肉体に宿る」


 寿命がくるまでに改心できるといいですね。

 さもないと地獄へ真っ逆さまでしょうから。

 その聖職者めいた言葉に、自分は亡くなる日の前日までこの女に見張られ死ぬ程不味い栄養剤を飲み続けることになるのかと泣き出したくなった。

 リリアにもう少し優しくしてやればよかった。

 後悔はいつだって毒よりも苦いのだ。


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