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五十二話 死後の神格化

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 私とアルは前世で同じ日、同じ戦地に没した。

 互いに相手は生きていてくれればいいと思いながら。

 そして生まれ変わり再び巡り合った。

 だから悲劇ではないのだと、思いたい。


「……聖女の戦い方って伝わっているものよりも苛烈だったんだね」


 騎士団が太刀打ちできない相手なら当然か。ロゼの言葉に私は返答する。


「確かに巨竜の相手は大変だったわ。でも弓矢が通る小型の翼竜なら騎士たちが退治していたのよ」


 単独で縄張りを持つ大物の竜は小型の翼竜を何匹も使役していることが多い。

 餌集めだったり、竜退治に来た人間にけしかけたり手下のように扱っている。

 だから討伐に挑む時は騎士団の補佐がとても有難かった。

 アルが率いる騎士団が小竜たちの相手を引き受けている間に私がボス級の巨竜を退治する。

 それが二百年前の私たちの日常だった。

 私単独でも任務はこなせただろうが、きっとザッハークを斃す前に力尽きていただろう。 
 
 
「何というか、そういう苦労描写とか残っていないんだよね。聖女エミヤを神格化させたいのかもしれないけれど」

「……なんというか複雑な気分だわ」


 だってそういう扱いになったのは私が死んでからの話だ。

 竜に命や生活を脅かされていた民の感謝の言葉は今でも覚えている。けれど私は王家にとって兵士の一人でしかない。

 生前の扱いは神というより捨て駒に近いだろう。大切にされた覚えはない。

 騎士団が討伐についてきてくれるようになったのも、単独での竜退治の度に軽くない怪我をして戻ってくる私を当時の騎士団長が見かねたからだ。


「そうだよね。苦労してやり遂げたことを、お前は天才だから余裕だっただろみたいに言われる癪だよね」


 わかるわかると繰り返し頷くロゼに、少し違う気がすると言い出せずに私は曖昧に笑った。

 本当は、私は聖女になんてなりたくなかった。神様扱いだってされたくない。

 私はただ化け物扱いされず、食事と寝る場所が欲しかっただけだ。

 その為に王家の、民の役に立つ存在であることが必要だった。  

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