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四十九話 竜のいた国

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「王家の秘密……」

「そう、幼い兄王子を早々に悟らせ弟王子に死を恐れさせる何かが」


 きっとある。そうロゼは真剣な表情をして断言した。


「具体的には?」


 彼女の弟のアルが質問する。

 先程わからないと言ったばかりだろうと呆れた顔をしながらそれでもロゼは口を開いた。


「……たとえば関係の良くない国に和平協定の人質として王子を差し出すとかも考えたけれど」


 だとしたらセリス殿下が行方不明扱いにされる筈がない。

 即座に自身で考えを否定してロゼは溜息を吐いた。


「それに現状そんな関係の国はない。平和呆けしてもいいぐらいだと思うよ」

「つまり命を脅かされるとしたら国外の存在にではないってことか」


 肩を竦める姉にアルが自分の考えを付け足す。

 ロゼの平和呆けという言葉が何故か耳に残った。

 そうかこの国はそんなにも平穏なのか。竜や魔物と領土争いをしていた二百年前とは大違いだ。

 争いといっても竜と人間では膂力が違い過ぎて、戦士や攻撃魔法を使える者で無ければ一方的に殺されるだけだった。

 それに領土だって元々古くから住んでいた竜たちを倒して手に入れたものだ。

 竜は竜で人間を玩具にしたり食らう為に殺していたので一方的な侵略だとは思わないけれど。

 ある村では住処を荒らされたり食い散らかされる位ならと人間側から少女や少年を近くに棲む竜に差し出していたこともある。

 竜は私が倒したけれど、脅威が去った後村長や大人たちは言い訳をするように私に繰り返した。

 仕方がなかったのだ。弱い自分たちが生きて行く為には。子供たちは仕方のない犠牲だったのだと。

 村を滅ぼさない為の生贄だったのだと。


「……生贄」


 そうぽつりと言葉が口から零れた。不思議なぐらいにその考えはしっくりきた。

 ロゼだってセリス殿下のイメージを生贄の姫に例えていたではないか。

 王子二人の内どちらかが生贄にならなければいけなくて、兄は弟を庇って自ら犠牲となり死んだ。そしてそれをアリオス殿下は知っていた。

 でも何に対する生贄なのか。

 この国はもう平和になったのではないの?

 嫌な予感がした。

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