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五十七話 幕間・二百年前の出会い「3」

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 行き倒れを見たことは初めてではない。

 アルファードが現在いる場所は王都からそこまで離れていないが、目と鼻の先ほど近くはない。

 優れた馬で三、四時間程の距離だ。砂漠ではなく緑は豊かだが、だからこそ獣もいる。

 飢えや獣に襲われるなどして安全地帯に辿り着く前に力尽きる、そのような惜しい亡骸を遠駆けが趣味のアルファードは何度か目にしていた。

 だが今目の前に倒れているのは過去のそれらとは少し違うようだった。

 何故なら翼竜の死骸を掴んでいる。竜としては小柄だ。だが胴体だけでも大型犬ほどの大きさがある。

 その腹には背中を貫通する大穴が開いていた。恐らくこれが致命傷だろう。

 そこまでは推測出来てもいったいどうやって仕留めたのかアルファードには想像もつかなかった。

 剣でも槍でも弓矢でもないことはわかる。

 一番確実なのは竜の足を握りしめて倒れている人物に答えを聞くことだ。生きていればだが。

 アルファードは剣の鞘を器用に使い人物を隠しているボロボロのローブを頭の部分だけ剥がした。

 相手は俯せに倒れていたので青銀かがった髪が出てくる。珍しい色合いだがボサボサに傷んでいた。 


「お前、生きているのか」


 自分よりも小柄でガリガリに痩せた体に対しアルファードは呼びかける。僅かに震えた肩を少年は見逃さなかった。

 乗馬用のグローブをつけたまま相手を仰向けにする。感染症で伏している可能性を考えての事だった。

 だがアルファードはそれが杞憂だったことに気づく。粗末なローブにすっぽりと包まっていた体はあちらこちらが傷つき血が皮膚にこびり付いていた。

 特に酷いのは右足の傷だ。血は生乾きだったがこの状態で歩くのは辛いだろう。しかし子供一人で倒れていたのが気になる。

 皮袋から清潔な布を出し止血してやる。水筒から水を口に運んでやりながらアルファードは行き倒れた人物に尋ねた。


「お前、仲間に見捨てられたのか」


 その言葉に閉じられていた瞼が震えながら開く。惨めな程ボロボロの体に不釣り合いな紫の瞳と目が合った。

 これが宝石ならどれ程の高値がつくだろう。

 飾ることに興味がないアルファードの心さえ惑わせる輝きをその子供は両の眼に持っていた。

 高貴で美しく稀有で孤独な紫水晶。


「なかまは、いません。わたしは、いたんなので」


 声の高さと柔らかさで相手が少女なのだと気づく。相手が異性であることより、その台詞の内容にアルファードは凍りついた。


「やっとじゅなんのすえに、しんで、うまれかわれるとおもったのに」


 どうして私を見つけたのですか。少女は非難する瞳でアルファードを見つめた。

 それが後に聖女と呼ばれるエミヤと未来の騎士団長の出会いだった。
 
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