【完結】嫉妬深いと婚約破棄されましたが私に惚れ薬を飲ませたのはそもそも王子貴方ですよね?

砂礫レキ

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レノアの章

私だけの女神

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 聖女は清く正しく美しく、誰かを特別に愛したりしてはいけない。

 そんなことをすればその人物の為だけに世界を変えてしまうから。

 教会で「教育」を受けるようになってまず初めに言い聞かされた言葉。

 世界を変えるなんて能力自分にはないなんてその時は思った。

 けれど真実は私の考えていたような意味ではなくて。

 確かにアイリ様の存在で「私の世界」は変わったのだと思う。

 教会の大人たちを出し抜くような真似をして、王族を罪人に堕とす為画策して。

 果たしてこれは聖女のふるまいと言えるだろうか?

 そんなことを時々考える。

 けれどそんな思いとは裏腹にジルク王子の婚約破棄事件以降、私は益々聖女扱いされるようになった。
 
 教会側の象徴としてのお飾り聖女ではなく、私自身が特別な存在であると皆が認めている。

 当たり前と言えばそうなのかもしれない。

 それまでは聖女という役を無難に演じ台本の台詞をただ読み上げるような日々だった。

 自らの特別な力を一般に公開する機会はなかった。人格さえも伏せたままだっただろう。

 けれど今、長年王を薬で操っていた王妃とその子供である邪悪な王子。私は二人の正体を見抜き追放した英雄なのだと民は言う。

 そして次期国王となるグラン王子、いや王太子が敵だらけの王宮で危険を顧みずそれに協力をしたとも。

 百年後、いやあと数十年もすれば語られる内容は王太子が計画の中心人物になり私は手助けをした側に逆転しているかもしれない。 

 別にそれは構わないと思う。

 けれどグラン王太子と私を悲恋前提とはいえ男女の関係で妄想し盛り上がるのは創作上でも止めて欲しいところだ。

 どちらかといえば戦友だと思っている。

 アイリ様が彼との婚約話を受けていたら又違った関係性で物語は創られたのだろうか。

 でも、そうはならなかった。彼女の決断を知った時私は喜びに心臓が破れるのではないかと思った。

 そして礼拝堂の入り口、雨上がりの空の下で私は修道女となった彼女を待つ。清廉な祈りを女神に捧げる彼女を。

 アイリスフィア様の祈る姿程美しく心を掻き乱される光景はないだろう。

 幼い頃初めて会った時から続くこの感情が最早信仰になっているのを私は感じる。

 愛されたいとは思わない。愛さなくていい。憎まれてもいい。

 
「私は貴女を救い続けます」


 扉ごしに呟く言葉は祈りであり呪いだった。

 私の世界を変えた貴女は私にとって女神なのだ。


【完】
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