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六十四話 飛行術の練習

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 私は聖女時代、飛行術を使うことが出来た。

 もしそれが今でも使えるなら竜の谷の底へ辿り着くことが出来るかもしれない。

 自室に入り念の為内側から鍵をかける。出来るにしろ出来ないにしろ人に見られたくはない。

 二百年前、無知な子供だった私はそれが特別なことだとも知らず親の前で飛行術や光の魔法を親の前で使った。

 結果として両親から人間扱いされなくなり教会に売られた。

 フレイお父様はお金に困っていないし、そんなことをする人でもないと思うが前世で親から受けた仕打ちは私の中でまだ消えていない。


「……出来るかもわからない内から臆病なものね」


 溜息を吐く。ベッドに座っては立ち上がってを何回か繰り返して私はようやく意識を集中することにした。

 最初から昔のように自由自在に飛べるとは思わない。まずは浮くことだ。

 自分の体を持ち上げると言うよりは、足元の床を無い物と考える。瞼を閉じ、息を深く吸って、それ以上に深く吐き出す。

 何回か深呼吸をしていると突然靴越しに感じていた床の固さが消える。そこで安心してはいけない。その状態を維持して当たり前にしなければいけない。

 二百年前の自分を思い出す。歩くように容易く空を舞っていた頃の自分を。

 あの頃と同じように空を飛びたい。


『……ドウシテ?』 


「……え?」


 氷のように冷たい声が響いて集中した意識が途切れる。途端、すとんと靴が床についた。

 そこまでの衝撃ではないが慌てて足がもつれそうになる。

 瞼を開いて室内を見回す。当たり前だが私以外居ない。けれど確かに声がしたのた。

 鍵を外し扉を開けてもやはり人の姿は見えない。首を傾げながら室内に戻るとクローゼットの横に置いてある姿見に自分の姿が映っていた。

 それを一度はスルーしようとして、違和感に気づく。

 着ている服が違う。部屋着姿の私と違って鏡の中の「エミア」は豪華なドレスを身に着けていた。

 そしてそれは私と彼女が入れ替わった日に着ていたのと同じ物だった。

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