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五十九話 幕間・二百年前の出会い「5」
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不思議な瞳をした少女は痩せこけた鼠よりも貪欲に果実に噛り付いた。
自家製林檎の美味さに内心得意げになりながらアルファードは少女に話しかけ続ける。
一気に食べ過ぎて胃をびっくりさせないようにという配慮もそこにはあった。
しかし聞かされる内容に少女の胃の代わりにアルファードが驚き続けることになる。
「は?お前が噂の竜殺し?こんなに小さいのに?」
「さっき、言いましたけど」
「だってなんか……イメージと違う!」
「そんなこと、言われても知りません」
両手で林檎の芯を大事に持ちながらエミヤと名乗った少女は言う。
その声には少しの不機嫌さが混じっていた。
アルファードは悪いと謝りながら羊肉を挟んだパンを容れ物ごと差し出した。
途端少女の目はそれに釘付けになる。
やはり竜の乙女のイメージと違う。彼女から林檎の芯を取り上げながらアルファードは思った。
こんなの全然「英雄」じゃない。
ただの腹を減らしたみすぼらしい子供だ。
「……何で竜を一人で倒せるのに、あんな場所で倒れてたんだよ」
部下も従者も連れず一人で。騎士としての価値観で語るアルファードにエミヤは首を傾げた。
「教会まで一人で帰るのが修行ですので」
「そんなの! 竜倒した後に途中で死んだらどうなるんだよ」
「わからないです。でもそうするように大司教様からは言われています」
「頭がおかしすぎる……」
淡々と告げる少女と反比例してアルファードの口調は苦々しいものになる。
なんとなくだが、大司教とやらの考えは読める気がする。
頭が宗教に狂っていないことが前提なら、理由は「見栄」だ。
竜殺しの乙女の圧倒的な強さを喧伝する為に孤軍奮闘を強いているのだ。
これまで教会は竜の討伐に対し補助や援護が役目だった。攻撃手段を持たないからだ。
だが突如竜に対して圧倒的優位を取れる存在を入手した。それがエミヤなのだろう。
この少女を利用して教会は騎士団他に優位を取りたいのだ。
その為に完全に一人で戦わせている。
「……馬鹿馬鹿しい」
アルファードは吐き捨てた。これは戦いを知らないものの暴走だ。
切り札や武器を大切に扱うという発想が大司教とやらにはないのだろう。
それともエミヤの特異性を見誤って不死だとでも認識しているのではないだろうか。
勿体ない、と思った。
彼女はこのままの境遇ではその内に野垂れ死にをしてしまうだろう。
実際、今回アルファードが遠駆けに出なければそうなる筈だった。
竜に倒された訳でなく、帰路の途中で足の怪我と体力が尽きたという理由で死ぬ所だったのである。
軽々と竜を倒す乙女の出現で騎士団長の父は馬鹿にされるようになった。
だが父は、この少女が死んで人々の話題から消えたとしてそのことを喜ぶだろうか。
いや、そのような情けない男ではない。アルファードはどうすればいいのかを考えた。
自家製林檎の美味さに内心得意げになりながらアルファードは少女に話しかけ続ける。
一気に食べ過ぎて胃をびっくりさせないようにという配慮もそこにはあった。
しかし聞かされる内容に少女の胃の代わりにアルファードが驚き続けることになる。
「は?お前が噂の竜殺し?こんなに小さいのに?」
「さっき、言いましたけど」
「だってなんか……イメージと違う!」
「そんなこと、言われても知りません」
両手で林檎の芯を大事に持ちながらエミヤと名乗った少女は言う。
その声には少しの不機嫌さが混じっていた。
アルファードは悪いと謝りながら羊肉を挟んだパンを容れ物ごと差し出した。
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やはり竜の乙女のイメージと違う。彼女から林檎の芯を取り上げながらアルファードは思った。
こんなの全然「英雄」じゃない。
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「そんなの! 竜倒した後に途中で死んだらどうなるんだよ」
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「頭がおかしすぎる……」
淡々と告げる少女と反比例してアルファードの口調は苦々しいものになる。
なんとなくだが、大司教とやらの考えは読める気がする。
頭が宗教に狂っていないことが前提なら、理由は「見栄」だ。
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これまで教会は竜の討伐に対し補助や援護が役目だった。攻撃手段を持たないからだ。
だが突如竜に対して圧倒的優位を取れる存在を入手した。それがエミヤなのだろう。
この少女を利用して教会は騎士団他に優位を取りたいのだ。
その為に完全に一人で戦わせている。
「……馬鹿馬鹿しい」
アルファードは吐き捨てた。これは戦いを知らないものの暴走だ。
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それともエミヤの特異性を見誤って不死だとでも認識しているのではないだろうか。
勿体ない、と思った。
彼女はこのままの境遇ではその内に野垂れ死にをしてしまうだろう。
実際、今回アルファードが遠駆けに出なければそうなる筈だった。
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軽々と竜を倒す乙女の出現で騎士団長の父は馬鹿にされるようになった。
だが父は、この少女が死んで人々の話題から消えたとしてそのことを喜ぶだろうか。
いや、そのような情けない男ではない。アルファードはどうすればいいのかを考えた。
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