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五十六話 幕間・二百年前の出会い「2」
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騎士団が竜から人々を守り教会が人々を癒す。
その役割分担で上手くいっていた。そう思っていたのは騎士団側だけだったらしい。
それとも竜殺しの乙女という「武器」を手に入れて増長してしまったのか。
教会関係者たちはことあるごとに騎士団を軽んじ煽るような発言をし始めたということだった。
騎士団長である父はそのようなことを家族に話すことはなかったが、その部下たちはそうではなかった。
そんな訳でアルファードはすっかり教会も竜の乙女とやらも嫌いになっていた。
ミカエリス教はルーン国の国教である。
主神として崇められる女神ミカエラは慈悲と戦いという相反する性質を持つ。
慈悲の部分は人間が住むことの出来る大陸を夫婦で生み出してくれたこと。
戦いの部分は欲が出て大陸を独占しようとした夫神を誅したこと。
その時ミカエラに殺された夫の体から竜が生まれたとされる。
もう十一になるアルファードには少し残酷な御伽噺だとしか思えないが。
男尊女卑の風潮が強いこの国で妻が夫を倒すという内容が伝わり続けていることが不思議だった。
女神ミカエラのような女性が現実に存在したら厄介者扱いされただろう。
たとえば年上の騎士たちが女の癖に生意気だと陰口を叩いている竜殺しの乙女のように。
アルファードにも女性を軽んじる感性はある。男よりも女性は劣っているという気持ちもある。
だがそれはそれとして母を尊敬しているし、女性を馬鹿にしていいとも思っていない。
それは自分の格を下げる行為だと父から厳しく躾けられているからだ。
竜殺しの乙女の存在だって気に入らないが生意気だと騎士たちに同調はしたくなかった。
単独で竜を倒せる彼女を見下すというのは、それ以下の戦力の自分を虚仮にするようなものだ。
しかし顔も知らないがどのような女傑なのだろう。下手な男よりも余程逞しい見た目であればいいと個人的にアルファードは考えた。
女という枠組みに入れる方が間違いだと思えるような頑強な人物であればいい。
だとしたら、まだ納得できるのだ。
そんなことを考えて暮らしていたら大人たちからは鬱屈しているように見えたのかもしれない。
街の外で少し遠駆けでもしてきたらどうかと母に言われてアルファードは愛馬を連れて外出した。
乗馬は好きで得意だ。弟は馬車に乗ることを好むがアルファードは単騎で駆けることを好む。
厨房はいつもより少し豪華な弁当を用意してくれた。それだけで気分が上がる。
考え事をするのは向いていない。愛馬と気持ちよく駆けながらアルファードは自覚する。
知らない相手の悪評を耳に入れるのも嫌だ。自分で確認した情報で好き嫌いぐらい決めたい。
騎士は馬鹿にはなれないというが単純さが必ずしも悪徳だとは思わない。
王に死ねと言われたら死ぬし任務で死ねと言われたら死ぬ。
騎士というのはある意味呆気ない存在だ。小難しいことを考えている方が剣が鈍るだろう。
そんなことを考えながら馬を走らせる。
街から離れすぎるなと大人たちから言われているが日が暮れるまでに戻って来られるなら問題ないだろう。
次第に街へ向かう旅人や行商人と擦れ違う数が少なくなる。反比例して障害物のない馬の速度は増す。
アルファードが地面に倒れている竜殺しの乙女を発見したのは街が豆粒程の大きさになった場所だった。
その役割分担で上手くいっていた。そう思っていたのは騎士団側だけだったらしい。
それとも竜殺しの乙女という「武器」を手に入れて増長してしまったのか。
教会関係者たちはことあるごとに騎士団を軽んじ煽るような発言をし始めたということだった。
騎士団長である父はそのようなことを家族に話すことはなかったが、その部下たちはそうではなかった。
そんな訳でアルファードはすっかり教会も竜の乙女とやらも嫌いになっていた。
ミカエリス教はルーン国の国教である。
主神として崇められる女神ミカエラは慈悲と戦いという相反する性質を持つ。
慈悲の部分は人間が住むことの出来る大陸を夫婦で生み出してくれたこと。
戦いの部分は欲が出て大陸を独占しようとした夫神を誅したこと。
その時ミカエラに殺された夫の体から竜が生まれたとされる。
もう十一になるアルファードには少し残酷な御伽噺だとしか思えないが。
男尊女卑の風潮が強いこの国で妻が夫を倒すという内容が伝わり続けていることが不思議だった。
女神ミカエラのような女性が現実に存在したら厄介者扱いされただろう。
たとえば年上の騎士たちが女の癖に生意気だと陰口を叩いている竜殺しの乙女のように。
アルファードにも女性を軽んじる感性はある。男よりも女性は劣っているという気持ちもある。
だがそれはそれとして母を尊敬しているし、女性を馬鹿にしていいとも思っていない。
それは自分の格を下げる行為だと父から厳しく躾けられているからだ。
竜殺しの乙女の存在だって気に入らないが生意気だと騎士たちに同調はしたくなかった。
単独で竜を倒せる彼女を見下すというのは、それ以下の戦力の自分を虚仮にするようなものだ。
しかし顔も知らないがどのような女傑なのだろう。下手な男よりも余程逞しい見た目であればいいと個人的にアルファードは考えた。
女という枠組みに入れる方が間違いだと思えるような頑強な人物であればいい。
だとしたら、まだ納得できるのだ。
そんなことを考えて暮らしていたら大人たちからは鬱屈しているように見えたのかもしれない。
街の外で少し遠駆けでもしてきたらどうかと母に言われてアルファードは愛馬を連れて外出した。
乗馬は好きで得意だ。弟は馬車に乗ることを好むがアルファードは単騎で駆けることを好む。
厨房はいつもより少し豪華な弁当を用意してくれた。それだけで気分が上がる。
考え事をするのは向いていない。愛馬と気持ちよく駆けながらアルファードは自覚する。
知らない相手の悪評を耳に入れるのも嫌だ。自分で確認した情報で好き嫌いぐらい決めたい。
騎士は馬鹿にはなれないというが単純さが必ずしも悪徳だとは思わない。
王に死ねと言われたら死ぬし任務で死ねと言われたら死ぬ。
騎士というのはある意味呆気ない存在だ。小難しいことを考えている方が剣が鈍るだろう。
そんなことを考えながら馬を走らせる。
街から離れすぎるなと大人たちから言われているが日が暮れるまでに戻って来られるなら問題ないだろう。
次第に街へ向かう旅人や行商人と擦れ違う数が少なくなる。反比例して障害物のない馬の速度は増す。
アルファードが地面に倒れている竜殺しの乙女を発見したのは街が豆粒程の大きさになった場所だった。
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