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六十五話 鏡との対話
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鏡の中の私、いやエミアは恨めし気な表情で私を見つめていた。
その唇が再度開く。
『ドウシテ……?』
やはり先程の声の主は彼女だったらしい。
同じ言葉を繰り返されて私は訊き返す。
「どうしてって、何が?」
『ドウシテ、アナタは昔ニ戻ロウトスルノ……?』
「それは……」
『ダッタラ、ナンデ、私ヲ造ッタノ』
責めるような声に殴られたような衝撃を感じた。
確かに私が魂を二つに分けなければ彼女は生まれなかった。
アリオス殿下の婚約者として苦しむこともなかったかもしれない。
私が言葉に迷っていると鏡の中のエミアはこちらに手を伸ばすような動作をした。
『返シテ、ワタシノ体』
「返す……?」
『今マデ、公爵令嬢トシテ生キテキタノモ、苦シンデキタノモ私、アナタジャナイ』
だからその肉体の主導権を返せ。そう主張するエミアを私は見つめるしか出来なかった。
彼女の発言がアリオス殿下に婚約解消を申し入れた直後だったら一も二もなく了承していただろう。
いや、もっと後でも頷いていたに違いない。
けれど私はもうアルと再び出会ってしまった。彼だけではない。ロゼマリアやフレイお父様とも親しくしてしまった。
本当は気づいてしまっている。エミアの代わりではなく「私」として今を生きたいと自分が望んでいることに。
だけどエミアの主張だって正当なものだ。たとえ一度死ぬ程絶望したって、生きたいと思い直すことはある。それを私は前世で知っている。
私は少し考えて口を開いた。
「もし私と貴女が再度入れ替わったとして、アリオス殿下の件はどうするつもりなの?」
婚約解消はしたけれど彼は諦めていないし縁が完全に切れた訳ではない。
私がそう指摘するとエミアは唇を吊り上げた。
『ソンナノ、殺シテシマエバイイジャナイ』
「……っ!」
赤い唇の隙間から二つに割れた舌が見えた気がして、私は鏡に向かい自らの掌をかざした。
そのまま光の魔力を放つ。
ここまでをほぼ無意識で行った結果、鏡に大きくヒビが入る。少しの間を置いて破片が床に落ちる音がした。
その唇が再度開く。
『ドウシテ……?』
やはり先程の声の主は彼女だったらしい。
同じ言葉を繰り返されて私は訊き返す。
「どうしてって、何が?」
『ドウシテ、アナタは昔ニ戻ロウトスルノ……?』
「それは……」
『ダッタラ、ナンデ、私ヲ造ッタノ』
責めるような声に殴られたような衝撃を感じた。
確かに私が魂を二つに分けなければ彼女は生まれなかった。
アリオス殿下の婚約者として苦しむこともなかったかもしれない。
私が言葉に迷っていると鏡の中のエミアはこちらに手を伸ばすような動作をした。
『返シテ、ワタシノ体』
「返す……?」
『今マデ、公爵令嬢トシテ生キテキタノモ、苦シンデキタノモ私、アナタジャナイ』
だからその肉体の主導権を返せ。そう主張するエミアを私は見つめるしか出来なかった。
彼女の発言がアリオス殿下に婚約解消を申し入れた直後だったら一も二もなく了承していただろう。
いや、もっと後でも頷いていたに違いない。
けれど私はもうアルと再び出会ってしまった。彼だけではない。ロゼマリアやフレイお父様とも親しくしてしまった。
本当は気づいてしまっている。エミアの代わりではなく「私」として今を生きたいと自分が望んでいることに。
だけどエミアの主張だって正当なものだ。たとえ一度死ぬ程絶望したって、生きたいと思い直すことはある。それを私は前世で知っている。
私は少し考えて口を開いた。
「もし私と貴女が再度入れ替わったとして、アリオス殿下の件はどうするつもりなの?」
婚約解消はしたけれど彼は諦めていないし縁が完全に切れた訳ではない。
私がそう指摘するとエミアは唇を吊り上げた。
『ソンナノ、殺シテシマエバイイジャナイ』
「……っ!」
赤い唇の隙間から二つに割れた舌が見えた気がして、私は鏡に向かい自らの掌をかざした。
そのまま光の魔力を放つ。
ここまでをほぼ無意識で行った結果、鏡に大きくヒビが入る。少しの間を置いて破片が床に落ちる音がした。
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