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五十八話 幕間・二百年前の出会い「4」
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アルファード少年はぽかんとした。
行き倒れの少女を発見し介抱したのに本人はそれを非難するような事を言う。
騎士団長の長男として生を受け明るみだけを歩いてきた彼にとって、後ろ向きに死を望む人間は初めての存在だった。
恨み言に対する怒りより少女がそのように思う理由がアルファードは知りたくなった。
「なあ、どうしてお前は死にたいんだ?」
「しにたいわけじゃありません、うまれかわりたいだけです」
返答の直後に少女が咳き込む。アルファードは彼女に再度水筒を差し出した。
紫の瞳は迷いを映しながら、やはり渇きには抗えないのか少女は水を飲み始める。
弁当や干した果物も分け与えてやろうかと思いながらアルファードは少女の持ち物を確認した。
身に着けている服と、ボロボロの布と小型の翼竜の死骸以外荷物というものが見当たらない。
先程少女は否定したが、旅の途中で捨てられたと考えるしかない状況だった。
ただ彼女の紫の瞳は乾いていて悲しみに潤んでいる様子はない。
十分に水を飲んだのかアルファードに水筒を返して少女は先程の台詞の続きを話した。
喉に水気が行き渡ったのか先程よりずっとしっかりした声だった。
「苦しんで生きることは財産となって次の生が幸福で豊かになると言われました」
大人にそう説教されたのだろうと思うような口調で少女は告げる。
その理屈に全く納得できずアルファードは首を傾げた。ミカエリス教の聖書にそんなことが書いてあったような気がする。
だがそもそも彼は宗教にほぼ無関心だった。転生思想にも興味を引かれない。
それはアルファードが恵まれた人生を送っている為だが十一歳の少年はそこまで考えが至らなかった。
「そんなの、次幸せになれたってそれはお前じゃないだろ」
別の誰かの人生だ。アルファードの言葉に少女の顔が紙のように白くなる。
少年はぎょっとしてその様子を見つめ、無言で皮袋を探り出した。
少女は唇を噛みしめたまま何も話さなかった。自分の反論に怒り出して口喧嘩になった方が余程気が楽になったのに。少年は思う。
彼女を傷つけてしまった後悔はある。ただ発言を撤回する気はなかった。
皮袋の中で手を彷徨わせ、やがて目当ての物を掴み取るとアルファードは少女にそれを差し出す。艶々とした赤い果実を。
それは出る前に彼が庭の木に登り採ってきた林檎だった。甘さと酸味が丁度良く何よりも瑞々しい。
遠駆けに行く度、この草原で風に吹かれながらそれを齧るのがアルファードの楽しみだった。
「食えよ。そうしたらお前、絶対幸せだと思うから」
少女は目を大きく見開き、やがてゆっくりとその果実に手を伸ばした。
行き倒れの少女を発見し介抱したのに本人はそれを非難するような事を言う。
騎士団長の長男として生を受け明るみだけを歩いてきた彼にとって、後ろ向きに死を望む人間は初めての存在だった。
恨み言に対する怒りより少女がそのように思う理由がアルファードは知りたくなった。
「なあ、どうしてお前は死にたいんだ?」
「しにたいわけじゃありません、うまれかわりたいだけです」
返答の直後に少女が咳き込む。アルファードは彼女に再度水筒を差し出した。
紫の瞳は迷いを映しながら、やはり渇きには抗えないのか少女は水を飲み始める。
弁当や干した果物も分け与えてやろうかと思いながらアルファードは少女の持ち物を確認した。
身に着けている服と、ボロボロの布と小型の翼竜の死骸以外荷物というものが見当たらない。
先程少女は否定したが、旅の途中で捨てられたと考えるしかない状況だった。
ただ彼女の紫の瞳は乾いていて悲しみに潤んでいる様子はない。
十分に水を飲んだのかアルファードに水筒を返して少女は先程の台詞の続きを話した。
喉に水気が行き渡ったのか先程よりずっとしっかりした声だった。
「苦しんで生きることは財産となって次の生が幸福で豊かになると言われました」
大人にそう説教されたのだろうと思うような口調で少女は告げる。
その理屈に全く納得できずアルファードは首を傾げた。ミカエリス教の聖書にそんなことが書いてあったような気がする。
だがそもそも彼は宗教にほぼ無関心だった。転生思想にも興味を引かれない。
それはアルファードが恵まれた人生を送っている為だが十一歳の少年はそこまで考えが至らなかった。
「そんなの、次幸せになれたってそれはお前じゃないだろ」
別の誰かの人生だ。アルファードの言葉に少女の顔が紙のように白くなる。
少年はぎょっとしてその様子を見つめ、無言で皮袋を探り出した。
少女は唇を噛みしめたまま何も話さなかった。自分の反論に怒り出して口喧嘩になった方が余程気が楽になったのに。少年は思う。
彼女を傷つけてしまった後悔はある。ただ発言を撤回する気はなかった。
皮袋の中で手を彷徨わせ、やがて目当ての物を掴み取るとアルファードは少女にそれを差し出す。艶々とした赤い果実を。
それは出る前に彼が庭の木に登り採ってきた林檎だった。甘さと酸味が丁度良く何よりも瑞々しい。
遠駆けに行く度、この草原で風に吹かれながらそれを齧るのがアルファードの楽しみだった。
「食えよ。そうしたらお前、絶対幸せだと思うから」
少女は目を大きく見開き、やがてゆっくりとその果実に手を伸ばした。
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