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六十一話 隠された戦力
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ルーンとサマルアの国境。そこが最悪竜ザッハークの棲み処だった。
しかし二百年後の今、そこには竜の谷という深い溪谷が出来ている。
更にその谷をつくりだしたのが過去の私だという偽伝説も生まれていた。
当然私の仕業ではない。そんな記憶はない。
けれどその谷が突然出現したことでルーン国は確かに助かったのだろう。
ザッハークという最大の障壁が死に絶え、竜の討伐の為にルーン国の戦力はほぼ壊滅した。
サマルア国に野心があるなら無防備になった隣国を攻めない理由がない。
「でもそうはならなかった」
ロゼが静かに結果を告げる。そうだ。そうはならなかった。何故なら。
「竜の谷が出来たから……」
私の呟きに彼女は深く頷いた。
「そう。誰が作ったのか、そもそも人の意思で出来たものなのかもわからない」
だがあの谷の存在が二百年後の今でも隣国サマルアへの盾となっているのは確かだ。
そう国境を守護する辺境伯の娘であるロゼは語った。
「もしなかったら?」
私は彼女に尋ねる。しかしそれに答えたのは弟のアルだった。
彼の前世は二百年前の騎士団長だ。
「最後の竜であるザッハークの討伐は、陛下も距離を置いて見守っていた。攻め込まれていたらあっという間だったかもね」
「確か司祭長が護衛だと言って陛下と共にいたわね」
彼の言葉を補足するように私も当時の記憶を話した。
ロゼは私たちの言葉を興味深げに聞いた後口を開く。
「その後方見守り組の中に地面を割れそうな人材はいたかい?」
私とアルは互いの顔を見る。そしてほぼ同時にロゼの方に視線を戻し首を振った。
本当に心当たりがない。司祭長他教会組の中に魔法は使える者はいたが補助や回復魔法が殆どだ。
アルファードが率いていた騎士団は物理攻撃だし、谷を作り出す程の膂力の持ち主の話は聞いたことがなかった。
もしそんなことが出来る人間がいたなら二百年前の私は死ななくてよかったかもしれない。
ザッハークと聖女エミヤの亡骸は今でも深い谷底で朽ち果てているのだろうか。
アルファードや騎士たちの体はちゃんと回収されて葬られているのだろうか。
「……僕たちはそんな人間に心当たりはないけれど、能力を隠していた者はいるのかもしれない」
王家はエミヤのことも脅威とみなしていた。対抗戦力を用意していた可能性はある。
アルの言葉に驚いて彼を見上げる。とても苦い眼差しをしていた。
少し驚いたが、同時に納得も出来た。アルファードと出会う前のことを思い出す。
彼ら親子や騎士団と関わって気づいたが、それまで人間扱いなど全くされていなかった。
もしザッハークと相討ちという形で命を落とさなければ今伝わる私の評価は聖女とは逆だったのかもしれない。
暗い気持ちになった私の頭上で下校時間を告げるチャイムが鳴り響いた。
しかし二百年後の今、そこには竜の谷という深い溪谷が出来ている。
更にその谷をつくりだしたのが過去の私だという偽伝説も生まれていた。
当然私の仕業ではない。そんな記憶はない。
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サマルア国に野心があるなら無防備になった隣国を攻めない理由がない。
「でもそうはならなかった」
ロゼが静かに結果を告げる。そうだ。そうはならなかった。何故なら。
「竜の谷が出来たから……」
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「そう。誰が作ったのか、そもそも人の意思で出来たものなのかもわからない」
だがあの谷の存在が二百年後の今でも隣国サマルアへの盾となっているのは確かだ。
そう国境を守護する辺境伯の娘であるロゼは語った。
「もしなかったら?」
私は彼女に尋ねる。しかしそれに答えたのは弟のアルだった。
彼の前世は二百年前の騎士団長だ。
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ロゼは私たちの言葉を興味深げに聞いた後口を開く。
「その後方見守り組の中に地面を割れそうな人材はいたかい?」
私とアルは互いの顔を見る。そしてほぼ同時にロゼの方に視線を戻し首を振った。
本当に心当たりがない。司祭長他教会組の中に魔法は使える者はいたが補助や回復魔法が殆どだ。
アルファードが率いていた騎士団は物理攻撃だし、谷を作り出す程の膂力の持ち主の話は聞いたことがなかった。
もしそんなことが出来る人間がいたなら二百年前の私は死ななくてよかったかもしれない。
ザッハークと聖女エミヤの亡骸は今でも深い谷底で朽ち果てているのだろうか。
アルファードや騎士たちの体はちゃんと回収されて葬られているのだろうか。
「……僕たちはそんな人間に心当たりはないけれど、能力を隠していた者はいるのかもしれない」
王家はエミヤのことも脅威とみなしていた。対抗戦力を用意していた可能性はある。
アルの言葉に驚いて彼を見上げる。とても苦い眼差しをしていた。
少し驚いたが、同時に納得も出来た。アルファードと出会う前のことを思い出す。
彼ら親子や騎士団と関わって気づいたが、それまで人間扱いなど全くされていなかった。
もしザッハークと相討ちという形で命を落とさなければ今伝わる私の評価は聖女とは逆だったのかもしれない。
暗い気持ちになった私の頭上で下校時間を告げるチャイムが鳴り響いた。
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