【完結】嫉妬深いと婚約破棄されましたが私に惚れ薬を飲ませたのはそもそも王子貴方ですよね?

砂礫レキ

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アイリスフィアの章

王妃と聖女

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「かわいそうなひと。恋というものをご存じないのですね」


 鈴を振るような声でそのような台詞が聞こえてきてぎょっとする。

 当然私の発言ではない。

 王妃に対しそのような返しが出来るのならジルク王子に婚前交渉を迫られた時点で婚約解消を願い出ている。

 この国で現在正妃よりも位の高い唯一の女性、聖女レノアは憐れむ表情で彼女を見つめていた。

 その憂いに満ちた表情は宗教画のように美しく神々しい。


「なんですって、小娘風情が」


 今度はサンドラ王妃の発言に場が青くなる。当然だ。先程レノアに暴言を吐いた私が言える立場ではないが。

 女神の代理と王の妻。どちらも尊き身分ではあるが、どちらの格が上なのかは国民なら誰でも理解している。

 王妃の前でわさわざ口に出して比較する者はいなかっただろう。だが少しでも国の歴史や法律に触れればわかる程度のことだ。

 そう、たとえ王妃が他国から輿入れした人間だとしても。


「聖女は祈ってだけいればいい。王家と公爵家の問題に黄色い嘴を挟むのはおやめなさい」
 
「神聖なる聖堂で公爵令嬢に一方的に婚約破棄を言い立て、勝手に私を巻き込んだのは貴方の息子になりますが」


 ジルク王子には婚約者を愛する努力がまったく足りていないのでは?

 王妃のあからさまな嫌味に対しレノアは涼し気な表情で事実だけを淡々と口にした。


「なっ、そもそもお前が我が子ジルクを誑かしたのでしょう!妃の座を狙って……!」

「そのようなことをする理由がございません。処女神アイテルの代理である聖女わたくしは生涯伴侶を持たない。この国の者なら赤子以外は全員知っていることです」

「そんなこと、聖女など辞めてしまえばいいだけの話でしょう!白々しい……」

「その口を閉じよ、サンドラ」


 でないとお前が妃を辞めることになる。

 そう苦り切った顔で場を諫めたのはこの国の王であるガイウス陛下だった。


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