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序章

そして癒し手は村を見捨てた

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「こんな村は捨てて俺たちとこい」


 絵物語から抜け出してきたように美しい騎士はリリアの手を掴んだ。

 宝石のように青い瞳は真っ直ぐに黒髪の癒し手を見つめている。

 まるで鋭い剣先のようだとリリアはその眼差しを恐れた。

 気を抜けば一気に心臓を貫かれてしまう。


「お前には稀有な価値がある。なのに村の連中も、何よりお前自身もその価値を知らない」


 この村には愚か者しかいないのか。

 そう怒りを隠さない声が辺りに響く。それを聞いた村長が気まずそうにしているのがリリアには見えた。

 他の村人たちもこの騎士に対して怒るどころか反論する様子もない。

 いつも治療が下手だとリリアに不満を言っていた男性も、いつになったらまともな癒し手になれるのかと嫌味を言っていた女性も。

 自分たちを堂々と愚か者呼ばわりしている騎士に対して誰も何も言わないのだ。

 リリアを虐げてきた連中の誰一人、この美しい騎士に逆らえない。


「……連れて行ってください」


 そうリリアは騎士に答えた。

 今なら、この村から逃げられる。

 そして、自分の本当の価値を知ることが出来る。


「私は、私を大切にしてくれる人たちのところに、行きたいっ」


 願いを言葉にした途端リリアの目から涙がこぼれた。

 ずっと、ずっと言いたかったことだ。

 村人全員の手で諦めさせられた願いだった。


「そんな、行かないでくれリリア!!」

「お前がいなくなったら、村で病人が出た時にどうするんだ……!!」

「この村にはお前さんが必要なんだよ……!」


 騎士に対して押し黙っていた村人たちがリリアの言葉に悲愴な声を次々上げる。

 当然だ。リリアはこの村で唯一の癒し手なのだから。

 けれど、もう遅いのだ。 

 この愚かな村に癒し手の存在は贅沢過ぎる。

 騎士はそう言ってリリアの肩を抱いた。

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