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七十二話 王女の慈悲
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少女たちのざわめきが室内に満ちる。
なんだ、皆しっかり聞き耳は立てていたんじゃないかと少し呆れた。
関わり合いになりたくない気持ちは嫌という程理解できるけれど。
「ま、まあああああ!」
「なんて、なんて無礼なのかしら!」
怒りの声を上げたのはルイーダ姫ではなくその従者たちだった。
その台詞そのまま鏡で弾き返してやりたい。
王女付きと言えど使用人が公爵家の人間にしていい態度ではない。
第一貴女達が仕えている王女はこの国の王女ではない。他国の人間だ。
そうだ、だからこそやり辛くて困る。下手な事を言えば外交問題になりかねない。
私は咳払いを一つして口を開いた。
「……私のような無教養な人間に宗教について話すのは壁に話すのと同じだと言いたかったのです」
「いいえ、先程の発言はそのような意味には思えません!」
「そうです、姫様の御言葉を鬱陶しいと思っているのが黙っていても見え見えでした!」
女従者達の抗議は止まらない。見てわかっていたなら気を利かせて主人を私から遠ざけてくれたらいいのに。
というかあれだけ饒舌だったルイーダ王女が無言なのが気になる。
同級生たちが遠巻きにこちらに注目しているのを痛いぐらいに感じながら私は自分の身の振り方を考えていた。
その間主の代わりとでも言うように私に対し抗議していた王女の従者たちも、長い沈黙にようやく気付いたのかルイーダ姫に呼びかけ始める。
しかしその声にもルイーダ王女は瞼を閉じて無言を貫いている。そしてたっぷり五分経った後にその目と口を開いた。
「……シュタイト公爵令嬢を罰さないように我が神に祈っておりました」
ルイーダ王女の瞳は奇妙に澄んでいて、その表情に怒りはない。
先程とは別の種類の気まずさが教室に満ちた。
これぐらい変わっている方がアリオス殿下との付き合いに耐えられるのではないかという気持ちと、これが近い将来この国の王妃になるのかという不安がせめぎ合う。
頼むからアリオス殿下を連れて自国へ戻って好きなだけ神に祈りを捧げてくれないだろうか。
私はどうすればその要望を通すことが出来るか真剣に悩んだ。
なんだ、皆しっかり聞き耳は立てていたんじゃないかと少し呆れた。
関わり合いになりたくない気持ちは嫌という程理解できるけれど。
「ま、まあああああ!」
「なんて、なんて無礼なのかしら!」
怒りの声を上げたのはルイーダ姫ではなくその従者たちだった。
その台詞そのまま鏡で弾き返してやりたい。
王女付きと言えど使用人が公爵家の人間にしていい態度ではない。
第一貴女達が仕えている王女はこの国の王女ではない。他国の人間だ。
そうだ、だからこそやり辛くて困る。下手な事を言えば外交問題になりかねない。
私は咳払いを一つして口を開いた。
「……私のような無教養な人間に宗教について話すのは壁に話すのと同じだと言いたかったのです」
「いいえ、先程の発言はそのような意味には思えません!」
「そうです、姫様の御言葉を鬱陶しいと思っているのが黙っていても見え見えでした!」
女従者達の抗議は止まらない。見てわかっていたなら気を利かせて主人を私から遠ざけてくれたらいいのに。
というかあれだけ饒舌だったルイーダ王女が無言なのが気になる。
同級生たちが遠巻きにこちらに注目しているのを痛いぐらいに感じながら私は自分の身の振り方を考えていた。
その間主の代わりとでも言うように私に対し抗議していた王女の従者たちも、長い沈黙にようやく気付いたのかルイーダ姫に呼びかけ始める。
しかしその声にもルイーダ王女は瞼を閉じて無言を貫いている。そしてたっぷり五分経った後にその目と口を開いた。
「……シュタイト公爵令嬢を罰さないように我が神に祈っておりました」
ルイーダ王女の瞳は奇妙に澄んでいて、その表情に怒りはない。
先程とは別の種類の気まずさが教室に満ちた。
これぐらい変わっている方がアリオス殿下との付き合いに耐えられるのではないかという気持ちと、これが近い将来この国の王妃になるのかという不安がせめぎ合う。
頼むからアリオス殿下を連れて自国へ戻って好きなだけ神に祈りを捧げてくれないだろうか。
私はどうすればその要望を通すことが出来るか真剣に悩んだ。
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