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アイリスフィアの章
罪と罰
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「解毒薬など僕は持っていない!渡されていない!」
ジルク王子は泣き出す寸前の子供のような表情で叫んだ。
泣き喚きたいのはこちらの方だ。けれど絶望が私の喉を塞ぎ細い声しか出なかった。
「そんな……」
「だからお前を追放して王都から遠ざけようとしたのに……!」
確かにレノアの説明の通りなら、物理的な距離があれば薬の効果は弱まるのだろう。
けれどジルク王子は私の事を考えて今回の騒動を画策したわけではない。それぐらい幾ら私が愚かな女でもわかる。
「ジルク王子、邪魔になった私を追い出しても貴男は彼女と結ばれることはありませんよ」
「うるさい、古いしきたりなど壊せばいいだけだ!」
「そうではない、そうではないのです王子」
何故この人は理解できないのだろう。
確かにこの国の聖女は生涯伴侶を持たない。けれど、そんな理由よりも前に。
「いい加減にしてください」
冬の湖よりも冷たい声が私とジルク王子の会話を断ち切る。
「貴男と夫婦の契りを交わすくらいなら自害して地獄に落ちることを私は望みます」
汚らわしい。その台詞通りの眼差しでレノアはジルク王子を見た。
彼女の声も表情も怒りに歪むことはない。聖女に相応しい静かで美しい姿だ。
しかし、だからこそ侮蔑の意思が氷の槍のように鋭く相手に突き刺さる。
けれどそのように言われても仕方がないことをジルク王子は彼女にしたのだ。
王や貴族が列席する女神への式典を台無しにするという愚行を。それは私も同罪だ。
だがジルク王子は信じられないというような表情でレノアの名を呼んだ。
「どうして?どうしてお前はアイリスフィアのように僕を愛さない?」
「アイリ様も別に貴男を愛したわけではありませんよ。薬で無理やり操られただけです」
今回の件で公爵令嬢は被害者でしかない。そうレノアははっきりと断言する。
私は先程とは違う感情で涙をこぼした。
「解毒薬がないなら王都から去るのは貴男です、ジルク王子」
なにしろ聖女である私にも同じようにセイレーンの涙を飲ませたのだから。
涼し気な顔でレノアは衝撃的な発言をする。私は涙も忘れて彼女を見た。
聖女に惚れ薬を飲ませる。それは王に毒を盛るのと同じことだ。
王子という立場でも叱られるだけで許されるような罪ではない。
彼の父親である陛下も兄であるグラン第一王子も驚きを隠せない中で、自身の罪を理解していないジルク王子が皮肉にも一番平静に見えた。
「ジルク、貴様……どこまで愚かなのか」
最早、王子のまま死ぬか、廃嫡されるかを選ばねばならぬ。そう強張った表情で第二王子を睨み国王陛下が言う。
その言葉にサンドラ王妃が紙のような顔色になる。彼女が卒倒するのはその数秒後のことだった。
ジルク王子は泣き出す寸前の子供のような表情で叫んだ。
泣き喚きたいのはこちらの方だ。けれど絶望が私の喉を塞ぎ細い声しか出なかった。
「そんな……」
「だからお前を追放して王都から遠ざけようとしたのに……!」
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けれどジルク王子は私の事を考えて今回の騒動を画策したわけではない。それぐらい幾ら私が愚かな女でもわかる。
「ジルク王子、邪魔になった私を追い出しても貴男は彼女と結ばれることはありませんよ」
「うるさい、古いしきたりなど壊せばいいだけだ!」
「そうではない、そうではないのです王子」
何故この人は理解できないのだろう。
確かにこの国の聖女は生涯伴侶を持たない。けれど、そんな理由よりも前に。
「いい加減にしてください」
冬の湖よりも冷たい声が私とジルク王子の会話を断ち切る。
「貴男と夫婦の契りを交わすくらいなら自害して地獄に落ちることを私は望みます」
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しかし、だからこそ侮蔑の意思が氷の槍のように鋭く相手に突き刺さる。
けれどそのように言われても仕方がないことをジルク王子は彼女にしたのだ。
王や貴族が列席する女神への式典を台無しにするという愚行を。それは私も同罪だ。
だがジルク王子は信じられないというような表情でレノアの名を呼んだ。
「どうして?どうしてお前はアイリスフィアのように僕を愛さない?」
「アイリ様も別に貴男を愛したわけではありませんよ。薬で無理やり操られただけです」
今回の件で公爵令嬢は被害者でしかない。そうレノアははっきりと断言する。
私は先程とは違う感情で涙をこぼした。
「解毒薬がないなら王都から去るのは貴男です、ジルク王子」
なにしろ聖女である私にも同じようにセイレーンの涙を飲ませたのだから。
涼し気な顔でレノアは衝撃的な発言をする。私は涙も忘れて彼女を見た。
聖女に惚れ薬を飲ませる。それは王に毒を盛るのと同じことだ。
王子という立場でも叱られるだけで許されるような罪ではない。
彼の父親である陛下も兄であるグラン第一王子も驚きを隠せない中で、自身の罪を理解していないジルク王子が皮肉にも一番平静に見えた。
「ジルク、貴様……どこまで愚かなのか」
最早、王子のまま死ぬか、廃嫡されるかを選ばねばならぬ。そう強張った表情で第二王子を睨み国王陛下が言う。
その言葉にサンドラ王妃が紙のような顔色になる。彼女が卒倒するのはその数秒後のことだった。
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