前世の記憶を取り戻したら貴男が好きじゃなくなりました

砂礫レキ

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四十八話 自己犠牲の理由

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 第一王子と第二王子。

 優先されるのはどちらの命か。


「そんなこと……」


 アルにしては珍しく言いかけて止める。けれど彼の言葉の先は分かっていた。

 ただそれを当たり前のように口に出す程彼も私も染まっていない。

 切り捨てられる側にそれを受け入れろと当然のように口に出来る程傲慢にはなれない。

 特に私は、エミヤは切り捨てられた側だったのだから。王命で死ぬとわかっている戦いに駆り出されて死んだ。

 なんとなく気まずい空気が部室に流れている気がした。


「どちらかが死ななければいけないなら……」


 ぽつりとロゼがアリオス殿下の台詞の一部を繰り返す。飄々としている彼女に珍しく真剣な表情をしていた。

 そうだ。どちらかが死ななければいけないなら皆自分を選ぶ。今よりも幼い彼はそう言っていた。

 皆というのが誰を指すのかはわからないけれど、彼が絶望しているのは確かだった。


「少なくともここ数十年は隣国との戦争もないし、王家で血生臭い事件も起きていない筈だけれど」


 なんで子供の彼がそこまで追い詰められていたのだろう。そうアルが不思議そうに言う。

 私はその問いかけに首を振ってわからないと答えた。

 二人で悩んでいると、今まで黙り込んで考え込んでいたロゼが顔を上げる。


「……私は、セリス殿下が失踪したのは弟に王位を継がせてあげたいからだと思っていた」


 つまり家出だ。そう彼女が口にした単語は王族のイメージには不似合いだった。だが笑う気にはなれない。

 しかし私にその考えはなかった。弟を王にするには自分の存在が邪魔だとセリス王子が判断するなんて。

 彼と面識があり性格を知っているロゼだからこそ、その考えに至ったのだろう。

 
「でも、大きな勘違いだったようだ」


 アリオスが兄が死んだと認識していた時から違和感は有ったんだ。

 そう男装の麗人は憂いの表情で赤い髪をかき上げる。


「あの王家には何かある。幼い王子たちが死を恐れ、あるいは弟を死なせたくないと自らを犠牲にする……そんな覚悟をさせるものが」


 だがそれが何かはわからない。

 彼女の悔し気な声が部室に響いた。

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