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五十一話 最悪竜ザッハークとの戦い

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「私はその……生贄になった記憶はないのだけれど……」

 
 何故か気まずい思いになりながらロゼに言葉を返す。

 エミアと肉体の主導権を交代して以降ないない続きの記憶だが、流石に自分の死因位は覚えている。

 二百年前、攻撃魔法と飛行魔法が使えた私は「最悪の竜」ザッハークと相討ちになり生涯を終えた。

 私の光魔法は奴の両翼を吹き飛ばし、邪竜のブレスは私の体を焼いた。

 文字通り互いに身を削るような戦いをして私はザッハークの心臓を潰し引き換えに全身の骨を砕かれた。

 どちらがより長く呼吸を続けていたかはわからないが、それも僅かの違いだろう。

 確かに私は自分の命と引き換えに人類に敵対する最大勢力だったザッハークを斃した。

 そうすると身を捧げたという表現自体はある意味合っているかもしれない。

 力が拮抗したから相討ちになっただけで無抵抗で死ぬつもりはなかったけれど。

 そう、捕捉するように前世で亡くなった時の状況をロゼに説明した。

 気丈な彼女らしくなく若干青くなりながら私の話を聞いていたけれど、ロゼも貴族令嬢だ。

 しかも見せかけだけだとしても平和な時代に生まれ落ちたなら血生臭い話題に不慣れでも仕方がない気がした。

 ロゼの様子も気になったが、傍らで姉と一緒に話を聞いているアルのことも気になった。

 そういえば前世で彼が率いた騎士団もザッハークとの戦いについてきてくれていた。

 ザッハーク本体ではなく奴が呼び出す眷属たちを倒すのが役割だったけれど。

 あの巨竜は飛べる上に弓矢などではびくともしないから、弱点である光魔法と飛行魔法が使える私しか相手が出来なかった。

 ザッハークが死んだ後眷属たちはどうなったのだろう。アルを始めとした騎士団は生き残ったのだろうか。

 まるで私の疑問を見透かしたように彼は口を開いた。


「僕もあの戦いで死んだよ。 ……君は生きていてくれればいいと思っていた」


 生きるも死ぬも二百年前の話だけどね。そう口にしてアルは不器用に私から目を逸らした。

 ザッハークを斃した後の私がそうならなかったことを彼はきっと既に知っていたのだ。

 そしてその気持ちを抱えながら今まで。

 私が今、騎士団長時代の彼の死を伝えられ感じている痛みをずっと抱え続けていたのかもしれない。  


「……私は、今、生きているわ」


 そして貴男も生きている。

 私はそう彼に告げる事しかできなかった。そしてそれは私自身に対する慰めでもあった。


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