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七十話 婚約者たち

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 だからさっさと教室に入りたかったのだ。

 寮生活のアルやロゼと一緒に登校は出来ない。

 時間を決めて校門で待ち合わせれば可能化も知れないがそこまですることもないと思っていた。

 学校まではいつも馬車で送迎して貰っている。

 プライドの高いアリオス殿下は女子教室に乗り込んでくることは無い。

 つまり教室内にいる分には彼は私に手出しできない。そういうことだった。

 しかし女子教室に入るのを邪魔する存在が出現するとは。

 私は目の前のルイーダの頬を引っ叩きたくなった。騒ぎになるだろうから流石に実行はしない。


「……離してください、アリオス殿下」

「エミア、貴様この俺を隣国に売ったな!」


 ぎりぎりと痛いほどの握力で肩を掴まれる。彼の台詞は当然言いがかりだ。

 しかしよりにもよってその隣国の姫がいる場所でする発言ではない。

 アリオス殿下に新しい婚約者が出来たことで正直助かったと思う気持ちはあった。

 だが今はっきりとわかった。これはこれで問題が山積みだと。


「そのようなことは断じてしておりません。それにルイーダ様に失礼ですよ」


 確か彼女は神のお告げでアリオス殿下と結ばれると言われ押しかけて来た筈だ。

 そのような理由で他国に嫁ぎにくる行動力の姫だ。お告げではなく情報を買ったという指摘は神に対する侮辱だと怒り出すかもしれない。

 けれどルイーダ姫の反応は私の予想から外れていた。


「まあ、可哀想なアリオス様……まだ邪悪な神に惑わされているのですね」


 そのように疑い深いことを仰られるなんて。そう目を潤ませてルイーダ王女は婚約者を憐れんだ。

 こっちはこっちで無神経にも程がある。いや無神経とは又違うかもしれない。これは狂信だ。

 彼女の瞳の輝きは自分の崇めている神だけが正しいと思い込んでいる狂人のものだ。二百年前に見たことがある。

 私を、神から自分に与えられた褒美としか考えてなかった司祭長と同じ目をルイーダはしていた。

 だがあの男よりはまだ狂気は薄いように感じる。比べる相手が悪いのかもしれないが。


「黙れ、俺はお前が婚約者なんて認めない!」

「大丈夫です、ルイーダはわかっております。貴男の心が魔女によって縛り付けられ自由が利かないことを」


 それでも彼女が狂っていて迷惑なことには変わりないだろう。私は初めてアリオス殿下に同情した。

 でも彼だって嫌がる私に散々付き纏っている。今だってそうだ。

 押しかけ婚約者の態度に怯んだアリオス殿下の腕から抜け出し私は無理やり教室の中に入った。

 途中押しのけたルイーダ姫には大声で文句を言われたが、相手が無礼かつ頭のおかしい相手だということが分かったので何とも思わなかった。

 どうせなら彼女がアリオス殿下を連れてサマリアに帰ればいいのに。そんなことを考えながら私はロゼが教室に入ってくるのを待った。

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